軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

彼の一番の理解者のはずですよ

「あ、そういえばコレどうしよう……」

先程投げられてきた本を手にしていたイストファは、裏表紙を何となく見て……その足を止める。

傭兵王国物語。そう書かれた本であり……それが先程の会話からしてもノーツの物語であるのは確実だった。

「……」

なんとなく椅子に座り、本を広げてみる。そこに記されていた文字は難しくはなく、イストファでも何とか読むことが出来て。内容としては、子供向けの英雄譚だった。

才能に恵まれた少年『ヴォーダン』が剣を持つと同時に強い大人やモンスターを打ち倒し、傭兵として活躍し、信頼できる仲間や女性に囲まれて自分の国を立ち上げる話。

ヴォーダンがノーツを名乗っていない時点で「どこか違う話」と分かってしまうが、それでもドキドキする話だとイストファは素直にそう思う。

(……この本だと、ノーツの国がどうして滅びたかは書いてないんだな……)

ノーツの国……傭兵王国は滅びた。ノーツは確か「魔法士に裏切られた」といったような事を言っていた気がするが……傭兵王国は火山の噴火で消えたという話もあったはずだ……とイストファは思い出す。

まさか今からノーツに再度聞いてくるわけにもいかないが、話を総合すると「魔法士が裏切った」結果、「火山の噴火」で傭兵王国は滅びたということになる。

「……でも、噴火ってなんだっけ」

「山が火を噴くことですね。火の魔力の暴走とも言われていますが、噴火が起こると周囲の土地に壊滅的な被害を与えると言われています」

「あ、ドーマ」

背後に居る、何やら本を抱えていたドーマにイストファが振り返ると、ドーマはイストファの横に座り本を覗き込む。

「これは……傭兵王の物語ですか」

「うん。なんか違うような気もするんだけど……」

「そうでしょうね。傭兵王の真実は噴火と共に消えました。後世に残っているのは、全て伝聞ですから」

言いながら、ドーマはイストファの肩を軽く叩く。

「ですが、たとえ幻影であろうとも貴方は彼と直接言葉と刃を交わしました。そんなものに頼らずとも、彼の一番の理解者のはずですよ?」

「……そうなのかな」

「ええ。むしろ余計な物語など、彼は嫌がるかもしれませんね」

言われて、イストファはノーツの顔を思い浮かべ……やがて「うん」と頷く。

「そうだね……そうかも。ありがとう、ドーマ」

「いえいえ」

本を閉じて机に置いたイストファは、ふとドーマの持っていた本が気になって表紙を見るが……何やら難しい言葉で書かれていて、思わず首を傾げてしまう。

いや、難しいというよりは……「見たことがない文字」というのが正しいだろうか?

一体何語なのだろう。そう考えるイストファに、ドーマは「ああ」と言いながら本を持ち上げてみせる。

「これが気になるんですか?」

「うん。たぶん共通語じゃない、よね?」

イストファの共通語判読能力はちょっと怪しいが、それでもたぶん違う。そんな自信のなさが出ている言葉にはドーマは言及せず「ええ」と答える。

「これはエルフ語ですね。今では使う人も少ない地方言語みたいなものです」

「へえー……」

「意外と共通語と共通点もあるんですよ? まあ、それについては置いときますけど」

言いながら、ドーマは表紙のタイトルを指で撫でる。

「此処に書かれたタイトルはアストゥール記、です。ダークエルフの遥か遠い先祖の話ですね」

「そんな本まで此処にあるんだ……」

「ええ。随分昔に略奪されたと聞きました。此処にあるのは分かってましたが」

「えっ……?」

略奪。その不穏な単語に動揺した様子を見せるイストファに、ドーマは苦笑で返す。

「過去の話ですよ。私が生まれるよりずっと前の……ね」

「でも……」

「遥か昔は、異種族戦争……ヒューマンやエルフ、ドワーフ……様々な種族が争い合った時代もあったそうです。『森を焼けばエルフが焼ける』なんて格言もあったそうですよ」

今は使われてないそうですけどね、と微笑むドーマにイストファは思わず「ええ……」という言葉が出てしまう。

とても想像が出来ないしどんな意味なのかも分からないが……とにかく、相当仲が悪かったのだろうということだけは理解できた。

「もしかしてドワーフとエルフが仲が悪いのって……」

「あ、それはもっと昔かららしいです。互いに生理的に受け付けないんだそうでして」

「ええ……」

「といっても、顕著なのはライトエルフだけですけどね。ダークエルフはそこまでじゃないです」

「そ、そうなんだ」

「そうなんです。まったく、困ったものですよライトエルフには」

あ、そういえばライトエルフとダークエルフも仲が悪いんだっけ……とイストファは思い出す。

同じエルフなのにどうしてそうなるのかは不明だが……こちらも問題は根深そうだな、と思いながらイストファは同意も否定も出来ずに曖昧な笑みを浮かべ「あ、僕この本戻してこなきゃ」と逃げ出すのだった。