軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そういうところ、カイルに似てます

「目……? 似てないと思いますわよ」

「形とかじゃなくて……えーと。なんだろう。似たような色をしてるっていうか」

「色も似てませんけど、まあ言わんとするところは分かりますわ」

そう言うと、ブリギッテは小さく息を吐く。

「貴方の感じているソレは……見た目ではなく、内面の話ですわね」

「え、ええっと?」

「フン、どうでもいい事ですわ。それより……ええと、ド庶民」

「イストファです」

「そうね、それでド庶民」

分かってて言ってるのか、とイストファはげんなりした気分になるが……何しろ雲の上の人だ。

文句を言うわけにもいかない。

「貴方、傭兵王についてはどのくらい知っているのかしら?」

「ノーツのことを?」

「……ノーツ?」

イストファの思わず出てしまった単語に、ブリギッテはピクリと反応する。

「……ちょっと待ってくださる? えーと、確か……」

ブリギッテは机の上の本を一冊抜き取ると、ペラペラと捲り始める。

「あった……これですわ。傭兵王ヴォ―ダンは子供の頃、ノーツという名前を名乗っていたという話が残っている……」

傭兵王ヴォ―ダンは子供の頃、ノーツという名前を名乗っていたという話が残っている。

これの真偽は不明ではあるが、傭兵王が幼少の頃に所属していたという傭兵団の元団長の話を聞いたという酒場の主人の伝えたというエピソードを中心に各地に残されているが……等と書かれた本の内容をイストファは覗き見て「んん……?」と疑問の声をあげる。

「……なんか嘘っぽいような」

「伝聞を纏めればこうなりますわよ。でも、貴方……何故こんなマイナーなものを?」

「あー……」

「そもそも、王城に上がってきた話からでは貴方が傭兵王の剣に酷似したものを手に入れた経緯が見えてこないのですけれど……?」

ノーツとの話は隠すようなことではないが……なんとなくブリギッテの勢いに押されてイストファは「あー……」とごまかすような声をあげる。

「それは、色々とありまして……」

「現代に蘇った傭兵王の魔剣……それが意味するところを貴方、本当に分かっていて?」

「え?」

「伝説の魔剣の1本が、貴方のようなド庶民の手にある。どう考えても家に受け継がれたものではない。すると、出所は……当然、ダンジョンと推測されますわ」

確かにダンジョンではある。まあ、正確には色々と違うのだが……ブリギッテの話を、イストファは黙って聞いていた。

カイルとは違う視点による話。しかし、それが重要であるように感じたのだ。

「これから、貴方の潜っているエルトリアのダンジョンの注目度は上がりますわ。そういうものが手に入る場所と見做される……そして、貴方に様々な手段で接触する輩も増えるでしょうね」

「……まさか、アサシン……」

ミリィを巡る騒動で戦ったアサシンを思い出しイストファはゴクリと唾を飲み込む。

ああいう手合いとあまりやり合いたくはない。

そう考えるイストファを見て、ブリギッテは肩をすくめる。

「いきなりそこまでいくかは疑問ですわね。それより貴族の地位を使って貴方に迫る方が簡単ですもの」

何しろ、とブリギッテは続ける。

「貴方はド庶民ですもの。貴族がその地位を存分に使えば圧力もかけられる……最悪、貴方エルトリアから出られなくなりますわね」

迷宮都市エルトリアはエルトリア迷宮伯の権威で守られた場所だ。

そこに手出しすることは他の貴族でも許されないが……逆に言えば、その範囲外に出れば手を出せるということでもある。

「そこまでして、剣が欲しい人がいるってことですか……?」

「お兄様は教えてくださらなかった?」

そう言いながら、ブリギッテは薄い笑いを浮かべてみせる。

「違うわね。お兄様には想像できないんだわ。この国の貴族は結構な割合で『想像を超える馬鹿』が多いって。なんだかんだ、お兄様は人がよろしいもの」

そう、ブリギッテからしてみれば、この国の貴族はかなりの割合で腐っている。

ダンジョンという鉱山があるおかげで色々と生活も安定し、向上を続けているが故だろうか。

それとも、他国との戦争が長らくないせいだろうか?

濁り切った沼の底の方がまだ清浄だと思えるような状態と化している。

今の王はまだ良いが……次代になれば、王という存在も腐るかもしれない。

そういう争いを王位継承者たちは現在進行形で繰り広げているのだから。

「早めに振り払える力を身に着けることをお勧めするわ。何もかもを、奪われたくないのでしたら」

そう言って、ブリギッテはイストファから視線を外して。

「ありがとうございます」

そう言って頭を下げるイストファに気付き、一気に動揺したような表情に変わる。

「は、はあ!? 何がですの!?」

「たぶん、僕の事を心配してくれたんですよね」

「な……」

「そういうところ、カイルに似てます」

「……!」

ブリギッテは口を開いたり閉じたりと何かを言おうとして言えないような仕草を繰り返し……やがて、机をバンと叩く。

「……このド庶民!」

「え!?」

「貴方如きが私を分かった気になるなんて、何様のつもりかしら!? さっさと何処かに行きなさい、この!」

「うわあっ!?」

投げられてきた本をキャッチすると、イストファは顔を真っ赤にしたブリギッテから逃げ出す。

それをブリギッテが追ってくることは……無かった。