軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

水臭い事言うんじゃねえよ

結果から言うと、ヘンドリクソンは生きていた。

まあ、死んでいない……というのが正しい表現かもしれないが、それはともかく。

物理的な傷は回復魔法で治っても、精神的な傷が酷いというのは医者の見立てだ。

そして当然のようにステラはお咎めなしだった。それがどういう理由によるものかは、イストファ達には分からないのだが……「政治的力学だな」とはカイルの言葉ではあった。

「ったく……規格外ってのはアイツの為にあるような言葉だな」

「あ、あはは……」

「まあ、ステラですからね」

「王族に平気で手を出すんですから、凄いですよねえ……」

王城のカイルの部屋に集まったイストファ達は、そんな会話を交わしていた。

王との直接会談で色々と決まったらしく、パーティーの類は行わない……というのは先程聞いた話だった。

主賓となるステラが嫌がるからというのが理由であるらしいが、実際どうであるかは分からない。

「ステラが嫌がるからってパーティーも無くなるんですから、凄く気を遣われてますよね」

「その辺り、実際どう思いますカイル?」

「ああ? どうもこうも事実だろうよ」

ドーマとミリィにカイルはそう答え、肩をすくめる。

「ま、ステラと縁を繋ぎたい貴族連中は文句を言いそうだが……繋がるのは冥界との縁だと思うんだよな、俺は」

「ああ、カイルのお兄さんみたいに」

「そういうこった」

ヘンドリクソンが空高く打ちあがった件は、カイル達も知っている。

ステラは常識人ぶってはいるしイストファと居る時には実際そうであるが、本質的には怪物に近い。

言ってみれば、好き嫌いが激しく、その気になれば世界を覆しかねない巨大な力の塊だ。

そうならないのは、本人が人間社会のルールを尊重し従っているからに過ぎない。

しかし気に入らなければヘンドリクソンのような事になるのも明らかではある。

「ま、親父はその辺織り込み済みだったみてえだがな」

言いながらカイルは本を捲る。

自室というよりは書庫じみたこの部屋は、カイルの集めた様々な知識の源泉でもある。

「おかげで、こうして調べ物もできるってわけだが……」

言いながら、カイルは本を閉じる。

イストファ達も手伝ってはいるが、カイルの本を読むスピードは桁違いだ。

「ダメだな。俺の部屋の本じゃ、やはり俺が知ってる以上の事はない」

「まあ、それはそうなんでしょうが……」

「読み逃しや忘れてる事もあると思ったんだがな……どうやら俺は、自分が思ってた以上に天才らしい」

フッと笑うカイルにイストファは苦笑し、ドーマやミリィは困った人を見るような視線を向ける。

最近はちょっと鳴りを潜めていたが、カイルは元々こういう性格だと思い出したのだ。

「やはり巨獣大陸ガルファングについては、別の場所で調べるしかなさそうだな」

「別の場所って……」

「王立図書館だ」

王立図書館。王都の中心部に存在する大図書館であり、一般人から学者まで、様々な人間が集まる場所でもある。

知識とは広く公開されねばならぬという当時の王の指示により建てられた図書館ではあるが、現実的には一部の人間しか入れないような書架などもあったりする……が、それはさておき。

王都で一番知識が集まる場所であることは確かだ。

「前にこっちに居た頃は、外出るのもいちいち面倒だったから出来なかったが……今の俺は一冒険者だからな」

「あー……王子様ですもんね」

「それもあるが、ナメられてたからな。ついてくる騎士も色々と命令書を通さねえといけなかったんだ」

機嫌悪そうに言うカイルに、全員が何とも言えない顔をする。

分かりやすい手柄をあげた今は、騎士達もそういう態度を見せないが……そういう時もあったのだろう。

「ねえ、カイル」

「ん?」

「たぶん、カイルの『見返す』って目標は達成したよね」

カイルと初めて会った日の事を思い返しながら、イストファはカイルにそう問いかける。

「なら……」

「水臭い事言うんじゃねえよ」

イストファがそれ以上言う前に、カイルはイストファの肩を叩く。

「俺の今の夢は大魔法士だ。それも俺自身が納得出来るような……そんなのだ。まだまだ先は長いぜ?」

「カイル……」

「それよりお前はどうなんだ、イストファ。一流の冒険者ってのも目の前って感じだぜ?」

言われて、一瞬イストファは言葉に詰まるが……すぐに、返して貰った腰の短剣に触れる。

傭兵王の魔剣ルーンレイカー。どうやらそれに変わる能力を秘めるようになったこの短剣は、元はと言えば始まりの金貨1枚を元手に買ったものだ。

しかし、今となっては大事なイストファの相棒でもあった。

「僕は……いけるところまで行ってみたいな。僕自身が何処まで出来るのか、試してみたいんだ」

ノーツとの出会いは、イストファの中にある種の変革をもたらした。

一代で国を築き、そして国と共に滅びた男。

その技を受け継ぎ、そして剣をも受け継いでしまった今、イストファは自分というものを測りかねていたのだ。

「そうか」

「うん」

「ま、お前がそう言うなら俺も付き合うけどよ……そのアルスレイカーのこともあるしな」

「……えっと?」

「アルスレイカーだ。意味としては……まあ、ルーンレイカーの鞘ってところだな」

造語だがな、とカイルは付け加える。

なるほど、確かに合っているとイストファも思う。

「そっか。アルスレイカー……か」

「それほどのもんに銘がついてないのもアレだしな」

「いいじゃないですか」

「ええ、ボクもそう思います」

ドーマもミリィも同意し、イストファは短剣……アルスレイカーと名付けられたそれを抜き放つ。

「……改めて、これからよろしく。アルスレイカー」

短剣は……アルスレイカーは当然、答えるような事はない。

だが、光を受けキラリと輝くそれは……まるで、頷いているようにもイストファには見えた。