軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不意をつけたらいいんだけど

そうして、二日後。イストファ達は再び第8階層に立っていた。

ギラギラと照り付ける太陽は今日も明日も眩しいのだろう。

遠くの景色が歪んで見えるその光景を、イストファは感嘆の息を吐きながら眺める。

「凄いなあ……コレ、魔法的なものじゃないんでしょ?」

「ああ。俺も詳しい原理まで知ってるわけじゃねえが、暑い場所で発生する自然現象らしい」

「そういえば聞いた事がありますね」

「へえー……」

イストファに続いてミリィも驚いたように頷き、4人は遠くを見回す。

この場所は相当に暑く、いるだけで汗が噴き出てきそうだ。

その対策として、4人の腰に水筒が括り付けられているのが印象的だ。

「ともかく、此処じゃ暑さが最大の敵だ。水と塩。こいつを定期的に摂らないといけねえんだ」

「酷暑病……だっけ?」

「ああ」

この第8階層の命名の元となった『本物』の巨獣大陸ガルファング。

その近辺では、謎の熱病のような症状で倒れる者が続出したという。

何故。それを探求した医者が発見したのが「酷暑病」と言われる病気であり、水と塩の不足が原因であると結論付けた。

その証拠だろうか、塩と水の定期的補給により酷暑病は事実上根絶され、それを切らす前に帰還する事が重要であると医学書にも書かれるようになったのだが……それはさておき。

「この階層の探索にどれだけかかるか分からねえ。無理せずに行くぞ」

「うん。気をつけるよ」

「というか、一番気をつけないといけないのはカイルですよね?」

「あはは……ボクもですけどね」

「うっ」

一番体力のないカイルが呻いたのを見て全員が笑い、そうしてイストファを先頭に歩き始める。

歩く度に乾いた大地が砂塵を舞い上げ、僅かに吹く風もまた熱い。

今までのどの場所とも違う環境は、緊張感と共に僅かな高揚感をも齎していた。

それ故だろうか。その違和感に気付いたのは、ほぼ同時だった。

「何か来る……!」

それは、大地の揺れる衝撃。地震のようで、そうではない何か。

重たいモノが、大地を踏みしめ進む音。

「右! 気をつけ……」

叫んだイストファが、そして僅かに遅れて全員が「えっ」と間抜けな声をあげた。

それは、一言で言うのであれば「象」であった。

勿論イストファはそんな生き物は知らず、カイルも本で知っているだけだ。

しかし特筆すべきはそこではなく、その大きさ。

大人3人分よりも更に大きいのではないかと思われる、その巨体。

大きいと本で知っていても尚巨大なその姿に、カイルですら一瞬頭が理解を拒む。

いや……事実、動物としての「象」よりも更に巨大な独自種であるのだろう。

その足ですらイストファ達を踏みつぶしそうなくらいに巨大で、人間くらいならば一突きで粉砕しそうな角。

丸太ですらへし折りそうな鞭の如き長い鼻。

そして……防御力の高そうな、表皮。

そんな生き物が、イストファ達に向かって走ってくるのだ。

「な、何アレ」

「分からん。象系統のモンスターだとは思うが……」

「カイルの魔法でアレって」

「……一発で仕留められなかったら粉々になるな」

イストファ達は頷き合った後、イストファがカイルを、そしてドーマがミリィを抱え上げる。

「逃げろおおおお!」

叫び、走り出す。

いくらなんでも巨大すぎる。あんなもの、何の準備もせずに相手できるわけがない。

単純な論理だが、デカいは強い。

多少腕に覚えがあろうが、デカいものは小さいものをいとも簡単に踏み潰せるのだ。

走って、走って。そうして逃げ切った先で、イストファ達は噴き出る汗を拭いながら塩を舐める。

「あ、アレがこの階層の標準サイズ……なのかな?」

「分からん。アレが最大サイズだと思いたいが……」

イストファ達も、強くなった自信はある。

あるが……あんな巨大なモンスター相手では、前衛も後衛もあったものではない。

たとえイストファがあのモンスターの上に駆け上ったところで、その間にカイルが踏み潰される事態だって充分に有り得るだろう。

「ともかく、どの程度戦えるか探らなきゃいけねえが……」

「まずはカイルの魔法だよね。それと、僕の剣……」

「ああ。弱点突いて倒せるなら、まだやりようもあるしな」

そんなものがあるかどうかは不明だが、試してみる価値は充分にある。

「あとは……ミリィの呪法って通じるかな?」

「うっ、どうでしょう。あんな大きい相手にどれだけ通用するか……」

イストファに言われたミリィは、自信なさげにそう答える。

まあ、当然だ。ミリィの呪術は相手が強大であればあるほど効きが薄い。

無論、ミノタウロスとの戦いの時のように相手が強大であるからこそ高い威力を発揮する呪法もあるが……そんなものを乱用していては命が幾つあっても足りはしないだろう。

「不意をつけたらいいんだけど」

「だな。さっきみたいに真正面から突っ込んでこられたら、下手すると俺が死にかねん」

ドーマに防いでもらうのも無理だしな、と言うカイルにドーマも「そうですね」と苦笑する。

たとえホーリーレインの魔法を使ったところで、足止めにすらならないだろうと分かっているからだ。

「それじゃあ、モンスターを……探して……?」

言いかけたイストファの上に、フッと現れる影。

思わず見上げたその先には……先程の象程に巨大な鳥の姿。

ギロリと睨みつけてくる巨大鳥が、その嘴を開いて。

「うわあああああああ!」

「逃げろおおおおおお!」

再びイストファ達は逃走し……カイルの帰還の宝珠がまた1個、消費される事になったのだった。