軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

僕、カイル絡みだと思ってるんだけど

3人の入った食堂は予想通りに混みあってはいなかったが、逆に空き過ぎという雰囲気すらあった。

「いらっしゃい」

「3人です」

「ええ、どの席でもお好きに」

ガラガラの店内を示してみせる店員にイストファは訝しげな顔をしつつも踏み込まないようにするが、カイルが「どうした? なんか空いてるな」と聞いてしまう。

「客が古い食材で腹でも壊したなら言ってくれよ。今から別の店にする」

「そんな話じゃないですよ……ていうか、そういう事言うってことは、ダンジョン帰りですか?」

「まあな」

カイルの反応に納得したように店員は頷くと、店内を指し示す。

「とりあえず、お席で何か注文でもしてください……店長睨んでるし」

「あ、はい。それじゃ……」

適当な席についたイストファ達についてきていた店員が「じゃあ、ご注文は」と聞けば、3人から返ってくるのは実にバラエティに満ちた答えだ。

「じゃあ、安いセットとかがあれば……」

「一番美味いやつ」

「野菜多めのがいいですね」

「てんちょー、肉野菜炒めのセット3つでー」

「おい」

カイルの抗議を聞き流した店員に料金を支払い終わると、空いている席に店員が座る。

「で、えーと……何があったかでしたっけ?」

「まあな」

「え、本当に何かあったんですか?」

頷くカイルとは違い驚いたような顔をするイストファに、店員は頷いてみせる。

「そうですよー。なんか知らないですけど、どこぞのお貴族様の私兵が結構な数来たみたいで。衛兵隊もそっちの対応にかかりきりみたいです」

「お貴族様?」

「ふむ……」

イストファとドーマの視線がカイルへと向くが、カイルはパタパタと手を振りながら「そりゃめんどくせえ話だな」と心底ウザそうな顔をしてみせる。

「一体何処の何方様の差し金なんだ? それは」

「さあ……そんなの私達みたいな下々まで伝わりませんし、誰だろうと対応は変わりませんしね」

「まあな」

そうカイルが頷いたタイミングで店員は店主に呼ばれ歩き去っていくが……それを見送るとカイルは「ふう」と溜息をつく。

「間違いなく厄介ごとだな」

「ていうか……僕、カイル絡みだと思ってるんだけど」

「私もです」

「違う」

イストファとドーマの視線を五月蠅そうに払いながら、カイルは否定する。

「誓ってもいいが俺には関係ねえ。説明したくねえが、ちゃんと根拠もある」

「ふーん……なら違うんだ」

「えっ、今ので納得するんですか?」

頷くイストファにドーマは驚いたような表情を向けるが、イストファは「うん」と肯定してみせる。

「カイルは、こういう時には嘘つかないよ」

「こういう時ってなんだよ。俺は正直者だろが」

「うーん……」

苦笑するイストファにカイルは「このやろう……」と呟くが、すぐに気を取り直してテーブルをコツンと叩く。

「とにかく、貴族の私兵が何が目的かは知らんが入り込んでるってことはだ。何かしらのロクでもねえ話が進行中なのは間違いない」

「言い切りますね」

「ロクでもない話って?」

イストファの質問にカイルは少し考え「さあな……」と答える。

「それを判断するには材料が足りねえよ。だが『結構な数』ってのは気になるな。衛兵隊と小競り合いになってねえってことは、ダンジョン利権を力ずくでどうこうってアホな話じゃねえようだが」

「どうしてですか? ダンジョンで得られる利益は相当のものと聞きます。貴族であれば争いになってでも欲しいのでは?」

そんなドーマの問いに、カイルはフンと鼻を鳴らす。

「ねえよ。ダンジョンは世界各地にあるが、この国でダンジョンを管理するのは王に権利を認められた『迷宮伯』だ。このエルトリアのダンジョンはダンジョンの中では新しい方だが、ちゃんとエルトリア迷宮伯が管理してる。戦争なんぞ仕掛けたら、下手すると国軍が来るぞ」

それ程までにダンジョン利権というものは大きく、そして国の経済と大きな繫がりがある。

その権利と引き換えに迷宮伯が国庫に多大な物品や金を納付しているからこそ、迷宮伯の利権もまた国によって強く守られている。そこに手を出す貴族などいるはずがない、とカイルは説明する。

「実際歴史を振り返れば、迷宮伯に関わる政争の類には必ず王が関わってくる。迷宮伯っつーのは政治的な力は無いものと定義されちゃいるが、一番王に庇護されてる貴族なんだよ」

事実、何人か居る迷宮伯達の中で何らかの役職についた者は居ない。

この辺りは政治的なバランスの話であるらしいが……まあ、それは今はあまり関係のない話だ。

「ともかく、迷宮を巡る何らかの問題ってのは一番有り得ねえ話だ。となると個人的な問題が発生したってことになるが……それが何であるにせよ、関わりたくはねえな」

「個人的な問題……あ、ダンジョンで何か欲しいものがあるとか?」

「その貴族の家に泥棒が入って追いかけてきたとかはどうでしょうね」

イストファとドーマにカイルが「さあな」と答えたタイミングで、先程の店員がお盆に料理を乗せて運んでくる。

「はーい、お待ちどうさま。肉野菜炒めとパン、それと果物ジュースのセットです!」

「ありがとうございます」

「……このメニューに果物ジュースって、合わねえんじゃねえか?」

「美味しそうですね」

言いながらも3人は食事に手を伸ばし食べ始める。

食堂の扉を壊す勢いで数人の男達が入ってきたのは、その直後だった。