軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その金貨1枚が君の人生を変えた

そしてスープを飲み終わった後、4人は再びダンジョンから帰る道を歩き始める。

この時間でも精力的に動いている冒険者は居て、時折すれ違っていくが……イストファが会った事のない顔も多い。

ダンジョン探索を始めてから他の冒険者と交流も少なくなってきているのもあるが、それでも1年や2年たったわけでもないのに、だ。

それがイストファには不思議で、「なんでだろう」という疑問が心の中に浮かび上がってくる。

「どうしたの?」

「いえ、その。知らない人が結構多いなって」

「でしょうね。この街は今、人の流入が激しいから」

「そうなんですか?」

「いわゆる成長期……ってやつね」

そうなんですか……と頷きながらもイストファはまだよく理解できず、自分の中でステラの言葉を考える。

成長期……つまりこれからまだまだ成長するということだから、人がこれからもたくさん増えるということなのだろう。そしてそれがダンジョンと関連しているのは言うまでもないが、そうなると「冒険者になりたい人間がそれほどまでに多いのか?」という疑問に繋がってくる。

勿論イストファ自身も冒険者になろうと田舎から出てきた身ではあるが、同じような人がそんなに溢れているのだろうか、と考えてしまうのだ。

しかし明らかにお金には困っていないカイルのような例は……まあ、別としてドーマもイストファと同じであるとは思えない。

「そういえばドーマはどうして冒険者に?」

「ん? お話した事はありませんでしたっけ? 神官として成長する為ですよ。まあ……今は神官戦士ですが」

「有名な神官はダンジョン経験者ばっかりだしな」

ドーマにカイルも同意するように頷き、イストファは「そっか」と頷く。

そういう目的の者もいる。神官でなくとも、修行目的という人間も多いだろう。

けれど。それは常の事ではないだろうか?

成長期という言葉と繋がるとはイストファには思えなかった。

「ん、んんー……」

悩むイストファにステラが「そんな悩む事でもないわよ」と笑う。

「簡単に言えば、景気が良いって事よ。冒険者を中心に経済が回ってる……とっても良い事ね」

「なるほど……」

「迷宮都市ってのはな、良くも悪くも冒険者が中心なんだよ。鉱山の鉱夫みたいなもんだ」

「その言い方はどうなんでしょう。いえ、間違ってはいませんけど」

事実、ダンジョンから様々なものを持ち帰ってくる冒険者は鉱夫のようなものだ。

冒険者の持ち帰ってくる品々が経済を動かし、しかも尽きることがないとされている。

これで発展するなという方が無茶というものだ。

「だがまあ、景気は良いかもしれねえが、その分治安は悪くなるわな」

「……」

それは、イストファ自身がよく知っている。

冒険者だっていい事ばかりではない。成功する者もいれば、落ちぶれ者になってしまう者だっている。

イストファ自身が、この前までそうだったのだから。

そして……今も路地裏には、この前の騒動で摘発されなかったのであろう落ちぶれ者達の姿もある。

あの日、あの時。あの金貨1枚で変わらなければ、イストファだって……今も、きっと。

「……僕だって、少し前までは『そっち側』だったんだよね」

思わずそう呟いたイストファの背中を、カイルとドーマが同時に大きく叩く。

身体能力で遥かに勝るイストファはビクともしなかった上に金属鎧を叩いたカイルがちょっと涙目になっていたが……それはともかく。

「バカ言ってんじゃねえよ」

「そうですよ、イストファ。怒りますよ?」

「え、ええ……?」

戸惑うイストファに、カイルが「そもそもだな」と指を1本たてる。

「お前は『違う』さ。諦めなかったんだからな」

「カイル……」

「ま、そういうことね。私がイストファを見出したのは確かだけど、大事なのはイストファ自身の努力。それが原点であることを忘れちゃいけないわ」

頷くステラの手には、あの日と同じように金貨1枚が握られていて……キィン、と涼やかな音をたてて金貨が空中を舞い、再びステラの手に収まっていく。

「たとえばだけど。今のイストファがこの金貨を貰ったら、どうする?」

「返します。だって、今でも充分すぎるほどなのに」

「そういうことじゃないのよねえ」

ステラは苦笑すると、カイル……を見てフッと笑うと視線を逸らし、ドーマへと視線を向ける。

「ドーマ、君ならどう?」

「おい、なんで俺をとばした」

「私ですか、うーん……」

「おい」

「ちょっとカイル」

イストファがカイルを押さえている間もドーマは立ち止まって悩み、イストファを……正確にはその腕についた小盾を見る。

「イストファの小盾を直すのに使いますかね。いや、予算が金貨1枚あるならもう少し上質な盾を買ってもいいかもしれません」

「なるほど、その理由は?」

「今の私に有効な使い道が浮かびません。なら折角の頂き物なのです。より役に立てられる仲間の為になった方が金貨も嬉しいというものでしょう」

確かにイストファの小盾は壊れたままだ。いや、まだ盾としては使えるが……表面の鋼鉄部分が一部剥がれてしまっている以上、今まで同様の防御力は期待できない。

「つまり、こういう事よイストファ。君はさっき充分だと言ったけど、それは言ってみれば今が満たされてるっていう証明でもあるわね。たかが金貨1枚が持っている力なんて、その程度のものよ」

「……でも……」

でも、それでイストファの人生は変わった。けれど、ステラの言う事が分かるだけにイストファには反論の言葉が見つからない。そして……そんなイストファの表情の変化を、ステラはしっかりと感じ取っていた。

「ええ、そうね。その金貨1枚が君の人生を変えた。抜け出す為の踏み台に出来た。どうするべきか、正しく理解できた。だからこそ……ちょっと」

いつの間にかイストファの両側でガッチリとイストファと腕を組んでいるカイルとドーマに気付き、ステラは不満そうな声をあげる。

「何してるのよ、今はちょっと良いとこでしょう?」

「いや、次何するか見えてたしな」

「イストファに関する諸々は感謝しますが、私達の方が一緒にいる時間は長いんですからね」

言いながらイストファを連行するようにスタスタと歩き始めるカイルとドーマ、そして半ば引きずられるように歩いていくイストファ。

「うわわ、ちょ、2人とも!?」

「今日も俺の部屋来いよ、イストファ。友情を深めようぜ」

「私も同じ宿にしましょうかね……?」

そんな事を言いながらイストファを連行していくカイル達を見送り……やがてステラは耐え切れなくなったように吹き出す。

「ふ、ふふっ! イストファってば、本当に好かれてるのね!」

イストファにも言った通り、たかが金貨1枚に人生を変える力なんてない。

けれど、そう……けれど。

たった1枚の金貨が、人生を変える事だってある。

「待ちなさい、こら!」

そう叫んで、追いつくか追いつかないかといった程度の速度でステラはカイル達を追いかける。

空に浮かぶ月は綺麗な金色で……まるで、輝く金貨のようであった。