作品タイトル不明
安くしてんだぞ、これでも
「買い直した方が早ぇぞ」
第4階層への到着から次の日。朝一番でフリート武具店に来たイストファに告げられたのは、そんな言葉だった。
「う、そうですよね……」
カウンターに乗せられているのは、第3階層「末路の海域」の守護者であるキャプテンスケルトンとの戦いで破損した小盾。
鋼鉄を表面に貼る事で防御力と安さの両方を実現したものだが……今回の破損はそれが裏目に出た形だ。
「がっつり壊れてやがるからな……直そうと思えば直せるが……ああ、いや。色んなところがガタガタになってやがる。しっかり使った証拠だな」
「うう……」
「褒めてんだよ、胸張れ」
言いながら、店主のフリートは小盾をコツンと叩く。
「こいつはウチで引き取るから、新しい……もっと上の盾買ったらどうだ? お前の事だ。また階層上がったんじゃないか?」
「あ、はい。4階層に着きまして、それで」
「ほー! やるじゃねえか!」
ワハハ、と大きな笑い声をあげたフリートにイストファは「ありがとうございます」と答え……その大声に、店の奥……生活空間となっている場所から看板娘のケイが顔を出す。
「ちょっとお父さん何朝から……って、イストファ君!?」
「おはようございます、ケイさん」
「うん、おはよう! 今日は買い物?」
「ええ、そうなんです。実は……」
「あー、ケイ。奥行ってろ。話が進まん」
あ、ちょっと……と不満そうな声をあげるケイの背中を押して奥へと進んでいったフリートはしばらくすると、頬を掻きながら戻ってくる。
「ゴホン。あー……で、4階層に行ったって話だったか?」
「はい。それで今はカイルとドーマも別行動してるんですけど、4階層で必要な道具も此処で揃えようって話になってます」
「ウチは武具店であって雑貨店じゃねえんだがな……まあ、あるけどよ」
言いながらフリートは「在庫はどうだったか……」と店の中に視線を巡らせ、少し悩んだ後に店の奥から覗いていたケイに「ちょっとイストファ達に合いそうなサイズのマントを倉庫から出してきてくれ。3つだぞ」と声をかける。
「マントですか?」
「厚着なんかしてってみろ。あっという間にモンスターの餌だ」
言いながらフリートは「あとは盾だな……」と言いながら壁にかけてある盾の幾つかに視線を巡らせる。
「買い直すつもりがあるんなら、幾つか見繕うが。どうだ?」
「はい。お願いします」
「おう、任せろ」
言いながらフリートは店の中を回り、3つの小盾を抱えて戻ってくる。
カウンターに並べられたそれらは、どれも特徴の違うものだった。
「左から黒鉄の小盾、鋼鉄の小盾、んでもって最後は見た目は前のと同じだが内部が黒鉄製に変わった盾だな。値段はそれぞれ2万イエン、12万イエン、3万イエンだな」
「やっぱり鋼鉄製のは高いんですね」
「おいおい、安くしてんだぞ、これでも。ちなみに俺のお薦めは鋼鉄のやつだ」
「ですよね。一番堅いですものね……」
「ん? お、おう」
高いからだ、と冗談を言おうとしたフリートはイストファの素直な返事にそっと視線を逸らし咳払いをする。冗談が通じない相手はそれなりにいるものだが、空気が読めないのではなくひたすら素直な相手は中々にやりにくい。
まあ、それもいいところなのだろうが……と思いながら、フリートはイストファの纏う鎧に目を向ける。
「……そういや、その鎧」
「あ、はい。カイル達が僕の武器と防具の強化は最優先だっていって分配分とは別に魔石をくれたんです。有難いんですけど、ちょっと申し訳なくて……」
「ふむ。そういや鎧を見せに来いって話もしてたな」
「はい。ちゃんと覚えてます。それもあって、こんな時間にお邪魔したんですけど……」
「ちょっと見せてみろ」
言いながらフリートはイストファに近づき鎧を確かめていく。
その結果……フリートの見立てでは、通常の黒鉄よりは少し上質な程度、といった材質に変わっているのが理解できた。
「短剣の方はどうだ?」
「はい、これです」
鞘ごと渡してくるイストファの警戒心のなさ……あるいは自分への信用度の高さに苦笑しながら、フリートは鞘から短剣を少し抜く。そこにあったのは……鎧よりも更に上質な黒鉄の輝き。
「……なるほどな。よく育ててるみてえだ」
頷くとフリートはイストファに短剣を返し、カウンターの上に乗せていた小盾をガチャガチャと片付け始める。
「え、あれ?」
「ちょっと待て。お前に勧めるもんを間違えたな」
言いながら、フリートは小盾をどかし終わると、カウンターの下から布に包んだ何かを引っ張り出す。
イストファ用、と書かれた木札のつけられたそれを見て、イストファは思わずフリートの顔を見る。
心の底から驚いた、と言いたげなその顔にフリートは満足そうにニヤリと笑うと布を外す。
すると……そこにあったのは、先程カウンターの上に乗せられていたものとはデザインこそ少し違うが、同じく黒鉄製の小盾だった。
真新しい輝きを放つ黒鉄の小盾とフリートを見比べるイストファの前でフリートは黒鉄の小盾をコツンと叩いてみせる。
「もう分かってるだろうが、こいつは迷宮黒鉄の小盾だ」
「え、でもこれって……」
「在庫の迷宮黒鉄の武具を溶かしてな、ちと造ってみた」
「え、ええ!?」
わざわざフリートが自分の為に一から小盾を造った。その事実にイストファは絶句し……そんなイストファの前でフリートは小盾を持ちあげてみせる。
「黒鉄としての質は正直言ってクズではない程度の並だから、さっき見せた黒鉄製のと比べると性能は大きく下がるんだがな。だが、あの鎧をそこまで成長させられるんなら、むしろ将来性はこっちの方があるだろうな」
「僕の、為に……?」
「おう。お前の為だ。ちなみに値段だが……こいつなら、そうだな。これからも定期的に迷宮武具を見せに来るっていう条件付きだが」
1万イエンでいいぞ、と。フリートはそう言って笑った。