作品タイトル不明
だから言ったじゃないの
少なくとも必要とされる魔法は冷気に対する耐性、そして足元をどうにかする魔法。
しかしながら前者はともかく、後者はカイルには浮遊の魔法くらいしか浮かばない。
そして冷気耐性のような魔法は一時的なものならともかく4階層探索の間ずっと発動しているのは難しい。それに、何よりも……カイルの買った情報から判断する限り、冷気耐性に魔力を割く余裕はない。
「さて、イストファ。残りの答えがまだね?」
「モンスター、ですよね」
黙り込むカイルからステラへ視線を戻すと、イストファは顎に手をあてて考え始める。
この山の上、そして冬のようなこの階層の気候。それ等から考えると「寒さに耐性を持つ生き物」、あるいは……。
「空を飛ぶ生き物、でしょうか」
「うん、正解よ。この階層に出る魔物の多くは何らかの飛行能力を持つモンスターよ。地を這う生き物の不自由さを感じるが故に、この階層は『天空の牢獄』なんて呼ばれているってわけね」
そう、足場の制限された箇所の多いこの天空では、空舞う者こそが覇者。それを越えてゆかねばならないのだ。
「さて、では……それを踏まえた上で、貴方達はどう行動するのかしら?」
「……皆で相談しなきゃですけど、一度戻るのが正しいと思います」
頷くステラから視線を外し、イストファは2人へと振り向く。
しかし相談するまでもなく、カイルとドーマの答えは決まっている。
「……まあ、そうするしかねえな」
「ですね」
「じゃあ、話は決まったみたいね」
言いながらステラが取り出すのは帰還の宝珠。その輝きを見て、イストファの瞳には心配そうな色が宿る。
「あの、僕達なら自分で戻れます。そんなご迷惑をおかけするわけにも」
「あら寂しい。確かに一緒に行動はしてないけど、同じパーティメンバーでしょ?」
「そうかもしれませんけど……ステラさんはお仕事中ですし」
心の底からステラの事を考えているのが分かるその表情に、ステラは思わずイストファの頭を撫でる。
「え? うわっ」
「うんうん。でもね、心配はいらないわよ。どのみち何か手を考えないといけないところだったし」
「……なんだよ。そんな面倒な敵なのか?」
「面倒っちゃ面倒かしらねー。中々出てこないんだもの」
言いながら不満げな表情をするステラにカイルは疑問符を浮かべる。
出てこない……つまり臆病なモンスターということだとして。わざわざ金級が出張るような相手なのだろうか、と。
しかしまあ、考えていても答えは出ない。
「なんてモンスターなんだ?」
「んー……教えてもいいけど」
言いながらステラは手の中の帰還の宝珠を握る。
「とりあえず帰りましょ。お腹空いちゃった」
「あ、はい! ……と、そうだ。登録の宝珠に触れておかないと」
そうして宝珠に触れた後、ステラの服の裾を掴むイストファの手をドーマが握って、カイルも肩を竦めながらイストファの肩を掴む。それを確認したステラが帰還の宝珠を起動させ……4人はあっという間に地上へ戻ってくる。
「うわ、もう暗いね……」
「迷宮の中にいると時間感覚が狂うな」
そんなイストファとカイルの言葉通り、外はすでに真っ暗だ。
煌々と明かりが灯されているからこそ周囲は明るいが、空にはすでに月や星が輝いている。
「けれど、助かりましたね」
言いながらドーマはダンジョンの入り口へ振り返る。
「流石に3階層を逆走するのは、かなり疲れますし」
「……まあな」
「あはは……そうだね」
ドーマの言葉にカイルは再び渋い顔になり、イストファも苦笑する。
ただでさえ3階層はアスレチックじみていたのだ。帰るために逆走となると、何処かで休む必要が出てくるが……ダンジョン内での安全地帯の確保は3人にはノウハウがない。
「その辺りも考えるか、あるいは帰還の宝珠の安定入手をどうにかしねえとな……」
「もっと手に入れる手段は無いのかな」
「宝箱に挑戦できれば可能性はあるかもしれませんね」
「罠があるんだっけ。なんとか回避できないのかな?」
ワイワイと話し合う3人を、ステラは口を出さずに見守る。本当に3人が仲がいいと分かっているからで、そこに自分が口を出すのは野暮というものだ。だが、イストファ達の視線に気付きステラは「どうしたの?」と笑う。
「あの……ステラさんって、宝箱は……」
「開けてるわよ……という答えじゃなくて、どう開けてるか聞きたいって話よね」
言いながら、ステラは空中へと視線を彷徨わせる。
「あ、もし何か秘密とかであれば」
「いやー、そういうわけじゃないんだけど。これ、教えていいのかしら」
「なんだよ。何か革新的な方法なのか?」
カイルの少し興味を惹かれた風の視線に、ステラは「そういうわけでもないんだけど」と頬を掻く。
「普通に開けてるわよ」
「えっ」
3人分の声の重なった「えっ」にステラは少し恥ずかしそうに笑う。
「いやほら、だって罠の基本って矢に針、噴射、アラーム、爆発と……ミミックってところでしょ?」
「でしょって言われても……」
「いや、実際そういうところらしいぜ。どれも場合によっちゃ死ぬがな」
「毒で動けなくなることもあるらしいですしね」
頷く3人に、ステラも「そうね、その通りよ」と頷く。
「でもまあ、私の場合……射出系は避けるし噴射系は初撃がくる前に破壊できるし、爆発も避けるしミミックは一撃だし。爆発で中身がダメになる以外は、デメリットないのよね」
「うーわ……何の参考にもならねえ」
カイルのそんな感想に……ステラは「だから言ったじゃないの」と不満そうに頬を膨らませる。