軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遺憾だが、こいつが今の俺の

第2階層、暴食の樹海。

その守護者はマンイーター。人を喰うモンスターは数あれど、初めてその名を冠した植物モンスターだ。

何故そうであるかは……イストファ達の目の前に鎮座する、その悍ましい姿を見れば一目瞭然。

イストファくらいなら丸呑みしそうな、巨大な赤い花の形をした頭部。

普通であれば虫を寄せ付けるであろう花の中心部にはずらりと並んだ牙が生え、ウネウネとうねる蔓が無数に伸びたその姿。

地面に根を張っている為か動かないと分かっているが……当然、それでは終わらない。

「ドーマ、カイルは!?」

「ダメです、完全に気絶してます!」

地面の中にあった根が動き、大地を割ってカイルを空中へと打ち上げたのが、つい先ほどの事。

ドーマのヒールでは怪我は治せても気絶までは治せず……何度かペチペチと頬を叩いてもカイルは気絶したまま全く起きる気配がない。

「なら、僕がやるしかない……か!」

「すみません、お願いします!」

ドーマの声を背に受けながら、イストファは唸りをあげて迫る触手を回避する。

フリートが調整し、この数日でしっかりと黒鉄製にまで育てた胸部鎧は革鎧よりはずっと重いが、それでもしっかりと動けるようになっている。

そして、何よりも……フリートが打ち直した短剣は、実に素晴らしいものだった。

「シャアアアアアアアアア!!」

「くる……っ!」

地面を割って出現した根を躱し、イストファは短剣で一撃を加える。

ザゴンっと軽快な音をたてて切り裂かれた根からは何かの液体のようなものが噴出し、マンイーターは慌てたように根を地面へと潜らせる。

……そう、フリートによって打ち直された黒鉄の短剣は、明らかに切れ味が上がっていた。

フリート曰く「大したことはしていない」らしいのだが……今のイストファには、とても頼りになる変化だった。

だがその攻撃でマンイーターはイストファを優先して潰すべき敵と認識したか、触手を四方八方から鞭のように振るい……完全に避けるも逸らすもできないと判断したイストファは小盾を構え、マンイーターの本体へと向けて走る。

「シャアッ!」

基本的に鞭のような武器相手に半端に距離をとるのは愚策。イストファはそれを知っていたわけではないが、ほぼ本能的に距離を詰めるのが正解と理解し走る。

そもそもカイルが気絶している以上はそれしか手は無いが……とにかく、イストファは自分を打つ打撃の幾つかを防ぎ、逸らし、あるいは斬りながらマンイーターの本体、頭部を狙い走る。

だが当然、マンイーターもそれは理解している。しているが、マンイーターには噛みつきを除けば触手や根による打撃しかない。だから、マンイーターは自分の特性をフルに活用し身を守る。

「くっ!」

激しい羽音をたてながら狂ったようにイストファに迫ってくるのは数匹の磔刑カブト。

マンイーターの甘い香りに誘われ狂わされた奴隷であり、守護者だ。

その役目を果たすかのように磔刑カブト達はイストファへと迫り……しかし、黒鉄の鎧にあえなく弾かれる。

イストファの今の鎧は黒鉄製の胸部鎧、チェインシャツ、そしてアームガードとレッグガード。

細かく編まれたチェインシャツは磔刑カブトの角槍を通さず、黒鉄の防御力は貫く事を許さない。

彼等を相手にするには充分すぎる装備だが……今はイストファの強い助けだ。

短剣を振るい一匹の磔刑カブトを屠れば、残りの磔刑カブト達は射程外へと飛んで逃げていく。

そして、その間にもイストファはマンイーターへと迫る。そのイストファをどうにかしようと地の中から根が現れ……しかし、イストファはその根を踏み台にして跳ぶ。

「でえやああああああ!!」

跳ぶ、叫ぶ。自分を踏み飛ばそうとした根の勢いをも利用して、イストファは跳ぶ。

短剣を構え、マンイーターの巨大な頭へと迫る。

そのまま短剣を振るい切り裂こうとした、その直前。マンイーターの口の中から黄色い無数の細い触手が伸びてイストファを絡めとる。

「うわっ……!?」

空中を蹴るような技でも使えなければ、それを躱す事など叶わない。イストファの身体は触手に絡めとられ、なんとか動かそうとした腕も恐ろしいほどの力に抵抗することができない。

根よりも体の触手よりも更に強い力。恐らくはこれがマンイーターの本当の奥の手なのだと思わせる力に締め上げられ、イストファの身体がギシリと音を立てる。

そのイストファの不利を感じ取ったのか、上空で様子見をしていた磔刑カブトが再び降下態勢に入って。

「ファイアボール!」

詠唱と共に放たれた火球がマンイーターの口の中に投げ込まれ、マンイーターの絶叫が響く。

自然と拘束も緩み……イストファは地面になんとか着地して、その声の主へと振り返る。

「カイル!」

「すまん! だが余所見するんじゃねえ、いくぞ!」

「うん!」

「いくぜ……遺憾だが、こいつが今の俺の最強火魔法だ!」

その言葉と共にカイルは杖をかざし、魔力を集中させていく。

集う魔力は火へと変換され、杖全体を赤い輝きで染める。ギイン、と杖を震わせる音は集う力の証明か……察知したマンイーターはしかし、眼前のイストファを無視できない。

「シャアアアアアアアアアアア!!」

根を、触手を、全てを動かしマンイーターは周りの全てを薙ぎ払おうとして。

けれど、それではもう遅い。

「ファイアッ! ブレイドォォォォォ!!」

剣を振るうように、カイルは杖を振り下ろす。

杖から放たれた炎の刃は赤い軌跡を描きながらマンイーターへと飛来し……その花のような頭部へと深々と突き刺さる。

「ギ、ギギャアアアアアアアアアア!?」

ゴウ、とその巨体が燃え上がる。甘い匂いを撒き散らしながら、消化液の蒸発するジュウという音を響かせながら。だが、それでもその身体全てを焼くには足りなくて、焦げたマンイーターはそれでも動こうとして。けれど……ドサリと、地面に身体を横たえる。

そしてもう、動かない。それが2階層「暴食の樹海」の守護者……マンイーターとの、決着だった。