軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だから、ケイさんにお礼をしたいんです

アラン武具店から出ると、イストファは改めて周囲を見回してみる。

そうすると、今まで「武具店」という分類で見ていた店が別の視点で見えてくる。

質実剛健なデザインの武具を扱った店は、アラン武具店のような「儀典用」ではない探索用なのだろう。

新品を扱う店は……よく分からないが、中古専門店は安く良い武具を仕入れたい人の為のものなのだろう。

剣専門の店は納得のいく剣を見つけたい剣士用だろうし、防具専門の店ではどうやらオーダーメイドを扱っているらしい。

それぞれに確かなコンセプトがあり、そういったものを皆が使い分けているのだと理解できた。

必要に応じて使い分ける。それはきっと「余裕」とも呼ぶものだろうし、これから上にいこうというのであれば必要なものなのだろう。

それがイストファにも、おぼろげながら見えてきていた。

「……そっか。僕、何も見えてなかったんだな」

「ん?」

「僕にも……ちょっとだけ分かってきた気がします」

「うん、よかった……ね?」

イストファが何を理解したのか分からないケイは首を傾げてしまうが、イストファが喜んでいるならいいかと笑う。

「それじゃあ、次は何処に行こうかな……」

言いながらケイは道具店、雑貨店、服屋……と見回して、イストファの興味を引き出すなら道具店だろうかと考え、イストファをちらりと見て。イストファの視線が一か所に固定されている事に気付く。

「……どうしたの?」

イストファの視線の先にあるのは服屋……それも、冒険者向けではない方の店だった。

「いえ。僕、服の事を軽く考えてたのかなって」

「それは……」

「着られればいいって思ってましたけど。それじゃあ、きっとダメなんですよね」

思い出すのは、今日絡まれた時の事だ。

あの時、もしイストファが繕った服ではなく今のように綺麗な服を着ていたらどうだったろう?

あの店に飾ってあるような美しい服であればどうだろう?

それでも彼等はイストファを侮り絡んできただろうか?

絡んできたかもしれない。けれど、そうではないかもしれない。

鎧にすら飾り立てる意味があるのなら、服もそうである事は自明の理だ。

ステラという見本があったのに、イストファはそんな事にも今まで気づかなかったのだ。

「ケイさん、行きましょう」

「え? え?」

今度はイストファに手をギュッと握られて、ケイは戸惑いながら服屋に向かって歩いていく。

「いらっしゃいませ!」

若い女の店員がイストファ達を迎え、微笑ましいものを見たような顔になる。

「何かお探しですか?」

「はい、お店の中を見てもいいですか?」

「ええ、どうぞ。オーダーメイドも受け付けておりますよ」

「イ、イストファ君」

堂々とした様子のイストファに戸惑うケイだが、そんなケイにイストファは笑う。

「大丈夫です。ちょっとだけですけど、お金も持ってますから」

「そうじゃなくて……」

一体どうしたんだろう。そんな感情と共に戸惑った視線を向けるケイに、イストファは「ケイさんのおかげですから」と答える。

「たぶん今日ケイさんと出かける事になってなければ、僕はずっとあの服を着てたと思います」

「それは……うん。そう、なのかな?」

「でもそれじゃあ、きっとこのお店には入れませんでした」

それはそうかもしれない、とケイは思う。

路地に居た頃のイストファの服装は論外だっただろうが、今朝のイストファの服も正直に言ってあまり良いものではなかった。

お金がない、と全力で主張するような服装はあまりお店受けは良くない。

そういう意味では、綺麗な服を用意するのは大切な事でもある。

「だから、ケイさんにお礼をしたいんです」

「え……」

「僕に気付かせてくれたから。この服の事も合わせて……僕からも、服を贈らせてほしいんです」

こんな高そうなお店で服を買ったら幾らになるのか。

それを考えるとイストファは心臓が爆発しそうになってしまう。

けれど、カイルやステラが言っていたのはそういうことではないかと思うのだ。

だから、イストファはそう言って進み出て。

ケイはしばらく視線を彷徨わせた後に「やっぱりダメだよ」とイストファの目を見つめ返す。

「私、そんなのを貰うようなことはやってないもの。ここでイストファ君にそんなのを買ってもらったら、私嫌な子になっちゃう」

「え、嫌なって……そんな」

「イストファ君が感謝してくれてるのは分かる。でも、これはダメ。間違ってる」

ケイは一気にそう言うと……「嬉しいのは本当なんだ。ごめんね」と頭を下げる。

間違えた。イストファはそれだけを何とか理解して……「何を間違えたのか」を必死で考える。

感謝の印に物を贈る。それは間違ってる事だったのだろうか?

お金の使い方とは、そういう事ではなかったのだろうか?

「僕、は……」

「あの、事情は存じ上げませんが」

2人の間に流れている空気を何とかせねばと思ったのだろうか、先程の女性店員が声をかけてくる。

「一方的に貰うのがダメということでしたら……互いに贈り合うのは如何でしょう?」

「贈り合う、ですか?」

「はい。当店の服は一流というわけではございませんが、それなりのものとは自負しております。お手頃な価格で式典にも出られる程度の服もご用意出来ます」

式典用。当然、そんな服はイストファは持っていないが……ケイも持っていなかった。

「たとえば冒険者ですと、領主様に何らかの功績で拝謁する事もございます。そうした際に一着持っているのも宜しいかと……」

「……」

「……」

イストファとケイは、顔を見合わせる。

先程のやり取りのせいでぎこちないが、それでも目は逸らさない。

「あの、ケイさん」

「な、なに? イストファ君」

「……僕の服、選んでくれますか? その上で、改めて僕から服を贈らせてください」

「う、ううっ」

なんか告白みたい、と思いながらも……ケイはイストファへと返事を返す。

「な、ならイストファ君。私が選んだ服を、贈っても……いいよね?」

「はい、喜んで」

その言葉と笑顔に、ケイは顔を覆ってしまう。

なんだか耐えきれないのだ。気が付けば女店員もそっぽを向いているし、一体自分は何をやっているのだろうと考えてしまう。

「あの、ケイさん?」

「うーっ! お願い、ちょっとだけこっち見ないで!」

「え、あの。何が」

「今はダメ、ダメなの!」

やがてイストファとケイは互いの服を選び……その包みを持って、店を出るのだった。