軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ちゃんと覚えててよね

空を見上げれば、お昼を少し過ぎたくらい。かなりの時間を服選びに費やしていた事に、イストファは少し驚く。

「もうこんな時間なんですね」

「うん。ちょっとお腹すいちゃった。どうする? 何処かお店に入ってみる?」

その言葉にイストファは少し考えて……やがて、覚悟を決めたように「はい」と頷く。

「大丈夫です。覚悟は出来てます」

「……安くて美味しいお店に行くから大丈夫だよ?」

私も今日はお金使っちゃったし、とはケイは言わない。

それを言えばイストファがまた気にする事は分かりきっている。

ケイが先導して食堂のある辺りに向けて歩き始め、商店通りから外れた少し細い道へと入る。

「あれ、ケイさん?」

「ふふ、地元の人向けは、ちょっと外れたところにあるの。冒険者でも知ってる人は知ってるんだけどね」

所謂「お食事」とは違う家庭料理の類を出すような店だが、そういうのを好んで食べる冒険者もいる為、最近では商店通りにもそういう店があるのだが……ケイにとっては、よくフリートと通っている馴染み深い店でもある。

そんな店をなんとなくイストファにも紹介したくなったのだ。

2人で並んで誰もいない道を歩きながら、イストファはケイに聞こえる程度の声で呟く。

「……こんなに何かを頑張って選んだのは、初めてかもです」

「そうなんだ。それは……なんだか、嬉しいな」

「嬉しい、ですか?」

疑問符を浮かべるイストファに、ケイは微笑み返す。

「うん、だって……私がイストファ君から本気のプレゼントを貰った最初の人ってことでしょ?」

「そう、なるんでしょうか……」

ちょっと首を傾げるイストファにケイは「もう!」と少し頬を膨らませ……その表情はやがて苦笑に変わる。

「そうなの。だから、ちゃんと覚えててよねイストファ君」

「プレゼントの事を、ですか?」

「うん。初めて貰ったのは私だってこと」

「分かりました」

「約束だよ?」

笑うケイに、イストファも笑って……その笑みが、一瞬で凍り付く。

「ケイさん!」

腕を掴んで引き寄せると、イストファはそのままケイを自分の背後へと突き飛ばす。

「きゃっ……」

「ぐ、う……!?」

ケイを掴もうと路地裏から伸びていた手はイストファを捕まえ、そのまま引きずり込む。

買ったばかりの包みが路地へと落ちて。

引き込まれた場所に居たのは……あの剣士の男だった。

「やっぱ、お前みたいなのにナメられてちゃいけねえよな」

「……!」

掴まれた腕をイストファが振り払うと、剣士の男は「おー、いてえ」とニヤニヤ笑いを浮かべる。

「結構ダンジョンに潜ってるのか? ガキとは思えねえ力だぜ」

「遊ぶな。人避けも、防音結界だって完璧じゃない。お前の適当な仕事が危機を招くんだ」

「むー、むー……!」

「なっ……」

守ったはずのケイが、魔法士の男によって路地裏に引きずり込まれているのを見たイストファは、自分が剣士の男と魔法士の男に挟まれている事に気付く。

けれど、まさかこんな昼間に。

「こんな時間に襲われるとは……ってか? くくっ、皆そんな顔しやがる」

これが初犯じゃない。それに気づいたケイが口を押えられながらも顔を真っ青にする。

聞いたことはあった。

自分の利益の為なら同じ冒険者殺しだって厭わぬ悪徳冒険者。けれど、まさかこんな所に。

「抵抗するなよ。お前が抵抗したら女を殺す。お前が大人しく死んだら……分かるよな?」

「う……」

短剣にのびていたイストファの手が止まる。

イストファが死んだらケイを解放する。抵抗したらケイを殺す。

シンプル極まりない脅しだ。勿論イストファが死んだらケイを離すなんていう保証はない。

そしてイストファも死ぬつもりはない。

だけど……どうしたらいいのか。考えるイストファの腹に、剣士の男の蹴りが突き刺さる。

「がっ……!」

「気に入らねえな。諦めてねえ目をしてやがる」

「おい、遊ぶな。こんな金にもならない仕事で不要なリスクを負う気はねえぞ」

「分かってるって」

言いながら、剣士の男は剣を抜いて……地面に転がったイストファに突き刺そうと振り上げる。

だが。今剣士の男が指摘したとおりにイストファは諦めていなかった。

蹴りを受け転がった隙に、ケイの状態を素早く確認していた。

だから。剣が振り下ろされた瞬間、イストファはもう其処には居ない。

ガッ、と。空しい音が響き渡って。ズガン、とイストファが魔法士の男を蹴り飛ばした音が響く。

「ご、ぁっ……」

「なにィ!?」

やっぱりだ、とイストファはケイを魔法士の男の緩んだ手から引きずり出し抱き寄せながら思う。

カイルは確か魔力は上がっても身体能力は然程でもないといったような話をしていた。

ドーマも確かイストファともカイルとも違ったはずだ。

なら、たとえイストファより経験がずっと上の銀級だろうと……魔法士相手であれば、イストファの身体能力でもある程度は抵抗できる。

魔力がゼロで成長の全てが身体能力に割り振られる、イストファであるならばそれが出来るのだ。

シャンッと涼やかな音を立ててイストファは短剣を引き抜く。

冒険者に命を狙われるのは、これで二度目。

一度目は、泣く事しか出来なかった。でも、今は違う。

「お前なんかに……僕は負けない!」

今度は、勝つ。守る。

イストファは決意と共に剣士の男を睨みつける。