軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 勧誘

「ふむふむ、なるほど~」

殿下に向かってその言い方でいいのかしらとハラハラしたが、当のエリオット殿下ご本人はまるで気にしていないようだ。

エリオット殿下は腕を組み、何か考えるような仕草を見せる。

そして、突然私に手を差し出した。

「じゃあ、改めてちゃんと名乗るね! ボクはエリオット。王国の第三王子であり、魔塔の主であり、天才魔術師だ!」

私が思わず目を瞬かせていると、彼はにこにこと笑いながら続けた。

「早速だけど、君に提案があるんだ!」

「……提案でございますか?」

「うん! 君さ、 魔塔に来ない?」

……。

……今、なんておっしゃったのかしら?

サロンの空気が一瞬にして凍りついた。

お父様とお母様、それにレオン兄様も周囲の使用人一同みな硬直し、私も驚きで言葉を失ってしまった。

「……私が、魔塔にでございますか……?」

震える声で問い返すと、エリオット殿下は満面の笑みで頷いた。

「うん! 君の魔力は貴重だからね。ボクとしては、ぜひ魔塔で研究しながら、その力を磨いてほしいんだよ!」

食堂にいた家族たちが、慎重な表情でエリオット殿下を見つめる。

お父様が低い声で口を開いた。

「……つまり、王家としてリリアナを魔塔へ迎え入れたい、ということでしょうか?」

エリオット殿下はにっこりと笑う。

「うん、そういうことになるね。エバンス卿」

それを聞いて、レオン兄様が一歩前に出た。

「しかし、殿下。リリアナは魔術師としての正式な教育は受けておりません。それでも魔塔でやっていけると?」

「問題ないよ!」

エリオット殿下は胸を張る。

彼の口調は軽快だったが、その言葉には確固たる自信があるようだ。

私は自分の手を見つめた。

私の魔力が……魔塔で……?

「むしろ、普通の魔術教育を受けた人たちよりも、君の方がずっと面白い魔力を持ってる。魔塔には知識のある魔術師はたくさんいるけど、“新しい理論を作れる才能”っていうのは貴重なんだよね~!」

“新しい理論を作れる才能”

まるで、私の魔力が魔塔の研究にとって特別な意味を持つかのような言い方だ。ざわざわと胸が躍る。

「魔塔ではね、さまざまな魔術の研究をしているんだけど、特に“認識阻害”や“隠匿魔法”に関しては、まだまだ解明されていない部分が多いんだ。君みたいな才能は、そう簡単に見つかるものじゃない」

エリオット殿下の真剣な眼差しに、私はお父様たちの方を見た。

お父様は険しい表情のまま、沈黙を守っている。

そんな中、お母様が静かに口を開いた。

「リリアナ。あなたはどうしたいのかしら? エリオット殿下がここまでご推薦くださっていますが」

優しく、けれどまっすぐな問いかけだった。

——どうしたいのか。

私は唇を引き結んだ。

今までの私なら、魔塔なんて遠い世界の話だった。でも、もし行けば、私はもっと強くなれる?

『空気のような存在』と揶揄されるのではなく、自分の意志で選び取る未来を掴めるのではないかしら。

迷っていると、お父様が重く口を開いた。

「……お前がどういう道を選ぶにせよ、リリアナ。私たちはお前を支える」

その一言に、胸が温かくなる。

私はそっと息を吐き、ゆっくりと頷いた。

「……エリオット殿下。私でも、できるでしょうか?」

この国には、もっと優れた魔術師がいるはず。

ただ独学で空気に溶け込んでいた存在感の薄い私が、なにか役に立てるだろうかと心配になる。

「君がやりたいなら、ね!」

エリオット殿下は一瞬、じっと私を見つめて、やがていたずらっぽく微笑んだ。

「ありがとうございます、お父様。私──魔塔へ行きます」

──空気のような女として、空気を極めてやるのもいいんじゃないかしら!

私の決断に、エリオット様の顔が輝く。

「ほんと!? いや~、いい決断だね!」

「……リリアナが決めたことだが、殿下、彼女の安全は確保されるのですか?」

レオン兄様が渋い顔でそう言うと、エリオットはひょいっと片手を挙げる。

「もちろん! ボクが責任持って面倒見るし、君も魔塔に遊びに来ていいよ~! 今度は『スーパー木材くんvol153』の実験もしたいし」

「……いえ、リリアナの事以外では遠慮しておきます」

レオン兄様がピシャリと断ると、エリオット殿下は「え~」と残念そうに笑った。

私はそんな二人を眺めながら、改めて深く息を吐いた。

これから、私の人生は変わる。

魔塔で、自分の魔力をもっと磨いて、もっと……自由になる。

その未来へ、一歩を踏み出す時がきたのだわ。

「あ、そういえば。今日のお茶会でのリリアナとあの浮気男のやりとりの音声データはここにあるから、何かに使ってね! 映像が欲しければ兄さんに言っとく~!」

最後、エリオット殿下が茶色のボタンのようなものをころりと差し出しながらそう言うものだから、私はもちろん家族みんなでポカンと口を開けてしまったのだった。

まあ、なんて重要な証拠なのでしょう……?