軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神の奇跡の生き証人 後編

昨日、シリルと二人で衣装合わせをしたドレスに腕を通す。

目立つ髪はひとつにまとめ、大きなつばのある帽子で見えにくいようにする。

今日は武闘会初日なので、出場者より目立つ装いはしない。ジゼルの髪は、今は息子のフェリクスも持っているが、この国では目立つ。

フェリクスも、今日は帽子をかぶるように伝えたので、ミレイユと合わせて今日連れて行く宰相夫妻が用意するだろう。

ジゼルは王宮魔術師長夫妻として、シリルに腕を取られながら姿を見せて、用意されている場所に着席する。

子供たちは、予定通り宰相夫妻に連れられてバゼーヌの一族として参加している。

その視線は、武闘会の参加者に注がれていた。

「今日、面会を申し込んだから、アルドに会えるのは明日かな」

シリルは、視線は前を向いたまま、そう語る。しかしジゼルは、初めて弟に会えると緊張して、表情は固まっていた。

それを横目で見たシリルは、事前に顔を見れば少しは緊張もほぐれるのではとざっと視線で会場を見渡す。

……しかし、見慣れていて記憶力があるはずのシリルが探しても見つからない。

自身の子供たちも彼を探しているようだが、おそらくはまだ見つけられないのだろう。

これだけの人数が探しても見つからない。小さく首をかしげたが、その答えは隣にいたエルネストが面会の許可をシリルに渡して判明した。

「アルドなら、参加は明日からだ。今日は一般参加の予選が主だからな」

「ああ、見かけないと思ったら、今日はいなかったのか」

「あの容姿は目立つからな。参加まで外出も制限している。とりあえず、面会は彼の出番が終わった後、王城でとなった。ご家族はかなりお待たせして申し訳ない」

将軍となったエルネストは、丁寧に頭を下げた。昔から破天荒とされたシリルの友人としては意外なほど腰が低い。あるいはシリルのような友人がいたからかもしれない。

「いえ、日程はわかっていたんですから、少し考えればわかることでした」

今日の日程は、まず王が開会を宣言。これは貴族なら全員参加するものだ。その後、自由参加の一般の部があり明日からは兵士の訓練を見る意味もあって軍関係者の参加となっている。日を追うごとに階級も上がり、最終日は各日程の勝者のぶつかり合いで、勝者を決める。

将軍であるエルネストはずっと責任者としてそれらすべてに立ち会っている。そのため、毎日王宮に通っているのだが、アルドもそれで一緒に連れてきてくれるらしい

「かさねがさね、ご面倒をおかけして……」

「面倒をかけているのはシリルと軍だから、問題ない」

詳しいことを聞いたところ、アルドがベルトランで足止めされている理由はシリルがジゼルとミレイユにかけている保護魔法が理由だった。

どうやら、この保護魔法で実際魔法攻撃されている人がいるらしい。もちろん攻撃したわけじゃなく、むしろ防御したらしいが、シリルの魔法はそんな相手にも容赦なく反撃した。その反撃は容赦なく、少なくともその反撃の記憶がある人は、あの顔を見ただけで戦意喪失するだろうと予測された。

当然ながらその魔法に対抗できる国一番の武人エルネストは、頭を抱えながら告げる。

「いま、シリルに怯えているベルトランの軍人が、どうすればアルドとまともに戦えるか、知恵を絞っているところだ……」

「夫と実弟がすみません」

こうなると、ひたすら頭を下げるしかなかった。

次の日、やはりアルドが気になったジゼルは、髪をこの国でもあり得る薄茶に染め、会場に来ていた。

子供たちは前日も会いに行ったらしいが、ジゼルは行けなかった。自分が会うことで聖神官が施したと言われる術が崩れたらこまる。そう思ったら足が止まってしまったのだ。

今、王宮には聖神官がいる。他の場所より、強固な防御がされた場所なら、少しは安心できるだろう。

ジゼルは、大勢の人並みに揉まれながら、その時を待っていた。

「西砦部隊所属、アルド」

名が呼ばれて姿を見て、目が点になった。

目の部分だけ横一直線に穴が開いている兜を身につけている。周囲のざわめきは十中八九あの兜のせいである。あれじゃあ目が見えないのではと思ったが、あそこまでがっつり隠さなければ、ベルトランの軍人が戦えないと判断したのだろう。

その苦悩が見えるようだ。

アルドはその視線が通るかどうかも怪しい兜を身につけても、剣を繰り出している。剣は身の丈はありそうな両手剣で、普通あの年頃の少年が持てないようなものだ。それを楽々繰り出す姿と、シリルの見たという姿から、ある程度推測できる。

おそらくだが、父と同じように武器を腕力で壊してしまうのだろう。

父が大木槌を持っていたのは、普通に軍の武器を使うと壊してしまうからと聞いていた。そのため、壊すことを前提に、西砦で一番丈夫そうな船を壊すための大木槌を握るようになったと聞いている。

外見はジゼル、力は父だと、それはさぞちぐはぐした印象を与えたことだろう。

……そのちぐはぐな状況がジゼルに似せるためなら、どれだけ詫びても詫びたりない。

アルドはもともと、父に似ていたんじゃないか。あの奇跡の瞬間にお腹に宿っていて、神がいじって無理に自分に似せたために生き辛くしたんじゃ無いか。

ジゼルは、今日初めて実弟の姿を見て、その思いがより一層強くなったことを自覚した。

アルドはその日、三人は勝てたが惜しくも準決勝で敗北した。あの兜をかぶり、今年入隊したばかりと考えても、十分すぎる結果だ。

これでアルドの出番が終わった。

……その日、ジゼルは夫のシリルが迎えに行くまで、ただただ休憩室で泣きはらしていた。

その翌日、ジゼルはシリルと一緒に王宮の一室でアルドを待っていた。子供たちは連日宰相に預けているが、宰相は一切なにも問わずに預かってくれている。

「ジゼル、大丈夫?」

前日、目を真っ赤にして泣いていたジゼルを心配してついてきたシリルに、ただ大丈夫と返して弟が来るのを待っていた。

ノックの音が響き、聖神官に付き添われ姿を見せたアルドは、娘のミレイユと同じ表情で驚いた表情をしている。

おそらく、自分も同じ表情をしていたに違いない。

シリルや聖神官も驚きもあらわにしていたから間違いない。

小麦色と聞いていた髪は若干潮に焼けて色が薄くなっていたが、日に焼けた肌は健康そうで、茶色の目は好奇心も旺盛に輝いている。その姿はまさにジゼルが欲していた容姿がそのまま現されている。

お互い、なにも言葉は出せなかった。

その沈黙を破ったのは、意外な言葉だった。

「あ、初代か」

「……え?」

「ミレイユが自分は母親にそっくりだって言ってたんだけど、ほんとにそっくりだなぁ」

しみじみとそうつぶやいた弟に、先ほどまでの緊張も忘れたように尋ねてみる。

「……初代って……なに?」

「大姉ちゃんが初代。俺が二代目。ミレイユが三代目……って、ああ、しまった!」

突然慌てたアルドがぶつくさ言ったことでなんとなく事態は把握した。

「大姉ちゃんじゃなくてジゼル姉さん? いや、違うな、姉上?」

どうやら、ジゼルの呼び方を誰かから聞いていたらしい。

「いつも、オデットのことはなんて呼ぶの?」

「中姉ちゃん」

「あの子は真ん中だからね、それで行くとソフィは小姉ちゃんもしくはちい姉ちゃんかしら」

「……正解」

取り繕うのを諦めたアルドが肩をすくめる。

「それで初代って言うのは……」

「近所のおじさんが大姉ちゃんをそう呼んでた。曰く、下の妹を泣かせでもしたら自分が木の上に逃げてもしつこく追い回して、泣いて謝るまで許してもらえなかったって」

ジゼルは頭を抱えた。二児の親になって改めて聞くことになると思ってなかった過去を聞かされ、そうするしかなかったのだ。

「それが初代ってことは……あなたもなにかやったのね」

「女顔をからかわれたときに……ボコボコに」

駄目だ。その状況が手に取るようにわかる。

「それからは言われてないし、わかってもらえたと思うし」

ぼそぼそと成された言い訳に、ひと言加えたのは、その姉弟のやりとりを聞いて、肩をふるわせていた第三聖神官だった。

「そりゃ、ガキ大将に何か言えるはずもないでしょうが。あなたはあの時点で、同年代の逆らう相手を全員のしていたでしょうに」

どうやらミレイユはまだなにもしておらず、ただ親のジゼルとそっくりだとしてそう言われているらしい。ジゼルは若干安堵したが、シリルが聖神官の向こうで肩をふるわせ顔を覆っていることに気付き、若干だが視線がこわばったのは仕方のないことだった。

それから、シリルと第三聖神官の笑いが収まるまでしばらく待って、アルドから話を聞くことになった。

王宮で四人が収まっているのはシリルに与えられている部屋らしい。宰相が自分の部屋でと言ってくれたのだが、防御の関係でここになったらしい。

ジゼルも初めて訪れた場所だが、ここは寝に帰る場所らしく、寝具とわずかな本が置かれているだけの部屋である。とても、王宮魔術師長の部屋とは思えない、質素な部屋だ。

アルドはそれでも珍しいらしく、口を開けて感心して見ていた。

「それで、こういう場を設けた理由ですが、アルド、あなたの父親の叙爵についてです」

「へぇ。いよいよ親父が貴族になるのかぁ」

「そのことをあなたに聞いたのは、叙爵にあたって誰が跡取りになるかなんです。あなたの父親が受け取るのは、跡を継げる爵位ですから。唯一の男児であるあなたに意見を聞いてからという事で、みんな待っていたわけですが……」

そこまで聞いても、アルドはあっさりしたものだった。

「親父の跡を継いだのは、次女のオデットの夫、ブレーズ・カリエだ。親父に聞いても誰に聞いても、そう答えるはずだ」

「あなたは貴族にならなくてもいいと?」

第三聖神官の問いかけに、アルドか笑って答えた。

「親父が貴族になるのは、親父の行動がそれに見合ってるからだろう。だったらそれを受け継いだ人にするべきだと思う。俺がいたら跡を継げないなら、少し早いけど俺はファーライズに行けばいいし」

あまりにあっさり告げられたことに、何も言えなかった。

「俺は今は成長してるけどいつ止まってもおかしくないって言ったのはあんただろう」

アルドは第三聖神官にそう告げる。

「俺が神さまに招かれた途端に人の理からはずれるって、教えたのはあんただよな、聖神官」

「それはたしかに言いましたが」

「だったら人の政治は人に任せるべきだ。俺のように人の理をはずれることが確定してる人間に、一瞬でも貴族の席なんて与えるもんじゃない」

ジゼルはそこまで聞いて、アルドの未来がほぼ確定していると知って、口を押さえる。

「アルドは、聖神官になるんですか?」

ジゼルの疑問に答えたのは第三聖神官その人だった。

「アルドのように母親のお腹に宿ってる段階で祝福された人はいませんから、いつとは言えませんが……」

聖神官は断言はしなかった。

「大姉ちゃん、いまさらだって。小姉ちゃんが金狼の嫁になった時点で人の理はぶっちぎったから」

それをアルド本人が言ってることに力が抜ける。

「ソフィは自分で願ったのよ。あなたとは違うじゃない」

「俺もだよ」

アルドは言う。

「俺も、好きに生きていいって言われてた。夢で何度も聞かれてた。今のまま、自分が傍にいれば止まるかもって聞かれてた。それでもいいって答えたのは俺だ」

アルドは笑っていた。

「もうちょっと、育つまで待って欲しいけど。せめてもう少し大きくなればいいなって……」

「ちょっと待ってください。夢で何度もって、夢の中に何度もってなるほど、ファーライズは降臨したということですか」

「ああ、……うん。今は俺が修行してないから門が開けないし夢でしか会えないけどって笑ってた」

「もうあなたで決まってるじゃないですかぁ!」

第三聖神官はそう告げると、自分かシリルが帰るまでこの部屋から出るなと言い置くと、シリルを引きずるように部屋から出て行った。

姉弟はそれを見おくって二人きりになって、改めてアルドは口を開く。

「大姉ちゃん、ごめん。勝手に決めて」

「……ほんとね」

「母ちゃんと大姉ちゃんが祝福されてたのはあの日のことをあとでファーライズに見せられたから知ってたんだけど、宣伝することではないしって思って」

ジゼルは何も言えなかった。口を開けても声にならない。

「大姉ちゃん、ありがとう」

「それは……」

「大姉ちゃんが俺たちの先をつないでくれた。中姉ちゃんはこっちに来られないし、小姉ちゃんはこっちに帰られるかもわかんないから」

だからまとめて、と言いながら、自分と同じ顔が笑う。

「ひとつ、聞いてもいい?」

「なに?」

「あなたが私に似てるのは、神さまがどうにかしたの?」

アルドはしばらく目を閉じたあとで首を横に振る。

「ファーライズが言うには触れなくってもそっくりだったって。はじめは大姉ちゃんと似た感じにしようと思ってたんだけど、これだけ似てるならいいかなって思ったって」

肩をすくめながらそう告げたアルドに、ジゼルは笑って告げる。

「あなたはいつでも神さまとつながれるのね。第三聖神官様もつながれないようなのに」

「あの人は常時繋がれるけど、本人の意志で繋げなくしてるらしい。力で言うなら、俺は四位だって」

あっさりそう告げたアルドに、将来も決めているのがわかって、ただ笑う。

ジゼルは自身の悩みも考えすぎるところも忘れたようにただ笑っていた。