軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9.

シンシアは相変わらず王城に頻回に登城している。

父親が心配ということもあるが、オルティメティとイエナとの仲も良好だし、親しい親戚というのが、ここしかないというのもあって、定期的に家族揃って登城している。

今日も王城で一緒にディナーを、ということで招待を受けている。

玄関ホールで家族が揃うのを待っていたシンシアは、階段の上から現れたライアス達に呆れた声を上げた。

「まあ、マリーまで」

シンシアがそうやって驚いたのは、現れたライアスが両手にマリーヴェルとソフィアをそれぞれ抱き上げて歩いていたからだ。

ソフィアはともかく、マリーヴェルまで同時に抱き上げるとは。知っていたけれど、とんでもない筋力だ。

子供部屋から連れてきたのだろう、筋トレのように2人を抱えながら階段を降りてくる。2人は抱き上げられてきゃっきゃ、と高い声で笑っていた。

その後ろからエイダンが分厚い本を抱えてついてきている。馬車の中で読むつもりなのだろう。

「赤ちゃんが2人」

エイダンがそう言うから、マリーヴェルはべっ、と舌を出した。

「お兄様、できないからってそんなこと言わないでくれる?」

「片手でマリーを抱っこするの?・・・できると思う」

「うっそだあ」

「来なよ」

「えっ・・・嫌よ」

自分から言っておきながら、マリーヴェルは怯んだ。

「マリー、今何キロ?」

「失礼ね、レディに体重を聞くなんて」

「僕30キロくらいなら片手で行けるよ」

「だから、失礼だってば!」

エイダンが珍しく食いついてくる。本を背後のタンに預けて手を広げた。

「——やりたくなってきた。ソフィーとマリーちょっと貸してください、父上」

「いーやーだってば!」

ソフィアはまんざらでもないようでエイダンに手を伸ばしている。マリーヴェルはライアスにしがみついた。

「お父様じゃなきゃ嫌よ」

そう言われて嬉しそうなライアスは次の台詞で凍り付いた。

「——アルロならまだしも」

「待って」

もう馬車に乗る時間だというのに。エイダンもライアスも立ち止まってしまった。

突然名前を出されたアルロは後方で固まっていた。驚愕というより、すっかり畏縮したように小さくなっている。

見送りに来ただけなのにとんだとばっちりである。

うちの男どもが凄むからだろう。

「なんでアルロ?やってもらったことあるの?」

「あるわけないでしょ。アルロは今、鍛えているところなのよ」

「筋肉ついても、しちゃだめでしょ」

「どうして?」

「どうしてって、マリー・・・」

「敵が来たら私を抱えて逃げないといけないんじゃないの?」

エイダンが珍しく言い負かされた。

確かに、侍従とはいえ、有事の際は主人を守るためにそういうことも必要かもしれない。

いや、それは騎士の仕事じゃないのか?——でも、タンも侍従で騎士だから、同じようなことをアルロが目指すのなら・・・。

そこまで考えて、エイダンは顔も上げれなくなったアルロをじっと見た。

自分と同い年だけれど、あの細い腕がマリーを抱き上げて走れるとは思えない。

——いや、考えるだけで何やら腹が立つ。

「じゃあ、どうして僕が駄目でアルロがいいのかだけ教えて」

マリーヴェルはうっとうしそうにぴょん、とライアスの手から降り、さっさと歩き始めた。

「もう・・・しつこいわね。何となくよ」

全くもって納得していない様子のエイダンだったが、同じくライアスから降りたソフィアに手を引かれて歩き始める。

子供の言う事なんだから、いちいち気にしなくても、と思うものの。

「エイダンは6歳の時から、マリーを抱っこして走っていたものね。懐かしいわ」

身体強化を身に付けてからは安心して見ていられるほどの安定感だった。そんな昔から可愛がっていた妹だから、拒否されると寂しくなるのも無理はないだろう。

「これも成長だから。見守ってあげましょう」

シンシアがそっとエイダンにフォローを入れたつもりだったが、エイダンからの返事はなかった。

王城での食事会に、今日は前国王も参加した。

アレックスがまだ3歳なのでその側には乳母が付き添っている。みんなと同じ食卓に着けてアレックスも嬉しそうだ。

上座にオルティメティが座り、右側にライアス、シンシア、エイダン、マリーヴェルと続く。その対面に前国王、イエナ、アレックス、ソフィアが並んだ。

シンシアはイエナと会話ができるし、アレックスもソフィアの隣でご機嫌だった。

席順に関しては公の場で王位継承準等と色々変わるが、この親戚同士のディナーでは近頃はこの席順で落ち着いている。

「イエナ様、お風邪をひかれたと聞きましたけど、もう大丈夫なんですか?」

イエナは少し前、政務を休んでいた。シンシアが尋ねると、イエナは少しだけ言い淀んだ。

この歯切れの悪さは。

「まさか・・・」

「ええ、実は、2人目が・・・」

「まあ。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

言われてみれば、イエナの飲み物は水だし、食事もあまり食べていないようだった。

「イエナ様・・・つわりがひどいのですか?今日の食事会、無理をされたのでは」

「いいえ。そんなことはないんです。私、食べてないと駄目な方で。かといって満腹になっても良くなくって、少しずつ食べていますの。お気を遣わせて申し訳ありません。でも、今日を楽しみにしていたんです」

「体調は、よろしいんですか」

「ええ。ティティが少し大げさに、休めというから、休んだだけで。健康なんですよ」

「——少し前までは、食べれていなかったんだ。それで顔色が悪くて」

オルティメティが深刻な口調で話す。

「まあ。それは心配ね」

シンシアも妊娠中ちょっと無理をして出血をしたり、つわりがひどかったりもあったが意外と無事に生まれてくれた。——が、何と言っても出産は一大事だし、一人一人様子が異なる。

そして何より、命がけである。

オルティメティの心配も理解できた。

「食事会も出なくてもと言ったんだけど。休んでくれないんだ。本当は、生まれるまで政務を休んでほしいくらいなんだけど」

それならそうと言ってくれたら来なかったのだが。オルティメティの中ではあくまでイエナの欠席だけで、食事会の中止までは考えていなかった様子だ。

とはいえ、生まれるまでずっととなると、結構過保護な方だ。

「そんなに大変なの?」

絶対安静レベルなのか。そう思ったら、イエナは首を振った。

「ティティが心配性なんです。アレックスの時も、多少トラブルはありましたが問題なく生まれましたし。——今は税制改革の大詰めなので、それが終わるまでは休みたくないんです」

今イエナが力を入れている仕事が何なのか、シンシアはよく知らなかった。ライアスが補足してくれる。

「公共事業を貴族で担うのに不公平がないようにするために、今試案を作成している所です。簡単に言うと、領地の収益の内、一定の割合を公共事業に充てなければ税率を増す、という」

「それは大掛かりね」

「けれど、今まで公共事業はそれぞれの貴族の裁量に任されていましたし、実はちっとも参加していない貴族も、新興貴族に多いのですが、一定数いるんです。公共事業を国だけで行うのは無理ですし、もう少しそのあたりを整備したくて・・・」

イエナは朗々と語った。

この王妃という職業は、どうやらイエナには向いていたようだ。もとは農地改革の研究者だったのに、今ではどの法律にも明るい。

「あとは、ペンシルニアの領法にある、労働法も。あれは素晴らしいですよね。ゆくゆくは国の法律としたいんですけれど・・・」

「ペンシルニアの労働法を適用するのなら、イエナはとっくに違法だよ。働きすぎ」

オルティメティがイエナに釘をさすが、イエナはにっこりと言い返した。

「あら、それはティティもよ」

「あ、それを言うならライアスもだわ」

ふふふ、と笑い合うシンシアとイエナだった。

労働法では、一日の労働時間を定めている。あとは、休憩時間を定めることや、未成年を夜間や早朝から働かせてはいけない、等。シンシアが前世を参考にして策定したものだ。領内なら何とかそれなりに施行できているが、国全体でとなるとかなり難しいだろう。

「——とりあえず、無理はいけないわ。座って仕事をしているからといって油断は禁物よ」

「もっと言ってください、姉上」

オルティメティが悩まし気に言った。

「イエナがちっとも休んでくれないのです。僕はもう心配で」

「ティティ・・・」

そう言いながら、オルティメティの手にはワインが握られている。

いいんだけどね、別にね。

シンシアは前国王に視線を移した。

「お父様、孫がまた増えますね」

「ああ。また賑やかになるかな」

そう言って笑顔を見せてくれると、シンシアもほっとする。

「そう言えば、ハギノル湖にはいつ行くか決まったの?」

マリーヴェルを連れて釣り旅行に行ってくれると言っていた。

「ああ、侍従長がそろそろ詳細を伝えるだろう。ほとんど決まっているようだ」

「楽しみね、マリー」

「ええ!おじい様、たくさん釣れたら、燻製にしましょう!それでお土産にするの」

「ああ、いいぞ」

「無理はしないでね。でも、ありがとう。ずっと楽しみにしているのよ」

「ああ、私も楽しみだ」

相変わらずの仲の良さだ。

双方にとって良かったなと思う。

「マリーの侍従も付き添わせるわね。お気に入りなのよ」

アルロは孤児で、平民出身である。まだ礼儀作法も勉強中だから登城の際には一度も付き添ったことがない。けれど旅行となると、仕事も多いし、一緒に楽しんでくれたらと思うから同行させるつもりでいる。

レノンとの再会以降、塞ぎがちだから、少しでも気分転換になればいいのだが。

「マリーも侍従のつく年になったか。専属侍女はまだなの?」

「そうね。今のところは手が足りているから」

そんな話をしていると、アレックスが食事に飽きてきて声を上げ始めた。

「んない、ないの!」

どうやら最後の野菜を食べずに乳母を困らせているようだ。

「——フィー!あっぼ、ね?」

ソフィアは遊びに呼ばれて、ナイフとフォークを置いた。

「いいわよ」

「アレックス様、このお野菜を食べてからまいりましょう」

「ない!」

「んもう。仕方ないわね。私が食べさせてあげるわ。はい、あーん」

相変わらずここは仲が良い。

アレックスがソフィアから食べさせてもらうと、もういいだろう、と暴れ始める。

食事はもう諦めて、ソフィアと共に別室へ向かうことになった。