軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8.

シンシアは午前中のうちに仕事を終わらせ、ゆっくりとティータイムを楽しんでいた。

アルロがライアスと出かけたから、マリーヴェルも暇を持て余してティータイムに参加している。ソフィアは仕事時間以外は大体シンシアと一緒にいるので、今日は3人でのお茶会だ。

暖炉のある部屋でテーブルを囲んでいる。

ソフィアがお気に入りのタルトを食べて、そこに載ったフルーツとクリームを見てポツリと呟いた。

「たんじょび、たのしかったなー」

少し前に5歳の誕生会をした時のことだろう。

冬なので室内で小規模ではあったが、前国王と国王一家も招待し、みんなでディナーパーティーをした。

内輪ではあったが、自分が主役になるというのが嬉しかったらしく、ずっと楽しそうにしていた。

「つぎ、いつできるかな?」

「パーティーだけならまたできるでしょうけど、ソフィーの誕生日なら、また一年後ね」

楽しかったようで良かった良かった。

「いちねん・・・」

「あと365回寝ればいいのよ」

マリーヴェルが教えると、ソフィアはよくわからない、と言う顔をする。マリーヴェルが大きな数字について説明すると、なんとなくは察したようだ。

「そんなに・・・」

絶望的な声を上げるから、シンシアは苦笑した。

「1つ大きくなるってすごい事なのよ。だから5つになって、色んな事ができるようになったものね」

「じゃあママは、さんじゅうだから、もっとすごいのね。パパはもっともっと」

改めて言われると結構ダメージあるわね、その数字。

もうそんなに年を取ったのか、と感慨深い気持ちになる。

「——それで?ママは、あとどれくらいで、パパみたいにソフィーを高い高いできるの?」

「うん、ならないわね」

あれが最終形態みたいに思っているのだろうか。

マリーヴェルがまたソフィアに説明してくれてるので、それは任せてシンシアはお茶を飲んだ。

なんだかんだ言っても姉妹である。マリーヴェルは授業で習ったマナーなどをソフィアに教えてやったりして、ソフィアもマリーヴェルの真似をしている。

負けたくないけどちょっと真似したい、そんな感じだ。

窓の外を見れば、雪が降りそうである。

「お勉強はどう?」

マリーに聞いてみる。

「最近は、ちゃんと言われたことはしてるわよ」

「ええ、聞いているわ。偉いわね」

課題をやるようになった、と報告を受けている。ちゃんとしないとアルロを侍従から外すと言ったのがまだ効力を発揮しているようだ。

「アルロが説明してくれると、よく分かるの」

「アルロはすごいのね」

「そう!・・・でも、私がすごいって言ってもアルロは信じてくれないの。それに、楽しそうじゃないし」

「そう、ね」

楽しそうにする、というのは難しいだろう。アルロの抱える悩みは大きすぎる。

マリーヴェルはアルロと父親の関係はもう切れていると思っているだろうが。

「私がもっと賢かったら、信じてくれるのかしら」

マリーヴェルは遠くを見てそう言った。

シンシアはサラサラの髪を撫でた。

「マリーも、自信があるようでないのよね」

学園に行ってからというもの、マリーヴェルは自分の頭が悪いと 理(・) 解(・) してしまった。まだ8歳で悪いも何もないと思うのだが、その刷り込みはどうも更新されないまま、今日に至る。

「アルロはマリーの事信頼してると思うわよ。でも、物事を知るために、勉強するのはいいことだと思うわ」

「べんきょう、ソフィもしたいな」

「あら、偉いわねえ」

兄と姉を見て、自分も、とよくペンを持っている。

「とりあえず自分の名前を書けるようにならなきゃ」

マリーヴェルが言うと、ソフィアがむっとした。

「それくらいしってるもん!」

「知ってても書けないでしょ?」

「こらこら、喧嘩しないの」

トン、と2人の間に美味しそうなマカロンを置く。

色とりどりで見ているだけでも幸せな気分になれるお菓子だ。

「ほら、これ食べて。何色にする?」

「じゃあ、かあさまのすきないろあてよ。せーのでやるよ」

「良いわよ。間違えても泣かないでよ」

いつの間にか勝負が始まる。

ソフィアはシンシアをママと呼んだり母様と呼んだりが混ざっている。マリーヴェルと話すとお母様になってくるようだ。

「なかないもん。せーの!」

マリーヴェルが紫のマカロンを、ソフィアがピンクのマカロンを指した。

2人が鋭い目を向けてくる。

「ママ、どっち!?」

「お母様、紫でしょ?今日のドレスと一緒!」

「ううん・・・」

正直どの色も好きなんだけど。いらぬ争いを生みたくない。

「お母様は、これ」

チョコレートのマカロンを取った。

「え、茶色?嘘でしょ!」

「嘘じゃないわ」

マリーヴェルとソフィアが口々に文句を言う。

「いくらなんでも、茶色はないでしょ!」

「かわいくない。つちのいろだもん」

「茶色いドレスなんて着たことないし」

「ちゃいろい、ほうせきも!」

確かに茶色は苦しかったか。

しかし、ここで折れる訳にもいかない。

「貴方達、わかってないわね。お父様の瞳を思い出してみて?深くて濃い、茶色をしているでしょう?茶色はお父様の色だもの」

2人が確かに、と頷くのでシンシアもさらに続けた。

「暖かく包み込んでくれるような、大地の力強さのような瞳の色よ。そして、あの瞳がじっとお母様を大切そうに見つめてくれたら、お母様は嬉しくて、ほっとして、とっても幸せになるのよ。——だから、お母様は、お父様の瞳の茶色が1番好きなの」

「じゃあお父様は?」

「え?」

「お父様の好きな色は何色?」

「さあ——」

何色かしらね、と言おうとして、2人の視線が自分の背後に注がれているのに気づいて。

シンシアは振り返った。

そこには顔どころか首まで真っ赤にして、口元を覆っているライアスが立っていた。

「ライアス、帰っていたのですか」

「いま・・・その、はい」

お帰りなさいを言いに立ち上がって近寄れば、ライアスは少し逃げ腰になるような表情を見せた。

レノンの事で何かあったのかと不思議に思うが、そうではないようだ。

「あの・・・シンシア。私もです」

「え?」

「私は貴方の美しい金の瞳が、何よりも好きです。——私を見つめる、その優しい瞳が・・・」

あ、そっち。

「——愛しています、シンシア」

お帰りなさいを言うつもりだっただけに、何と返答していいか。この突然始まった愛語りのターンに。

ライアスは上気したような顔でシンシアを見つめた。その視線が、熱い。

「ただ好きだというのは不足ですね。なんと言っていいのか・・・貴方に初めて見つめられた、あれは16の時から。私は貴方のその瞳に魅了されていたのでしょう」

「・・・・ライアス」

私だって、こんな風に愛を伝えられて、無碍にする気持ちは全くない。だが、場所と雰囲気というものがあるだろう。——真昼間に子供の前で 滔々(とうとう) と愛を解かれても、それにうっとりはできない。

シンシアはそう思ってちら、と子ども達を見た。

ライアスがこうなるのはよくある事なので、全く、少しも気にしていないようだった。お菓子を食べている。

「シンシア・・・私の大切な人。そんな風に言っていただけて・・・感激しました。抱きしめてもいいですか」

「だめです」

シンシアは即答した。目に見えてライアスががっかりする。

「——あ、お父様が帰って来たって事は、アルロも帰ってるのよね?私、行って来る」

マリーヴェルが立ち去ろうとするのをライアスが止めた。

「いや、アルロは疲れているだろうから、今日は休ませてやりなさい」

マリーヴェルには、アルロが父親に会いに行っているとは言っていない。社会勉強のためにライアスが公務に連れて行くと言ってある。

「大丈夫でしたか?」

聞くとライアスは頷いた。

「とりあえず、疲れているようなので休ませます。しばらく間を開けた方が良いでしょうが・・・」

何があったのかは後で聞くとして、とりあえず何事もなく帰ってきたことにはほっとした。

「つまんなあい」

マリーヴェルはそう言って、不満そうにしていた。

アルロがどうだったかは後で聞くことにして、シンシアはまだ少し消沈したままのライアスの腕に手を伸ばした。

「一緒にお茶でもいかがですか?外は寒かったでしょう」

「湖が凍っていました。寒くないですか?暖炉の火を強めましょうか」

いつもより少し薄着だったかもしれない。シンシアの頬にそっと触れて冷たいのを確かめてから、ライアスは部屋に控えるメイドに合図を送った。暖炉の火は単純に薪で燃えるだけではなく、魔力で部屋全体を温められる仕組みになっている。

「大丈夫ですよ、エイダンはこんなに寒いのに外で訓練をしているようで」

お茶に誘ったが、今日は騎士団長のダンカーと何とか訓練をするとか言って、うきうきと出かけていった。最近よく誘いを断られるが、その理由はいつも訓練だ。

「体を動かせば暖かいですから」

騎士訓練に関しては、ライアスはシビアだ。怪我をしようが、寒くてあかぎれができようが、そんなものだと言っている。そんなライアスの元で訓練をするエイダンも、同じくそんなものですと言うから、母親としては心配で仕方ないというのに。

「——息子を持つと、心配が絶えません」

ライアスはシンシアの椅子を引いてその肩に毛布を掛けてから、はたと2人の娘を見つめた。

「ねえさまはほんとうにアルロがすきねえ。どこがすきなの?」

「全部よ、ぜーんぶ」

そんな会話を聞いて、ライアスの腕にぐっと力が入るのが分かる。

「——私は娘の方が心配ですが」

シンシアは笑って、ライアスにお茶を淹れた。