軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5.

ライアスが話し終えて、オルティメティは黙って考え込んでいた。それほど長い時間ではない。

「——ふうん・・・」

驚いた様子でもなく特に感情のないような言い方だった。

「長い事、蚊帳の外だなあとは思っていたけど」

「ごめんなさいね」

「申し訳ありません」

闇の魔力が判明したのはワイバーン襲撃の最中とは言え、それから随分と日が経っている。そこは素直に謝った。オルティメティなら、事後報告でも許してくれるだろうという気持ちもあった。

「あの時聞いても、正直考える余裕もなかったと思うけどさ。全部終わってから話してくれちゃうんだもんなあ」

「本当にね。こんなことじゃ駄目よね」

きっと、この一月の間にライアスからなんとなく報告はしていたのだとシンシアは思っていた。しかし実はライアスは、まだ調査中だからまとめて報告すると言って、オルティメティもじゃあそれでいいよと言っていたらしい。

オルティメティとシンシアは笑い合った。

「まだ終わってはいません」

遠慮がちな声でライアスが口を挟んだ。

「アルロの処遇はまだ決定したわけではありません」

一応、そこはちゃんとオルティメティに話を通してからと思っている。

ふむ、とオルティメティが腕を組んだ。

「それで、その姉上の視た未来からすると、アルロが魔王になるかもしれないって事だよね」

情報が多すぎてオルティメティも混乱していた。

「魔王、ねえ・・・」

オルティメティはアルロを見たことがないが、度々マリーヴェルの口からその名前は耳にしていた。随分と気に入っていた、優しい平民の子供だったはずだ。

「どうしたいの?公爵は」

公爵は、と聞かれて、ライアスは姿勢を正した。

「将来有望な人材ですので。後見人として、側において育てたいと思っています」

「ペンシルニアの後ろ盾を、与えるの?アルロに?」

「はい」

「魔王に更に力を与えるんだ」

ペンシルニアの後ろ盾は、それだけで相当な力を与えるに等しい。貴族と同等の扱いを受けるようになるだろう。

「魔王にならないための力を持たせようと思っています」

ライアスの言葉には迷いがなかった。力を与えることが、アルロのためになる。ひいては魔王にもならないための力になる、と。

ライアスがそう言うと、まるでそれが真理のように聞こえるから不思議だ。

断言されて、オルティメティは少し言い淀んだ。

「正直、前例のないことだし・・・。何が正解かわからないな」

「はい」

「でも、安全のためにアルロを犠牲にしたくないっていう二人の気持ちはよくわかった」

反対まではされないだろうと思っていたが、少しも渋ることなくあっさりとオルティメティは認めた。

「いいの?」

シンシアはつい、尋ねてしまう。

「・・・ここだけの話さ、ペンシルニアがいないと、この国は立ち行かないからね。正直先代から、代替わりしててもおかしくなかったんだし」

「何てこと言うのティティ」

「いや、だから、まあ、僕としては、公爵がそう判断したのなら、それが正しいんじゃないかって思っちゃうというか」

ライアスが深刻な顔をした。

「陛下がそう仰るのでしたら、私は引退を考えなくてはいけませんね」

「あー、わかってるよ。ここだけの話って言ってるじゃないか」

「この国を治めるのは陛下を置いて他におりません」

この手の話をすると、冗談でもライアスは頑なだった。念を押すのも忘れない。

オルティメティは話題を変えることにした。

「それにしても、マリーヴェルがそのアルロっていう少年を引き抜いたんだろう?何か惹かれるものがあったのかな。光の魔力持ちとして」

「それは・・・どうかしらね。私は何も感じなかったけど」

シンシアはそう言って、少し悲しそうな笑みを浮かべた。

「本当に、どこにでもいる男の子なのよ。魔力のことがなければ、ただの真面目で優しい、本当にいい子なの」

「そっか」

シンシアの口ぶりからアルロが本当にいい子なのだろうと想像はしていた。シンシアの言い方にオルティメティ顔も緩む。

「一度会ってみたいな。また会わせてよ」

「そうね。正式に後見人として公になったら、マリーヴェルについてあちこち顔を出す事になると思うわ。とっても優秀でね」

「楽しみだな」

そんな会話をしつつ、こうして無事、国王からの許可も得たことになった。

この一連の襲撃事件は天災という事で決着をつけ、ペンシルニアの影がアルロの動向を見張りつつ、育てていくという事で、全面的に任せてもらえることになった。

肩の荷が下りた思いで、その後少し三人は世間話をして。それぞれに顔を出して、二人は帰路に着いた。

後見人の許可が出て、ライアスとシンシアはアルロにそれを伝えた。

初めは恐縮して、どうしていいかわからない様子だったアルロだったが、以前ほど頑なに固辞する様子はなかった。

「——これから先、マリーの側であの子を護るにしても、ペンシルニアの一翼を担うことになるとしても。この後ろ盾をもった時間は貴重なものになるはずよ」

成人するまで、あと四年。その四年の間に後ろ盾があって学ぶのと、ただ温情で教師がつくのとではやはり意味合いが違ってくる。この屋敷の外にも出てほしかった。

「とりあえずあと一年で、研究所に行けるくらいのレベルにはなってもらうつもりよ。そこから何の道に進むかは、その時に考えましょう」

「は、はい・・・」

研究所と言うのは、前世で言う所の大学のようなところだ。アルロの教師たちからは十分に可能だと聞いている。

ペンシルニアの業務を学んでもらおうかとも思ったが、ライアスはそれならルーバンの下に付けてはどうかと提案してきた。

シンシアは、これには少し不安を覚えた。

ルーバンとアルロの相性は正直、未知数だ。ルーバンが誰とでも気持ちのいい人付き合いをできるタイプではないだけに。——簡単に言えば、アルロが心配だった。

だから、アルロにはもう少し広い視野で色々と学んでもらうことにした。別にペンシルニアの内政だけが仕事ではない。

「闇の魔力の事はゲオルグとタンしか知らないから、ペンシルニアが後見に着くのは貴方がとても優秀だから、ということにするわ。事実だもの、問題ないわよね」

「で・・・あ、ど、努力します」

すらすらと言われて、アルロはやや圧倒されていた。

でも、前へ進むと決めたから。尻込みしそうになるけれど、精一杯、今はできることをやって、いつか必ず恩返しをするのだと心に決めた。

自分に掛けられた期待をアルロ自身が否定することは、それを向けてくれた人たちに失礼だと思った。

自分なんてと言いそうになるけれど、望まれているのはそういう事じゃないって、よくわかっているから。

アルロが自分を信じられなくても、自分を信じてくれるペンシルニアの人たちを信じる。そう決めた。

それに加えて魔力の運用を学ぶ事で、今ではすっかり闇の魔力も使いこなせている。

今までも感情は静かで揺れ動くと感じたことはあまりなかった。しかしそれはただ、感じるのを抑え込んでいたに過ぎず、繭の中にいるようなものだった。

今は、たくさんの事を感じて、動揺することもあったりするけれど、根本のところは凪いでいるのを感じる。

あれからたった一月だけど、もう大丈夫だと思えた。

「何かしてみたいことはある?」

シンシアが度々聞く質問だ。まだアルロはこれに応えらえない。

けれどきっと何を言っても、それは素晴らしいわねと喜んでくれるのは分かっていた。