軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15.エイダン対ワイバーン

マリーヴェルは部屋に戻った。

部屋ではソフィアが台を持って来てそれに登り、窓に張り付いて外を見ていた。騎士2名とレナが部屋の中で見守っている。

「マリーヴェル様」

レナが心配そうに声をかけてくる。それへ返事をする余裕もなかった。

ソフィアは顔だけ振り返った。

「お姉さま、ここにいることにしたの?」

ソフィアにも返事せず、黙ったまま並んで窓の外を見る。街のあちこちから黒い煙が上がっていた。

「——っあ、あそこ!」

ソフィアが指さした方角に、黒い影が一瞬通り過ぎる。

マリーヴェルは足が震えて、その場に座り込んだ。遠くから見たその姿が、思っていた以上に大きくて速い。

「姉さま?」

ソフィアがマリーヴェルの様子に気づき、踏み台から降りた。

「どうしたの?」

下から覗き込んでくるソフィアは、不思議そうにしている。

「私・・・」

居ても立ってもいられない。でも、マリーヴェルには何もできない。

言っても仕方ないのに、黙っていられなかった。

「どうしよう。アルロが、いないの」

ソフィアも、いつもと違って口も挟まず、黙って聞いていた。

「私のせいで。私が、隠してって言ったからだわ。あの時からちゃんとお母様に相談しておけば・・・私のせいで」

話し出したらどんどん恐ろしくなっていった。

「アルロが死んじゃったらどうしよう。帰ってこなかったらどうしよう。もう二度と・・・会えなかったら」

マリーヴェルはその場に蹲った。

「アルロ、やになっちゃったの?姉さまが、わがままいうから?」

「ちがうわ。——アルロは謝ってた・・・自分が許せなかったのよ。そんな事ないのに、アルロは悪くないのに」

震える声に、唇を噛む。常にないマリーヴェルの様子にソフィアが同じように床に座り込んだ。

「じゃあ、アルロさがしにいこ?」

「行けないわ。こんな非常時に・・・私達子供は、ここで大人しくしてないと」

「いつもわがままなのにどうして今日はがまんするの?」

「あんたね・・・」

「姉さまの事がいやになってないなら、むかえにいってあげよ」

マリーヴェルは部屋の中にいる大人たちを見た。何か深刻な顔をして話し合っている。

部屋の中に鎧を着た完全武装の騎士がいるだけで、何だか重い雰囲気になる。

「・・・だめよ。私達みたいなお荷物が勝手な事して、もし何かあったら・・・その責任は、あの大人が負う事になるのよ。そんな事できないでしょ?」

「かってじゃないもん。お父さまにいうんだもん」

ソフィアは当然の事のように言った。

「お父さまにいったら、きっといっしょにさがしてくれるよ」

「馬鹿ね、お父様は今一番前で戦ってるのよ?それこそ私達に構ってる暇なんてないの」

「だって、お父さま、なんでもいうこときいてくれるもの」

「そりゃ、普通ならそうだけど・・・」

ソフィアはまだ5歳だ。理解するのが難しいだろう。

「お父さまはつよいから、てきもたおすし、アルロもみつけてくれるよ」

「あのね。ワイバーンが出たの。さっきの黒いの、あんたも見たでしょ?そんな、本でしか見た事ないような怪物なのよ?お父様がいくら強くったって・・・」

マリーヴェルはそこまで言って、さらに力をなくした。

「強くったって・・・」

大丈夫だろうか。アルロも心配、でもライアスも、エイダンも心配。

「——じゃあ、いこ。マリーあとでないちゃうでしょ、アルロにあえなくなったら」

「・・・お母様が許可しないわ」

「おしろに行くの」

「——は?」

「おしろに行った方が、けいびがしやすいから」

ソフィアはひそひそと耳元で囁いた。

「それで、おじいさまにいって、お父さまをよぶの。おじいさまも、いうこときいてくれるでしょ」

「そんな・・・」

とんでもないことを。

そう思ったけれど、よく考えれば、ここにいるより王城にいたほうが情報がたくさん入ってくるかもしれない。上手くすれば、ライアスやエイダンに会えるかもしれない。

迷惑はかけられないけど、話すくらいはできるかもしれない。

そうすれば、討伐しながらアルロを探してと言えるだろうか。

じっとここで考えているよりはいいかもしれない。

「ソフィー、あんた、たまにはいいこと言うわね」

だめでもともと。可能性が少しでもあるのなら。

マリーヴェルはソフィアの頭を撫でた。

一方その頃。

ペンシルニア騎士団は王都の各所に配置され、各隊に分かれて討伐に当たった。

エイダンはゲオルグ、タンと共に貴族邸が立ち並ぶ界隈に来ていた。

王城の魔術師団と合流する。

「うわ、でっか・・・」

エイダンは初めて見るワイバーンに率直な感想が口から漏れた。

ワイバーンには、レヴァイアサンを見た時の圧倒されるような、絶対的強者、という威圧感はなく、縮みあがりそうになるという事もない。ただ、大きくて厄介そうな魔物だ。

——魔物。そう、これは魔物と言っていいんじゃないかと思う。普通の獣のように知性などといったものからはかけ離れた、ただ、獰猛で殺戮を性とするような生き物だ。視線はいつも殺戮対象を探している。

ただ、近づいても不思議とエイダンには恐怖がなかった。

敵を前にして剣を抜けば、不思議と力が湧いてくるような気さえする。

「火傷に気を付けてくださいね、エイダン様」

ゲオルグの言葉に黙って頷く。

魔術師が拘束魔法を展開するまでの間、騎士がワイバーンの気を逸らせようと奔走している。あちこちに火を噴き、爪を立てて暴れている。

「火傷ってレベルじゃないよ、あの火力」

おそらく、普通の炎ではない。それよりもっと高温の熱だろう。石畳すら燃えている。

本当は自分も走って行ってワイバーンの気を引き援護したい。——でも、エイダンにはそれが許されていなかった。

ゲオルグが駆けて行って、危うく燃やされそうになっていた騎士を助け出している。

エイダンは剣を抜いた。

自分はせめて遠方の魔術師を護ろうと思った——その時だった。

拘束魔法が展開され、ワイバーンの体は地面に縫い留められた。とはいえ、随分緩い拘束だ。遊びがある分、ワイバーンは激しく抵抗している。

ゲオルグが爪と牙の攻撃を受け止めつつ叫んだ。

「エイダン様、首斬ってください!ものすごく硬いので、全力で!!」

「え?あ、うん・・・!」

身体強化を使い、エイダンは地面を蹴って空中に飛び上がった。地面に縫い付けられていたワイバーンの首に渾身の力で剣を振り下ろす。

手が痺れるほどの硬さだった。骨の部分が引っかかり、抜けなくなる。血飛沫は飛ぶが、まだ息の根は止めていない。

ワイバーンは足掻き、鋭い尾がエイダンに向かってきた。避けようか受けようか迷った瞬間、タンがその尾を切り落とす。

ゲオルグが反対側から首を切りつけてきた。エイダンも再び力を込めて切りつける。骨は切れなかったが、肉を断たれて、やがてワイバーンは動かなくなった。

「——硬いですね。岩みたいだ」

剣を抜きつつ、ゲオルグはその剣が少しこぼれているのをみて目を丸くしていた。

「・・・あのさ、僕、後方支援しないと怒られちゃうんだけど」

エイダンも剣を抜きつつ、タンが差し出してくれた布で血を拭い取った。

とりあえずゲオルグに従ってしまったが、最前列で剣を振るってしまった。

「そうですねえ」

ゲオルグがそう言いながら、こと切れたワイバーンの検分をしている。聞いているのかいないのか、生返事のようだ。硬い鱗を叩き、濁った目を覗き込んでいる。

「死んでそうです。良かった良かった。さ、次ですね」

これはきっとゲオルグの独断だろう。

大丈夫なのだろうか。実戦ではゲオルグに従えとライアスから言われているから、エイダンとしてもゲオルグがやれと言ってくれるなら喜んで剣を振るう。——が、後で問題にならないのか心配になる。

ダンカーからもシンシアからも、エイダンを護ることを優先しろと言われて、命に代えましても、って言って胸を叩いていたのを横で見ていただけに。

「次もこのスタイルで行く感じ・・・?」

「いやあ、だってエイダン様が斬れないものは俺らにも斬れないですからね。ちゃんと援護します」

援護なんだ。

エイダンは思った。どうやらこの先も攻撃の主体は自分らしい。

「伝令来ました。今ので、あと5体になります」

タンが地図を確認しながら、討伐を終えた箇所に印をつける。

「よっし、順調。負傷者確認、どうだ?」

ゲオルグの問いには、元からいた王立騎士が答えた。

「裂傷1名、火傷2名です!」

3名とも王立騎士団員だった。エイダンらが到着するまで戦っていたことを思えば、死者がなかっただけでも上出来だろう。

「離脱させて救護所へ向かわせろ。——タン、布」

「はい」

タンは負傷した騎士の者とへ駆けて行き、用意してあった布を腕に巻いている。遠目に黄色と緑の布が見える。

「軽傷のようですね」

「うん。——次に行こう」

エイダンは馬に飛び乗った。

いつも乗っている愛馬だというのに、馬が不機嫌そうに首を上下に動かす。手綱を引っ張られてエイダンは少しそれを緩めた。

「——どう、どう・・・」

首筋を撫でてやると鼻息の荒い音がする。蹄がかつかつと石畳を叩いていた。

「苛立ってるね」

「——まあ、見たこともない化け物を前にして、暴れないだけ偉いですよ」

ゲオルグはそう言って、馬の首筋を叩いた。そういうゲオルグの馬も落ち着きなくきょろきょろとして耳をしきりに動かしている。

「早く決着をつけたいね」

馬の集中力がキレてしまって足がなくなるのはきつい。

「——行きましょう」

隊列を組み直し、一行は次の目的地を目指した。