軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.アルロの誕生日プレゼント

「今日はね、私の事をいつも助けてくれるアルロに何かお礼をしたかったの」

マリーヴェルはごそごそと何やら大きな袋を取り出した。

「でも、まだまだ私にはアルロに何かしてあげれる事がなくって。何をすれば喜んでもらえるのか自信がなかったんだけど」

「そんな。とんでもないです。姫様にお仕えできて、僕がどれほど・・・」

「うん。でも、私はアルロじゃないとだめだったから。どうしても、一番にお祝いをしたいし、感謝を伝えたかったの!」

はい、とマリーヴェルは袋を差し出した。

中には何も入っていない、本当にただの袋だった。

「——今日はね、この場所に行ってほしいの」

はい、と今度はマリーヴェルはメモ書きをアルロに渡した。

「この順番にね、上から順番に回ってね。それで、私から言われて来たって言ってね」

「え・・・ええと、お遣いですか」

「そうよ、お遣い!」

マリーヴェルはにっこりと笑った。

「全部回れたら、最後に、私のところに来てね。——じゃあ、たくさんあるから、頑張って回ってね!」

そう言ってマリーヴェルはさっさと行ってしまった。

取り残されたアルロはメモを見る。

まずは、厨房とある。その後朝食を摂るように、とも。

アルロはよくわからなかったが、わからないままに言われたとおりにするのはよくある事だったので。

とりあえず厨房へ向かった。

廊下に出るとすぐに、朝食の用意をしているカチャカチャといった食器の音が鳴り響いていた。

「——おお、アルロ、来たか!」

厨房を覗くと、料理長が大きな体を揺らしながらやって来た。

よく手伝っていたから、厨房の人間たちとも顔見知りだ。一緒に延々と野菜の皮むきをしたり食器洗いをした仲だ。

「俺が一番乗りだろ!」

そう言って料理長が包みを差し出してくる。

「誕生日おめでとう、アルロ」

「え・・・」

「俺のは、手製の焼き菓子だ。色々あるから、どれが一番うまかったか、また教えてくれよな」

そう言って料理長はポン、と頭を撫でた。

「あ、ありがとうございます・・・」

「はい、私らからはこれ」

いつの間にか側まで来ていた調理メイドらが、続けて綺麗にラッピングされた箱をくれた。

「アルロの部屋、何もないだろ?勉強するとき、美味しい飲み物を飲みながらやると、きっとはかどると思うんだ」

「あ、え・・・」

「コップだよ!欠けにくくて使いやすいのさ」

驚くアルロの手にそれを乗せて、メイドらはまた仕事に戻って行った。

アルロは呆気に取られていて、お礼を言うのが大分経ってからになった。

何か用事はないかと尋ねると、みんなにないよと言われる。

お遣いというから何かマリーヴェルから言いつけられたことがあるのだと思っていたら・・・。アルロは手の上のプレゼントを見つめた。もしかして、これなのだろうか。

アルロは二つのプレゼントをじっと見つめた。マリーヴェルの明るい笑顔が思い浮かんだ。

朝食を摂って、次のメモに従って向かったのは洗濯場だった。洗濯メイドらが、今日の洗濯物をタライに貯めて次々に洗っている。

「あの・・・」

「ああ、アルロ!待ってたよ」

「誕生日おめでとう!」

この場所も、時々手伝ってよく入り浸っていた所だ。年代が様々な洗濯メイドらが、濡れたエプロンを絞りながらアルロに駆け寄ってくれた。

「あの・・・姫様から」

「うんうん。聞いてるよ。14歳だってね。いいねえ、まだまだこれからだよ」

「——姐さん、ほら、アレ!」

「ああ、そうだった!」

そう言って一番年配の洗濯メイドが包みを持ってきてくれる。

「これね、私らが一番気に入ってる石鹸なんだ。剣術をやってると、訓練で良く汗をかくだろ?こっちの赤いのが汗の汚れ、こっちの白いほうが、土の汚れが良く落ちる石鹸なんだ」

「もちろん私らに渡してくれたらいいんだけど、あんた気を遣って、ちょっとしたものは自分で洗ってるだろ?」

「いい香りする奴にしといたから、けちけちせずに使うんだよ」

ここの人たちは皆元気がいい。いつも口を挟む暇なく矢継ぎ早に話をされる。

「あ、ありがとうございます・・・」

そう言うのがやっとだった。

「——ほら、袋に入れときな!そのための大袋じゃないのかい」

そう言ってばしん、と肩を叩かれて、アルロはまた頭を下げつつ、プレゼントを袋に入れた。

一人一人にお礼を言って洗濯場を後にする。

この後も、庭園の庭師からはいい香りのするドライフラワーを、馬場の馬丁からは幸せを運ぶという 鐙(あぶみ) の壁掛け、下級メイドからは刺繍を施した手ぬぐい、上級メイドやレナやダリアからは夜勉強する時に明るく手元を照らす魔道具、侍従仲間からは手袋——それぞれ、訪れる先々でアルロはプレゼントを受け取り、温かいお祝いの言葉をもらった。

このメモは、それぞれ使用人らの手が空いている時間帯を計算して組まれていた。

午前の訓練が終わるくらいの頃合いに、訓練所と書かれている。

通い慣れた訓練所に入ると、ダンカーが待ってましたとばかりにアルロに向かって紙吹雪を投げた。それを皮切りに、集まった騎士らが一斉に同じく紙吹雪を投げる。

「アルロ14歳おめでとう!」

「おめでとう!」

「強くなれよ!」

「筋肉増やせ」

もう、たくさんの人が一斉に喋りすぎて何を言っているのかわからないくらいだ。

アルロは圧倒されて口をパクパクと動かすだけになってしまった。

そんなアルロの背中を、ダンカーにバシン、と強く叩かれる。

「呆けてんじゃねえよ、アルロ。いつも訓練頑張ってるからな、俺らから、贈り物だ」

ダンカーが差し出したそれは、れっきとした、一振りの剣だった。

装飾もない、素朴な剣で、真新しく銀光りしている。

アルロはまだ剣を持っていない。練習用の剣をずっと使っているが、それだってまだ上手く使いこなせていない。満足いくくらい使いこなせるようになった頃には、お金もある程度貯まっているだろうから、いつか買えたらなと思っていた。それは数年後のはずだった。

アルロは驚いて、咄嗟に手を前に立てた。

とても受け取れない。

「そ、んな・・・高価な物、受け取れません」

「そう言うなよ。従騎士が初めて持つ、ごくごく一般的な剣だ。これだけの人数で用意したんだから、全然高価な贈り物じゃねえよ」

「でも、僕はまだ・・・」

その剣を持つのにふさわしくはない。そう言おうとしたら、どん、と肩を組まれた。

見上げると、よくマリーヴェルの護衛に当たる騎士だった。

「アルロ、まだ、なんてことねえよ。——お前は、ハギノル湖で立派にお嬢様をお守りしたじゃないか。既に命を投げ出してまで、主人を守るって覚悟が決まってる。お前は十分、剣を持つ資格があるんだよ」

「そうだ、アルロ。まだ、まだ、なんて言ってる間に機会を逃しちゃいけないからな。剣を持って、それを扱えるように必死で練習するのさ」

ほら、とダンカーがアルロの胸の前まで剣を差し出す。

アルロはごくりと唾を飲みこんでから、その剣を両手で受け取った。受け取ったまま、深く頭を下げた。

「ありがとうございます・・・」

重たい剣の感触に、感謝と覚悟と、色々な気持ちが混ざって、アルロは泣きそうになってなかなか顔が上げられなかった。

たくさんの騎士から力づけるように次々に軽く小突かれて、アルロはまた、マリーヴェルの顔が浮かんだ。