軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6

その後、舞踏会は表面上、穏やかに過ぎていった。

一見にこやかではあるが、エメリアが王宮から去った話は知っているのだろう。ギルフォードの隣にいるエメリアに向けられる貴族たちの笑顔には、隠し切れない含みがある。

「皇妃殿下は相変わらず美しい、です……ね」

「恐縮です」

小さい頃から聞いているお世辞に微笑みを返すと、なぜか相手がひるんだ。

「?」

後ろでギルフォードがにらんでいることも気づかないエメリアが首を傾げると、相手は今度はエメリアにくっついてるフレンを見て言った。

「そして本当に愛らしい姫君で」

「そうでしょう!」

間髪を容れずに握りこぶしをつくって同意する。

そこで周りにいる貴族たちからのびっくりした表情に気づいて、こほんと咳払いをする。

――冷静に、冷静に。

それにしても愛娘一人手離しに褒められないとは、改めて面倒な場所である。

扇子の陰から、ひそひそと笑われているのを感じるが、この頃にはエメリアももう開き直ってきた。

ギルフォードの体面など知ったことか。フレンの可愛さを存分にアピールするのだ。

「フレン、挨拶をしましょうか」

「……」

フレンがエメリアを見上げてこくりとうなずく。

『フレンです! よろしくおねがいします!』といつものように元気に挨拶をするのかと思いきや――ドレスを着たフレンは、すっと片足を下げてドレスの端を摘んだ。

「……フレンです。どうぞおみしりおきを」

王族の証である、月銀の髪がさらりと肩から滑り落ちる。

それはエメリアから見ても完璧な礼だった。

――あれぇ?

エメリアは心の中で冷や汗をかいた。

確かに村でも最低限の礼儀作法は教えたが、まだ三歳。原作でも姫としての扱いを受けずにいたから、それでいいかと思っていたのだが……。

フレンの淑女の礼を見て、招待客たちがぽかんと口を開ける。

顔を上げた彼女の周りには光を帯びた妖精が優雅に飛んでいた。

それは娘を見慣れているはずのエメリアからしても、息をのむほど幻想的な光景だった。

礼を終えたフレンはエメリアを振り返って、満足そうな顔で鼻から息を吐いた。

「――」

フレンなりに周りの様子を見て学んだのだろうか、そしてエメリアを振り返ってのこのどや顔。

親バカゲージなど振り切れるのに十分だ。

「――偉いわフレン、よくご挨拶できたわね! そしてとっっっっても可愛いわ!」

「とうぜんです、おかあさまのむすめなので」

むふんと胸を張るフレンを抱きしめた。

その体温はとても高い。

エメリアはこちらを見ているギルフォードを振り仰いだ。

「陛下、私たちはそろそろお暇してもよろしいでしょうか」

「……ああ、もちろん」

ギルフォードは詳細を聞かずに頷いた。

大広間に入ってから一時間半ほどが経っていた。ずっと気を張っていただろうフレンが眠くなっていると知る。

「え、でも、……まだ」

「もう十分よフレン。よくがんばったわね」

そう言って頭を撫でると、エメリアにしがみついたフレンはこくりと頷いた。

こちらに体重を預ける小さな身体を抱き上げる。

――ぐっ。

しかしさすがに心の中でうめいた。

コルセットは、しゃがむのも抱き上げるのも適していない矯正具である。

「では、失礼いたします」

挨拶をしてエメリアは大広間から出た。

すでに限界だったのかフレンはエメリアにしがみついて小さな寝息を立てている。

「皇妃殿下、私どもが運びます」

「これくらい大丈夫よ」

騎士や侍従が言ってくれるが首を振った。

おんぶしたまま農作業をしてきたのだ。舐めないで欲しい。

限界いっぱいまで頑張ってくれた娘の頭を、愛おしく撫でる。

――イヴァン殿下とも喧嘩していたしね。

エメリアは大広間を振り返った。

使節団として来ているのだからイヴァンも大勢の人と話をしていた。けれどしばらく前から、探しているが姿を見ていなかった。

背後にある広間からはいまだ賑やかな声と音楽が聞こえている。

夜更けまで舞踏会は続くだろう。

――このまま、王宮でフレンを育てていいのかしら。

舞踏会の様子を見るに、ギルフォードはきっとフレンを大事に――彼なりに――してくれる。

王位継承第一位の地位と、婚約者を決めるというのもその一環だ。

その上、すでに妖精の愛し子の力が現れている。少なくとも原作のような状況になる可能性は低い。

それはいいことだが……。

「あ」

渡り廊下から見える中庭。そこにある四阿の椅子に小さな影があった。