軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編:あべこべの日

「……ん?」

ある朝、違和感とともにエメリアは目を覚ました。

寝室はカーテンが閉じてまだ薄暗い。寝返りを打とうとして、大きなベッドの中でやけに布団に埋もれてしまう。

「……んん?」

目をこすりながら身を起こした。

隣にはこんもりと布団を被ったフレンが眠っている。呼吸音に合わせて上下する塊を撫でようと手を伸ばして……エメリアは動きを止めた。

(え)

自分の手がやけに小さい。まるでフレンのそれだ。

慌てて起き上がって、鏡を見たエメリアは青ざめた。

(う、嘘……)

見慣れない、いや昔見たことのある姿に呆然と頬に手を当てる。鏡に映るのは金の髪に緑目の、五歳くらいの女の子。

エメリアは子どもになっていた。

「なぜ!」

「エメリア……?」

声をかけられてはっと振り返ると、身体を起こした男の子がこちらを見ていた。

一瞬イヴァンかと思ったが違う。

少し大きめのシャツを着ている彼は銀の髪に、印象的な青い目をしている。

どう見ても五歳の少年だが、見間違えるわけがない。ギルフォードだ。

目が合って彼が固まる。

一瞬遅れて、彼の眉が吊り上がった。

「どこの子だ」

「陛下、こ、これは……っひ」

皇帝一家の寝室に勝手に入った不届者と咎められるに違いない。あわあわしているエメリアに近づいて肩を掴んだ彼は、真剣な顔で口を開いた。

「……誰の子だ。まさかフレンは双子だったのか!」

いつも冷静沈着な皇帝陛下が錯乱している。

「へ、陛下、落ち着いてください。私です、エメリア本人です」

「……本人?」

「陛下も同じくらいの年になっています、よ」

鏡を示されてそちらを見て、彼もようやく自分の姿に気づいたらしい。

エメリアも改めて自分の姿を確認する。

着ている寝着はだぼだぼでほとんど脱げかけだ。

「これは一体……」

わけがわからない。そんな騒動でフレンとイヴァンが起きてしまった。

「おかあさま……?」

「どうかしましたか」

起き上がった二人を見て、エメリアは思わず口に手を当てた。

(あらあらあらあら)

布団を深く被っててわからなかったが……二人とも、エメリアたちとは違い歳を重ねた姿になっている。

十六歳と十八歳――まさしく原作小説のキャラクターそのままだ。

まさに月も霞むほどの美少女フレンと凛々しい青年然としたイヴァン。見ているだけで眼福である。

そして眠そうに目を擦っていたフレンは、小さなエメリアとギルフォードを見て目をぱちくりした。

「フレン?」

問いかけると彼女はばっと顔を明るくした。

「……おかあさま、かわいいです!」

「ふ、フレン、落ち着いて……っ」

思いっきり抱きしめられる。力の加減がわかっていないのか、苦しい。

そこでギルフォード間に入った。

「落ち着きなさい、エメリアが苦しそうだろう」

「おとうさまも、かわいいです!」

「……っぐ、……フレン、落ち着きなさいと言っている」

二人揃って抱きしめられる。

ギルフォードはフレンの腕を軽く叩いて、部屋を見回した。

「全員、なにか体調に不具合はないか」

「はい!」

「……ええ」

「何もないです」

「では本題だが……なぜこんなことに?」

そこでフレンがちらりと視線を泳がせたのが抱きしめられているエメリアにはわかった。

母親の勘である。

それによく見れば、身体の大きさは全然違うのにフレンもイヴァンも服はどこも破れていない。

「……フレン」

呼びかけて無言で娘を見つめる。

そのまま凄んでいると、フレンが頭を下げた。

「ごめんなさいっ」

「怒らないでくださいエメリア様!」

どこから聞いていたのか、メレディスが勢いよくドアを開いて部屋に現れた。

「弟と妹が欲しかった……?」

ことの顛末を聞いて、エメリアは頭を抱えた。なんでも、イヴァンの兄弟の話を聞いて、フレンが羨ましがったのだという。

床に正座したメレディスがしょんぼりしている。

ギルフォードから服を借りたイヴァンが呻いた。

「申し訳ありません、僕が不用意に話していたばかりに……」

「殿下のせいではありません」

何度か彼から兄弟は話を聞いたことはある。兄として下の子達に気を遣っているところも、それに伴う勢力争いも。

「人間の一人や二人つくるなど造作もないですが、さすがに陛下たちの御子は後々支障が出るかと思いまして……それで、お二人を子どもにすればいいとひらめきまして」

気を遣っているのかいないのかわからないのは妖精だからだろうか。

効果は1日ほど続くらしい。

ちなみにエメリアは大きくなったフレンの膝の上だ。

彼女は両手を組んでエメリアを見た。

「おかあさまの髪をくくってもいいですか?」

「……ええ、どうぞ」

そんな中、イヴァンがソワソワしている。

「……あの、身分は明かさずに騎士の訓練に参加してもいいでしょうか!」

今のイヴァンは十八くらい。おそるおそるの提案に、小さなギルフォードが頷いた。

「まぁ、いいだろう。無茶はしないようにな」

「はいっ」

愛用の剣を手にウキウキしているイヴァンを見る。向上心があってなによりだ。

子どもたちはさすがの適応力と言うべきか。

楽しそうにエメリアの金髪を三つ編みにしたり二つにくくったり、髪飾りをつけたりしているフレンを見上げる。エメリアはギルフォードに言った。

「陛下、私はフレンと遊んでいますから、仕事に行ってください」

もうすぐ就業時間だ。

提案するとしかしギルフォードは首を振った。

「いや、さすがにこの姿では皆を混乱させる。今日くらいは付き合おう」

そうして一日、部屋でゆっくりフレンと遊んで過ごした。

意外とギルフォードは子ども遊びが上手だ。

(そういえば、母違いの兄弟がいたのよね……)

王座争いのときに、粛清したと聞いている。彼が冷酷な氷の皇帝と言われる所以だ。

夜、なんとか全員元に戻った。

見慣れた、四歳のフレンが布団を被ってほうと息を吐くのをエメリアは隣で眺めていた。

イヴァンも一日、騎士団で訓練してすでにぐっすり眠っている。

(まぁ実被害は特になかったし、よしとしましょう)

これくらいで動じていたら、妖精の愛し子の母は務まらない。

「ちいさなおかあさまとおとうさま、可愛かったです」

「そう」

「……そうか」

「やっぱり、いもうとかおとうと、ほしいなあ……」

すぐにフレンの可愛い寝息が聞こえてくる。

フレンの――ドアマットヒロインの妹か弟。

そんなことになったら、さらにこの物語はどう転がるのだろう。

「……」

「……」

なんとなく、ギルフォードと視線が合う。そしてお互い、そっと視線を逸らした。

ギルフォードが咳払いをする。

「……そのうちな」

「そのうちなんてありませんから!」

エメリアは思わずそう叫んだ。