軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3章 4

「ここがこの辺りで一番センスがいいって評判の店だよ」

十五分ほど歩いて、私たちはあるお店の前に到着した。

赤い日よけが取り付けられたショーウィンドウには、花柄のドレスが飾られているのが見える。

「いらっしゃいませ」

店内に入ると年配の従業員が出迎えた。

「これはオーランジェ様。ようこそいらっしゃいました」

「オーナーはいる? 彼女のドレスを見立ててもらいたくて」

「かしこまりました。どうぞ二階の部屋へ」

私へ軽く視線を送ると、従業員は店の奥にある階段へと促した。

二階にある部屋に通され、少し待っているとドアが開き、アゲイト様と同年代くらいの男性が現れた。

「ようアゲイト。ここに女連れで来るなんて珍しいな」

「ハンス、客に向かってその態度は何なんだ」

アゲイト様はため息をつくと私を見た。

「ごめんね。ここのオーナー、センスはいいけど口は悪いんだ」

「お前にだけだよ」

そうアゲイト様に答えると、男性は私に向いた。

「ようこそお越しくださいました。オーナーのハンス・シンプソンです」

「……ベリル・セルリアンです」

「セルリアン……侯爵家の?」

ハンスさんはアゲイト様へ視線を送った。

「今夜、急にセントラル劇場に行くことになってね。彼女のドレスを用意して欲しい」

「セントラル? 今日が初日だったか。ロイヤルボックス?」

「ああ」

「今店にあるドレスのリストを用意してくれ」

店員さんたちへ指示をすると、ハンスさんは私に向いた。

「レディ、恐れ入りますが採寸をしたいので、隣室へお願いいたします」

「……はい」

立ち上がると、私は控えていた店員さんたちに案内されながら隣室へ向かった。

*****

ベリル嬢が隣室へ消えると、ハンスがすかさず俺の隣に座ってきた。

「なあ。今の子って、もしかして第一王子の元婚約者か?」

「……ああ」

「何で一緒にいるんだ?」

「見合いだよ。まともな相手が来ない者同士でくっつけということだな」

「――ああ、なるほどね。確かに家柄だけで見れば相応しい相手だもんな」

ハンスは頷いた。

こいつは平民だったが父親の代で子爵位を得たシンプソン商会の次男で、この服飾店を任されている。

貴族と平民、どちらの顧客もいて社交界の話題にも詳しい。

「そうか、とうとうお前にもまともな相手ができたか」

「まだ彼女と結婚するかは分からない。そもそも結婚する気はないし」

「結婚はいいぞ! 信頼は得られるし、家に帰れば愛しい妻が待っているんだからな」

去年結婚したハンスは笑いながらそう言った。

(結婚ねえ)

確かに一人前と認められるには、結婚していることが重要だ。

だが誰か一人と向き合って家族になるなんて――俺に出来るのか?

「で、何でセントラル劇場に芝居を観にいくんだ? あそこは平民向けだろう」

「街を歩いていたらマリアに会ったんだ。今日のロイヤルボックスが空いているから埋めて欲しいって」

ロイヤルボックスは観客席の中でも一番目立つ場所で、スポンサーや金持ちのファンなどが利用する。

ここが空席だと舞台の評判にも関わるし役者の士気も下がると、特に初日は埋めたがるのだ。

「え、マリアと会ったの? ベリル嬢も一緒に?」

「ああ。彼女はマリアとのことを知っているからな」

「そうなの?」

「で、彼女が行きたがったから舞台を見ることにしたんだ」

「ベリル嬢が? 舞台を見たいって?」

「原作が好きな小説なんだそうだ」

「ふーん。そうかジェファーソンだっけ。あれは貴族にも人気がある作家だからな」

「そうなのか」

「女の子が読むにはちょっと渋いけどな。――で、ベリル嬢はどうなんだ?」

ハンスは声をひそめた。

「どうって?」

「確かお妃には向いてないって婚約破棄されたんだろ? 大人しそうな子だけどお前と合うの?」

「――確かに大人しいが。見ていて飽きないよ」

意外と表情豊かで、感情が顔に出る。

好奇心が強く、特に好きなものや興味があるものには宝石のように目を輝かせる。

あの顔をもっと見たいと、そう思う。

「オーナー。こちら採寸結果とドレスのリストです」

店員が紙の束を持って戻ってきた。

「ああ」

リストを渡されたハンスは、別の紙としばらく見比べた。

「んーじゃあ、最初にこのドレスを着てもらって。あと用意して欲しいドレスがここからここまで。それから――」

ハンスが指示すると店員たちが一斉に部屋から出ていく。

やがてドレスを着用したトルソーが次々と運び込まれてきた。

「これ全部、今年の新作なんだ」

ハンスは立ち上がるとドレスの側へ行った。

「ベリル嬢に着てもらえばいい宣伝になるよね」

「ちゃっかりしてるな」

「だってあそこまで品のある美人、貴族でもなかなかいないって」

それは確かにそうだ。

美人はそれなりにいるが、彼女は所作が美しいし気品もある。

さすが王子の婚約者だっただけのことはある。

(それでいて、好きなものを見た時は子供みたいに目を輝かせるんだよな)

そのギャップが可愛いと思う。

「お待たせいたしました」

隣室のドアが開き店員が出てくると、その後からベリル嬢が現れた。