軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

032_ある日の授業風景

リサはアンナマリー達と一緒に学園で講義を受けていた。

百人以上が入れる広い教室は生徒が全員貴族というだけあって、立派な作りをしている。

教壇を中心に扇状となっていて、生徒の座る場所は段差がつけてあって、教師からはどの生徒も確認できて、生徒からはどこからでも黒板を見ることができる。

備えつけの豪華な一枚板の机一つとっても、庶民では手の出ない品物だろう。

「では、魔法史の講義を始めましょう」

ひょろりと背が高く、灰色のマントを羽織った教師が授業の開始を告げる。

入学から数週間が経ったところで、授業はやっと魔法に関するものになってきた。

それまではオルディーヌ王家の成り立ち、王国の政治体勢、国内の地理などの一般的なものばかり。

魔法を学ぶ場だけでなく、貴族の子息子女が学ぶ場という意味も兼ねているのだろう。

けれど、アンナマリー達のような生粋の貴族からすれば、すでに家庭教師から学んだことばかりで退屈のようだ。実際、居眠りしている者を何人も見た。

しかし、魔法の授業が始まれば違う。

今も皆が目を輝かせて授業を聞いている。

「魔法がいつ生まれたのかについては、未だ有力な説がありません」

教師が黒板に、幾つかの説を書いていく。

天使や悪魔が元々使っていたものを付与された説。

ある時点で神が与えた力という説。

魔法が生まれ始めた数百年前に、最初の人間が生み出し、広めた説。

それらをまとめて丸で囲むと、明確な証拠がほとんどないと書き加える。

「ただし、魔法がまだあまり知られていない頃からあったのではないか、というのが今の魔法歴史研究者の共通の認識になっています」

教師は生徒全員を見渡すと、リサの少し後ろの辺りを見る。

「ヴィニシスさん、どんな理由からだかわかりますか?」

どうやら、研究しか頭にないヴィニシスも魔法の授業が始まったら、出席していたらしい。

「伝説、伝承が残っているからでしょう。主に勇者、聖女などといった」

「正解です、さすがよく学んでいますね」

ヴィニシスの答えに教師だけが納得している。

他の生徒達は意味が分からずに置いてきぼりだ。

それに気づいて、教師が説明し始める。

「一人で数万の兵と戦った、不治の病を治したなどの古い話を一度は聞いたことがあるでしょう」

その手の話は子供が好きなので、養護院にいたリサでさえ知っていた。

「その二つではぴんと来ないかもしれませんが、人々を脅かす恐ろしい怪物を倒した、などはわかりやすくありませんか?」

「あっ! 怪物が魔物で、倒した勇者が俺らみたいな魔法使い!?」

誰かが声を上げる。振り向くと、すぐ斜め後ろに木の上でサボっていたキアランがいた。

「キアラン君、その通りです。魔法を使えば、数万の兵と戦うことも、不治と言われていた病を治すことも可能です」

言われてみるまで気づきもしなかった。

人間離れした物語の主人公は、魔法が使えるなら可能だ。

「つまるところ、先生は数百年前まで魔法を使える者は数がいなかっただけで、彼らは英雄として存在していたとおっしゃいたいのですね」

今度は振り向かなくてもわかる。

騎士になりたいカルツだ。彼も近くに座っているらしい。

「ええ、これにも残念ながら証拠がありませんが、他に説明がつきません。今よりずっと少ない確率で魔力を持つ者は生まれ続け、やがて数を増やしていったと考えられています」

確かに納得のいく説明で、他の生徒達も頷いている。

「その後に契機となったのは、皆さんもすでに知っているとおり、第三十代オルディーヌ王の三代爵位魔法令です。貴族に魔力を持つことを命じたことで、魔法使いは一気に数を増やしました」

横にいるデイジーがむっと顔を顰める。

きっと魔法と貴族についてよく思っていないキアラン辺りも面白くない顔をしているだろう。

「おっと、もう時間になってしまいました。では最後に……」

待ちに待った魔法講義ということで、教室は熱気に満ちていて、皆も時間が過ぎるのを忘れていたようだ。

教師がまた生徒をゆっくり見渡してから口を開く。

「皆さんが当たり前に使えている魔法は、王国をあげて常に研究した結果であり、国、ひいては国民全員を幸せにするためであることを忘れないでください。どうか、オルディーヌの未来の担い手となることを望みます」

最後に頷くと、ちょうど授業を終えるベルが教室に響いた。

「本日の魔法歴史学は以上です。午後は課外授業となりますので、それまでに十名ほどのチームを作って現地に集合してください。では、解散!」

午後の予定を告げて、教師が去って行く。

授業が終わって、一斉に教室が騒がしくなった。

「やーっと終わった。あの先生って、いつも最後に同じことを言うわよね」

デイジーが机の上につっぷす。すかさずアンナマリーが肘でつつく。

前回も、あの先生は同じ言葉で授業を締めていた。

「大切なことだからですよ。今のうちから自覚を持って、進路を真剣に考えて欲しい意図なのではありませんか?」

「自覚ねぇ……」

ロースの話に、リサはぴんとこない。

いきなり養護院から貴族へ養子に出されて、国を背負う自覚と言われても、実感がない。

「一つだけわかっていることは……教師だけは無理、ね。あんな根気はないわ」

デイジーの言葉に三人は頷いた。

教えるとか無理だし、何回も同じことを言うなんて絶対に無理だ。