軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93.陛下からの贈り物

ぐー様に花冠を作ってあげた、その翌々日のことだ。

「次の陛下の元への訪問の際、料理はいらないのですか?」

「はい。準備していただかなくても大丈夫です」

陛下の名代として訪れた、メルヴィンさんがそう告げた。

前回の訪問では、ジルバートさんと一緒に作った、自慢のローストビーフを献上したのだけど……。

口に合わなかったのだろうか?

微笑みを浮かべつつも、内心しゅんとしてしまった。

「ご心配なさらず。ローストビーフ、陛下はたいそうお気に入りでしたよ。毒見に回した分以外、全てお一人で食べられてしまいました。私も相伴にあずかれず残念でしたよ」

ほっとする。

メルヴィンさん、鋭くて優しいなぁ。

表情には出していないつもりだけど、気遣われてしまった。

「嬉しいお言葉をありがとうございます。よろしかったら今度、メルヴィンさんにもローストビーフをお届けしましょうか?」

「ふふ、大変嬉しい申し出ですが、辞退しておきますね」

メルヴィンさんはからかうような笑みを浮かべ、

「……私がレティーシア様から料理を受け取ったら、陛下に嫉妬されそうですから」

何やら小声で呟いた。

「メルヴィンさん?」

「お気になさらず。……それで次回の訪問ですが、陛下の食堂で料理を献上するのではなく、薔薇園に来ていただきたいのです」

「薔薇園……。王族の方専用の、ですか?」

四代ほど前のこの国の王妃は、大層な薔薇好きだったらしい。

各地から薔薇を取り寄せ、丹念に庭師に育てさせていたそうだ。

彼女が王城に作った薔薇園は、この国で1、2を争う株数と華やかさらしいが、普段は王族と庭師しか入れなかった。

大切に育てられた薔薇は、初夏から夏にかけて花盛りを迎えるところだ。

その際に一日だけ、国の主要な人間を招き薔薇園が開放される、「薔薇の集い」という行事があった。

「王妃であるレティーシア様は、薔薇園に入る資格がございます。今年の「薔薇の集い」にもご出席いただく予定ですので、現地へその前に赴き、陛下と打ち合わせをなさっていただきたいのです」

「わかりました。喜んで、お受けしたいと思います」

薔薇は好きだ。

私の実家、グラムウェル公爵家の家紋が薔薇なこともあり、薔薇に触れる機会が多かった。

実家の屋敷の薔薇園でお兄様たちとかくれんぼをして、途中から二番目のお兄様がガチになって、魔術剣術なんでもありの乱闘かくれんぼになって……庭師に大怒られした思い出もある。

お兄様たち、元気にしているかなぁ。

あのお兄様たちだから大丈夫だと思うけど、やっぱり少し寂しかった。

またいつか実家の薔薇園で、一緒にお菓子を食べてみたいな。

「……あの、メルヴィンさん、一つお聞きしたいのですが」

「なんでしょうか?」

「薔薇園の中に、あずまややベンチなどはありますか?良かったらそちらに腰かけて、お菓子や軽食などを陛下と食べられたらと思うのですが」

外でお菓子を食べるのは、陛下の気分転換にもなるはずだ。

梅雨のある日本と違い、こちらの夏の初めは晴れが多くからりとしている。

爽やかな風を受けて食べるお菓子は、新鮮で美味しいはずだった。

「確か、ちょっとしたテーブルセットがあったと思います。お菓子を持ってきていただけたら、きっと陛下も喜ばれますね」

「では、軽くつまめるものをお持ちしますね。お菓子と紅茶、カトラリーの他に、何か準備するものはありますか?」

「そうですね……。では、まずこちらを受け取り開けてください」

ミントグリーンの化粧箱を開ける。

「これは、薔薇……いえ、髪飾り?」

一瞬、生花と見まがうような。

薄い花弁を重ねた、薔薇を模した可憐な髪飾りだ。

淡いピンクの花弁に、朝露のような真珠の粒が光り、リボンと白いレースで飾られている。

「陛下からの贈りものです。薔薇園に入る際には、管理者である王から贈られた、薔薇を象った小物を身に着けるしきたりがあります」

「ありがとうございます。こちらの髪飾りにあうドレスで、赴かせてもらいますね」

「お願いいたします。陛下もきっと、喜ばれると思います。レティーシア様に贈る薔薇の色について、悩んでいらっしゃったようですから」

「……陛下自ら、選んでくださったんですね」

鼓動が少し早くなる。

前回陛下にお会いした時、悩んでいる様子や、髪飾りについての話題は無かったけれど。

私に似合うようにと選んでくれた。その心遣いが嬉しかった。

メルヴィンさんを送り出し、さっそく準備にとりかかることにした。

初夏、咲き誇る薔薇、明るい陽光と風に包まれた薔薇園。

どんなお菓子とドレスにしようかと、うきうきと選ぶ私だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

当日はこの国の初夏らしく、気持ちがいい快晴だった。

馬車を降りた私に、透明な陽光が降り注いだ。

「グレンリード陛下、御機嫌よう。本日は薔薇園に招いていただき、光栄に思いますわ」

ドレスをつまみ、一礼。

耳の上に挿した薔薇の髪飾りと合わせた、淡いピンクと白のドレスだ。

首には白レースで飾られた、ドレスと共布のチョーカー。

胸元にはリボンが揺れ、胴体正面にリボンの編み上げを見せるデザインだ。

肩はパフスリーブで、二の腕を包む布地が肘の先で広がり、可憐なレースが何重にも重ねられた姫袖になっている。

スカートは薔薇を伏せたかのように、ふんわりと柔らかに広がっていた。

裾を乱さないよう、気を付けながら礼をしたが、陛下の反応が無いようだ。

「……陛下?」

「……あぁ、よく来てくれた。歓迎しよう」

陛下の碧の瞳が、すいと細められた。

「……な…………」

「? 何でしょうか?」

私の問いかけに対しての、陛下のお言葉は。

「髪飾りとドレス、よく似合って―――――」

「にゃぁっ!!」

よく聞きなれた鳴き声。

いっちゃんの登場に、かき消されたのだった。