軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89.一緒にやってみましょう

こちらを向いたケイト様とナタリー様へと、私は口を開いた。

「お二人はうちの離宮にいらっしゃった時、お菓子をお土産に持って帰ってますよね?」

「はい。帰った後、美味しくいただいています。従者達の分も、とても好評でした」

「うちもよ。おかげで、次にいつレティーシア様の離宮にいくか、せかされてるんだもの」

順にナタリー様とケイト様が、嬉しそうに答えてくれる。

二人とも、私と話す時は程よく肩の力が抜けていた。

私が間に入らずとも、同じように仲良くやれたら素敵だ。

「……でもどうして、今その話をするのかしら?」

「確かに、今日はまだお土産のお菓子をいただいてはいませんが……」

ケイト様は猫耳を揺らし。

ナタリー様は少しだけ瞳を細めて。

それぞれ、戸惑っているようだった。

そんな二人へ、私は提案する。

「お菓子を、一緒に作ってみませんか?」

「え?」

「えっ?」

「お二人とも、私の料理するところを、一度見てみたいと仰っていましたよね。よかったらこれから、一緒に厨房で料理をして、作ったお菓子をお土産にしませんか?」

「私が……」

「厨房に……」

それは考えていなかった、と。

ケイト様のぴくぴくと動く猫耳が語っているようだ。

この国では、貴族令嬢が厨房に立つことが認められているが、あくまで趣味の一種だった。

ケイト様とナタリー様は、高位貴族である公爵家の令嬢だ。

礼儀作法の勉強や社交に忙しく、料理の経験は無いようだった。

「材料や道具は、こちらで用意しています。そう時間もかかりませんし、試しに一度、簡単なお菓子を作ってみませんか?」

前世の調理実習や、お料理教室みたいなものかな?

一緒に料理をすることで、自然と会話も生まれるはず。

ただ顔を突き合わせ会話の糸口を探すより、上手くいくかもしれなかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「レティーシア様、服はこれでいいでしょうか?」

「ナタリー様、良く似合っていますよ」

ナタリー様が、もじもじとエプロンをつまんでいる。

汚れの落としやすい服装へ、着替えてもらうことにしたのだけど。

幸い二人とも、私と背格好が似ていた。

予備として置いてあった、エプロンと厨房用のドレスを装着してもらったのだ。

ナタリー様は髪の色に合わせた水色と白のストライプ柄。

ケイト様はライトグリーンの布色で、それぞれ上に白いエプロンを着る形だ。

二人が厨房に立つと、パッと空気が華やぐようだった。

仕上げに、髪が邪魔にならないようまとめてもらい、さっそく料理の開始だ。

「今日二人には、クレープの生地を焼いてもらいます」

作業台には、あらかじめ休めておいたクレープ生地が置かれている。

最初は、生地作りからやってみようかと思ったけど、それでは時間がかかりすぎる。

料理初心者の二人では、生地を混ぜるのも難しそうなので、今日はそこは省略。

料理の面白さを体験してもらうために、クレープを焼き具材を選んでもらうことにした。

「用意した生地を、このフライパンで焼いていきます」

普段使っているものより、ふちが浅いフライパンだ。

生地をひっくり返す時、やりやすくなっている。

私の説明を、二人は興味深そうに聞いていた。

厨房に入るのが初めての二人にとって、全てが新鮮なようだ。

二人の視線を浴びつつ、フライパンを温め油を引いていく。

火加減を見て、おたまで生地を回し入れていった。

「いい匂いね」

ケイト様が、大きく息を吸い込んだ。

温められた卵と小麦粉の香りが、ふわりと鼻先をくすぐっていく。

「生地に穴ができるので、フライパンをゆらし塞いでいきます。厚さが均等になるよう気を付けて……ヘラで生地を持ち上げて、ひっくり返します」

「まぁ‼」

私の動きに、ナタリー様が小さく声をあげた。

驚いているようだ。

「あとは、裏が焼けるまで少し待って、フライパンから降ろせば完了です」

皿へと、ヘラで持ち上げクレープを滑り落とす。

焼き色のついた生地に、二人は興味津々のようだった。

「すごいわ。こうやって、美味しい料理が作られているのね……」

「お見事です。色も匂いも、とても美味しそうです」

「ふふ、ありがとう。それじゃさっそく、お二人も作ってみましょうか」

「………できるでしょうか?」

「自信、無いわね……」

戸惑いつつも、二人ともそわそわしている。

自分でやってみたいようだ。

「最初から、上手くいかなくても大丈夫ですわ。綺麗に焼けなくても、使いようがありますから、失敗を恐れず焼いてみてください」

「……そこまで言われたら、やってみないとね」

ずずい、っと。

ケイト様がフライパンの前に出る。

その姿を、ナタリー様が応援するように見守っていた。

フライパンを左手に、おたまを右手に。

油を引き、生地を流しいれるケイト様。

「生地がボタっと落ちて……!!」

「お、落ち着いてください!! おたまを、傾けすぎたと思います!!」

咄嗟に飛び出したナタリー様の助言に、ケイト様がおたまを動かした。

少し多めに生地が落ちたけど、まだリカバリー可能だ。

「ケイト様、フライパンを傾けて、生地を均等にしてください」

「均等に? こうかしら?」

「そうそう、そんな感じで。お上手です」

ケイト様は照れつつ、先ほどの私の真似をして生地を焼いていった。

「裏返す時、生地が破れてしまったわ……」

「端っこです。初回にしては、上手に焼けていますよ。次は、ナタリー様がやってみますか?」

「……よろしく、お願いいたします」

ナタリー様が、カチコチと硬い動きでフライパンを手に取る。

わかりやすく緊張した動きに、ケイト様が小さく笑った。

「ふふ、そんな硬くならなくてもいいわよ。ずいっと生地をすくって、トロッと注げばいいのよ!!」

「ずいっと、トロッと……」

ケイト様が、さっそく経験者として語りだす。

ナタリー様は助言に頷くと、おたまに手を伸ばしたのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「うぅ……。あっという間に追い抜かれてしまったわ……」

並べられたクレープ生地を前に、ケイト様が呟いた。

それぞれ10枚ずつ、クレープ生地を焼いたところだ。

ケイト様のクレープ生地は、一枚綺麗なものがあるだけで、残りはどこかしらが破れていた。

「ナタリー様、私と同じ初心者なのに、どうしてそんなに上手なのよ……?」

「レティーシア様と、ケイト様のおかげです」

少しはにかんだナタリー様の前にあるクレープ生地は、10枚中4枚が破れもなく仕上がっている。

最初、おたまを握る手もおっかなびっくりだったナタリー様だったけど、途中でコツを掴んだようだ。

「レティーシア様の真似をし、ケイト様の助言を取り入れ、ずいっとトロッとやったら、上手くいきました」

「ずいっとトロっと……。私だって、同じようにやってるはずなのに……」

……器用さの違いだろうなぁ。

ケイト様も、初心者にしては上手な方だけど、ナタリー様は更に器用だった。

細やかな神経が、料理にも発揮されているようだ。

おたまを持ち悩むケイト様に、ナタリー様が手を伸ばす。

「あの、いいでしょうか? おたまは、こうやって持った方がやりやすいと思います」

二人とも、徐々に打ち解けてきたようだった。