軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

88.困った時、とりあえず飲み物に口をつける人

侍女として働かせて欲しい、と。

そう告げてきたレレナ。

私は彼女を離宮に住まわせ、衣食住の手配をするつもりだったけど、それだけでは足りない――否、足りすぎてしまったのが問題なのかもしれない。

レレナにとって私は、血の繋がりが微塵も無い他人だ。

そんな私に、生活の全てを頼りきりになるのを、レレナは申し訳ないと思っているようだった。

「レレナ、そんなに焦らなくても大丈夫よ。離宮に来て大きく環境が変わったばかりだし、しばらくはのんびり体を休めたらいいわ」

「……ありがとうございます。でも、ずっと部屋で一人でいると、それはそれで落ち着かないんです……」

レレナは引かなかった。

のんびりまったりが大好きの私と違って、体を動かしている方が精神的に楽なのかもしれない。

……レレナが一人きりでいると、故郷やクロナのことを思い出して、辛いのもありそうだった。

「そうね。……じゃあ、準備が出来次第、侍女見習いとして働いてもらってもいいかしら?」

「はい! お願いします!!」

頷いたレレナにいくつか質問をすると、さっそく手続きをすることにした。

考えてみれば、レレナの提案は私にとっても歓迎できるものだ。

かつて私はクロナに、レレナの面倒を見ると約束している。

約束した以上、当面の生活だけではなく、レレナの将来についても気になっていたのだ。

レレナは商人であった両親を亡くしていて、既に頼れる相手がいなかった。

両親の商売を継ぐのも難しい以上、手に職をつけるのが堅実だ。

この離宮の使用人は、王妃である私のために集められただけあり、総じてレベルが高かった。

そんな使用人たちの元で侍女見習いとして学べば、離宮を出た後も、職には困らないはずだ。

「見習いだから、給金はあまり出せないけど……」

それでも、子供のお小遣いとしてはかなりのお金がレレナの元に入るはずだ。

使って良し、貯めて良し。

真面目なレレナだから、数年後には十分な独立資金を手に、一人前の侍女になっているのが期待できそうだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

レレナを正式な侍女見習いとするため、陛下に手紙で許可を貰い、様々な手続きをして。

ベリーやサクランボ、季節の果物でジャムを作っているうちに、ケイト様とナタリー様とのお茶会の日が訪れた。

「ナタリー様、ケイト様。本日はようこそいらっしゃいました」

「ごきげんよう。今日はお世話になるわね」

「……私も、よろしくお願いいたします」

私の挨拶に、ケイト様、ナタリー様の順番で返礼が返ってきた。

ケイト様は大きな声で早口で。

ナタリー様は堅い小さな声で。

二人とも、やはり緊張しているようだった。

「どうぞこちらへ。お茶菓子を用意していますわ」

二人を、前庭にあつらえられたティーセットへと導く。

テーブルの上には、クッキーとドライフルーツなどが用意されていた。

私の離宮で、客人を迎えるにしては控えめのお茶うけかもしれない。

今日は会話を主体にしたかったのと、もう一つ理由があったからだ。

「あら……?」

ケイト様が呟き、少し残念そうにしている。

それだけ、私の離宮でのお菓子を楽しみにしてくれていたようだった。

一方のナタリー様は表情を動かすことも無く、静かに椅子へ座った。

ここのところ、私と二人の時には見せない、感情のうかがえない顔だ。

私には、人見知りなナタリー様なりの処世術だとわかったけど、ケイト様はとっつきにそうだった。

ちょっと不安だけど、今日は二人が互いを知るのが目的だ。

私は聞き役をしつつ、会話を見守ることにする。

……したのだが。

「このクッキー、アプリコットが乗っていて気に入ったわ。ナタリー様はどうかしら?」

「美味しいと思います。ケイト様は、アプリコットがお好きなのですか?」

「えぇ。味も香りもお気に入りよ。ナタリー様は、どんな果物がお好きかしら?」

「果物でしたら、どれでも美味しくいただけます」

「……そう」

またもや、会話が途切れてしまった。

ナタリー様、口下手だ……。

自分の好みを口にすることで、相手と趣味が違っていたらどうしよう、と。

そう心配し、無難な答えしか返せないのはよくわかる。

わかるのだけど、それじゃお互い、どんな人間かわからないままだ。

加えてナタリー様は、受け答えの間ほぼ無表情だ。

ケイト様の方も、そんなナタリー様に更に一歩踏み込んでいくのは躊躇っていた。

明るく積極的な性格のケイト様だけど、同時に感情的で不器用なところがあると、彼女自身理解している。

ナタリー様とはついこの間まで対立しており、獣人と人間という種族の違いもあったため、ぐいぐいといけないようだった。

私も何度か会話の助け舟を出していたけど、あまり出しゃばりすぎても意味がないから、難しいところだ。

「この紅茶も、美味しいですわね……」

かちゃり、と。

ケイト様の茶器が音を立てる。

……気まずい。

既に、ケイト様は本日3杯目の紅茶だ。

間を持たせるためか、ケイト様はしきりに茶器や茶菓子に手を伸ばしていた。

うーん、やっぱり、同じ年ごろの二人とは言え、すぐに上手くはいかないか。

思い出せば前世だって、クラス替えからしばらくはぎこちなかったもんね。

今の二人の状況は、あれだ。

友達の友達と、距離を測りかねている感じ?

時間が解決してくれるかもしれないけど、こんなこともあろうかと、私には準備していたことがある。

「ケイト様、ナタリー様。このあと少し、お時間よろしいですか?」

「……レティーシア様?」

「何? 何があるの?」

ケイト様とナタリー様が、いっせいにこちらへと顔を向ける。

かみ合わない二人だったけど、その時だけは、息があっているようだった。