軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37.主として認定されたようです

クロナの裏切りの発覚から、今日で三日が過ぎた。

彼女に下される罰は、牢への二年前後の収監となる予定のようだった。

犯した罪に比べれば、だいぶ軽い罰と言える。

軽減理由は主要被害者である私が厳罰を望まなかったのもあるが、クロナの自白した情報が、とても有用だったからである。

盗作の具体的な手口や関わった人間の情報。

更には芋づる式に、クロナの家に借金を吹きかけた金貸しの、薄汚い実体も明らかになったのだ。

以前からきな臭い評判のある金貸しで、グレンリード陛下も怪しんでいたが、悪事の決定的な証拠はつかめていなかったらしい。

そこへきて、クロナのもたらした情報が端緒となり、金貸しとディアーズさんの嫁いだ家の癒着が明らかになったのだ。

陛下はこれ幸いと彼女たちの罪を追及し、膿を出し切るつもりのようだった。

「ディアーズさん、60年間の牢屋暮らしかぁ…………」

ぐー様をスリッカーブラシでとかしながら呟く。

ディアーズさんへの処罰は、10年前後の服役で決まりかけていたらしい。

しかしそこにクロナからの情報と、王妃である私を間接的に殺そうとした事実が追加されたのだ。

罪状は増えに増え、罰は当初の数倍に。

この世界の平均寿命は、日本よりだいぶ短かった。

貴族と言えど、80を超え生きる人間は少数だ。

現在37歳のディアーズさんにとって60年の服役は、実質終身刑のようなものだった。

そしてギラン料理長にも、30年の服役が下されていた。

シフォンケーキの盗作が、よりにもよって陛下の贈り物で行われており侮辱罪に該当したのが理由だ。

料理人として名をはせていたのも今は昔。

盗作を犯し名誉を失った平民である彼に、罰の軽減を願い出る人間はいなかったのだった。

「あとはナタリー様への処分だけど、陛下はどうなさるつもりかしらね?」

ぐー様に話しかけてみると

『今聞かれても困る……………』とでも言うように顔を反らされてしまった。

「あなたに話してもわからなくて当然よね。でもその銀の毛皮や、碧色の瞳が、陛下の髪や瞳の色と似てるせいか、なんとなく陛下のことが気になるの」

ブラッシングの成果を確認し、ぐー様の全身を見る。

うん、我ながらいい出来栄えだ。

整えられた銀の毛並みの先端が、陽に透けてきらきらと輝いている。

今すぐもふもふを堪能したくなるが、以前調子に乗って撫でまわしたせいか、撫でようとすると唸られるのだ。

私の完全なる自業自得だが、とてもとても残念なことである。

「それにしても私、陛下に悪いことをしたかもしれないわ」

ぐー様の耳がピクリと動いた。

「泣き寝入りせず盗作を暴くには、時間の関係で生誕祭の場しかないと思ったとはいえ…………年に一度しかない陛下の誕生日に騒動を起こしたのは、悪かったと思うのよ」

「うぉうっ」

『そんなことは無いと思うぞ。気にするな』

私を気遣うように、ぐー様が鳴いた気がした。狼に慰められてしまったようである。

「ありがとう。陛下も、あなたのように思ってくれていたら良いのだけど…………。お贈りしたシフォンケーキについても、まだ直接感想をもらえていないの。生誕祭で騒ぎを起こした私に腹を立てているかもしれないし、そうじゃないとしても、陛下はお忙しい身だから、仕方ないのだけどね」

『お忙しい身』というあたりで、一瞬ぐー様がギクリとしたような?

…………気のせいだろうか?

「あ、もちろん、シフォンケーキについて、返礼の手紙はもらってるのよ? でも、ごく形式的な文言しか並んでいなくて………できることなら一度、陛下にケーキの感想を直接聞いてみたいの。改良点があったら参考にしたいし、色々騒動になったとはいえ、元は陛下の誕生日のために作っていたケーキだものね?」

陛下の人柄についてはよく知らないし、この先深く関わることはないかもしれないけれど。

この離宮での生活を整えてくれた陛下には、私なりに感謝していた。

だからこそ、感謝の気持ちも込めて、贈り物にシフォンケーキを作ろうと思ったのだった。

…………まぁ、純粋な感謝の気持ちだけでは無くて。

どうせなら、この世界では物珍しい料理にしようと、打算含みでシフォンケーキを選択した結果、盗作騒動が巻き起こってしまったわけだけど…………。

その盗作騒動が落ち着いた今、陛下のシフォンケーキへの感想が気になった。

生誕祭での贈り物は毒物混入の恐れを排除しきれないため、陛下はすぐには口にしない決まりだ。

まず毒見に確認させ、当日夜か翌日にでも召し上がったはずである。

「陛下、甘いものが嫌いというお話は聞かなかったから、美味しく食べてもらえてたらいいのだ――――わっ!?」

掌へと、ぐー様が頭をこすりつける。

………自ら触れてきたということは、撫でてもいいのだろうか?

恐る恐る撫でると、逃げることも無くじっとしていた。

もふもふで気持ちいい。

「ぐー様…………?」

嬉しいけど、何故いきなり撫でさせてくれたのだろうか?

『礼のようなものだ。有難く受け取っておけ』

と言わんばかりに、こちらを横目で見るぐー様。

よくわからないタイミングだが、せっかくなのでもふもふさせてもらうことにする。

力加減に気を付け、前回のようにうっかり撫でまわさないよう注意する。

そうして毛皮を堪能していると、ぐー様が立ち上がり耳を前後へと動かした。

ぐー様の注視する方向を見ると、やがてガラガラと馬車の音が響いてくる。

やってきたのは、四頭立ての馬車に乗った、ナタリー様の使者だった。

そしてその馬車の、本来なら人の乗り込む座席のあるべき箇所には、大きな木箱が鎮座している。

「レティーシア様、失礼いたします。一つご確認したいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「何でしょうか?」

「こちらの箱の窓をご覧になっていただけますか?」

馬車の後方、木箱の窓になっている部分を見に行く。

小さな開口部から、見覚えのある猛禽の瞳が見返してくる。

「グリフォン………?」

「はい。きちんと満腹にさせ、鎖もつけていますから、外に出してもよろしいでしょうか?」

「………えぇ、構わないわ」

箱が開けられる。グリフォンが踏み出し、悠々と翼を広げた。

白い毛で覆われた猛禽の頭と翼、筋肉の盛り上がる獅子の胴体と後ろ脚。

精悍な姿の幻獣だが、後頭部の両脇からぴょこんと飛び出した飾り羽が、猫の耳のようで可愛らしかった。

グリフォンはぐー様に少し驚いたようだが、すぐにこちらへと体を向け直す。

金茶の瞳と目が合って――――――グリフォンが頭を下げた。

猛禽類の前脚を折るようにして、頭部を地面へと垂れる。

頭部と首筋、急所を私へとさらけ出すようなその体勢は。

「恭順の姿勢…………?」

「やはり、レティーシア様を主にと選んでいたのですね」

使者が納得いったとばかりに頷いた。

グリフォンという幻獣は、とても誇り高い生き物だ。

稀に『この人こそはわが主に相応しい』と思った人間に、尽くすことがあると聞いている。

………グリフォンのこの態度、明らかに三日前の雷魔術が原因よね………。

幸運なことに私の魔術によって、墜落時の打ち身以外骨折も無く、グリフォンの無力化に成功している。

そのせいでグリフォンに格上認定され、更には主認定にまで発展していたようだった。

「レティーシア様さえよろしければ、グリフォンをお譲りしたいのですが…………」

「グリフォンは、穏やかな気性で貴重な幻獣だったんじゃないかしら?」

「はい。ですが同時に、主と決めた人物がいる場合、他の人間には飼いならせず放っておくと暴れまわるので、こちらも手を焼いていたんです」

「なるほど…………」

使者たちが困った様子で、そしてグリフォンが期待に満ちた目でこちらを見つめてきた。

その期待には応えたいのだけど……………

「今回はレティーシア様に色々とご迷惑をおかけしてしまいましたし、グリフォンの処遇についても頭を悩ませていますので、お詫びに今後10年分の餌代や雑費は出させていただきたいと思います」

「わかりました。大切にグリフォンを預からせてもらいますね」

即答である。

グリフォンほどの巨体になると、餌代や飼育代も馬鹿にならなかった。

そこら辺がクリアでき、なおかつグリフォンもこちらを望んでくれているのなら、障害は何もなかった。

―――――――――狼、庭師猫に続き、離宮に関わる新たなもふもふとして、グリフォンが加わったのだった。