軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

143.決闘を受けましょう

決闘の代理人に名乗り出た私。

テオドールは驚き、やがて失笑を浮かべた。

「王妃様が、どうやって空を飛ぶっていうんだ? ついにご乱心されたか?」

「失礼なことを言わないで。私はごく正気よ」

テオドールへと冷ややかに言い返す。

決闘?

上等だ。

いい加減、テオドールの言動にはストレスがたまっていたのだ。

ここらへんで一度、がつんとやっておいた方がいい。

「フォン!」

名前を呼ぶと、私の忠実なグリフォンであるフォンがすぐさま小屋から飛んできた。

鋭い猛禽の瞳と嘴に、数匹の天馬が体をぶるりと震わす。

天馬達を怖がらせないため、フォンには小屋から出ないよう頼んでいたのだ。

広々とした外へ出て、気持ちよさそうに翼を広げていた。

「私はこのグリフォンに乗るわ」

「でたらめを言うな。グリフォンが、背中に人間を乗せ飛ぶわけがないだろう」

鼻で笑うテオドール。

いちいち腹が立つ笑い方だった。

「ご心配なく。何度か実際に、フォンに乗り空を飛んだことがあるわ」

フォンに乗るために練習し飛行許可を得て、専用の鞍と手綱、命綱一式を用意させていた。

私の意を先回りしたルシアンが、鞍を持ってきてフォンへと装着してくれている。

テオドールも、私の言葉がただの出まかせでは無いと気がついたようだ。

「もう一度聞こう。正気か? もし、王妃様がグリフォンから落ちても、俺は責任なんか取らないからな?」

「こちらこそ、ご心配なくと言ったでしょう? 空を駆け目印を回り、開始点へと戻ってくる。他に何か、ルールはあるのかしら?」

鞍と手綱の具合を確認し、腰にベルトを巻き命綱を装着した。

「わかった。この決闘、俺が見届けてやろう」

エルネスト殿下が名乗りを上げてくれた。

彼と、そしてこちら側からはルシアンが、審判役になることに決定した。

「天馬騎士を一人、少し離れた場所まで飛ばし空中へ待機させ目印にさせよう。目印を回って折り返し、先に開始地点に戻ってきた方が勝ちだ」

エルネスト殿下の指示を受け、天馬騎士隊の副隊長が飛び立っていく。

『空中の天馬が、一か所に留まり続けるのはとても難しいんだ。だからこそ、天馬同士の決闘の際の空中での目印役には、力量のある天馬騎士が選ばれるんだよ』

幼い頃、クロードお兄様に読み聞かせてもらった書物の内容が頭に蘇る。

クロードお兄様、お元気かしら?

妹は今、驚きそして興奮していますよ。

まさか自分が、天馬騎士流の決闘を行うことになるなんて、人生予想できないことばかりだと実感中だ。

命綱の最終確認を行い、伏せの体勢をとるフォンへとまたがる。

テオドールも自信満々に、こちらへの見下しを隠しもせず葦毛の天馬へと騎乗した。

「開始の号令と共に、知を蹴り空へと飛び立て。目印を回り戻ってきた後は、地上へと降りずそのまま開始地点を駆け抜けろ。今回は双方怪我をしないよう、天馬とグリフォンの体を相手にぶつけたり、進路を妨害するのは禁止とする。敗者は勝者に謝罪し、ニーディア伯爵夫人の飼い犬の件について、勝者の指示に全面的に従うことになる。……何か他に、わからないことはあるか?」

右腕をまっすぐもちあげる、エルネスト殿下へと頷く。

「準備完了。いつでも飛べるわ」

「俺もだ」

目印の天馬騎士を見据え、フォンの手綱を握る。

軽い緊張とともに、腕をあげるエルネスト殿下の開始の合図を持つ。

「――――始めっ!」

右腕が振り下ろされ。

ぐん、と。

地を蹴る衝撃と共に、フォンの体が浮かび上がった。

振動と翼が風を叩く音。

見る見るうちに、私は上空へと運ばれていた。

「早いっ⁉」

後ろからテオドールの叫びが聞こえた。

気が付けばそれなりの差が、テオドールとの間についている。

スタートダッシュはこちらの勝利のようだ。

ごうごうと耳元で風が鳴る。

フォンと共に宙を一直線に飛んでいく。

テオドールとの間隔は変わらずか、縮んでいるとしても少しずつのはず。

目印の天馬騎士を通り過ぎUターン。

さすがにターンは本職であるテオドールの方が上手で、一気に間隔が縮んだ。

それでも、このままのペースなら逃げ切れるは――――

「きゃっ⁉」

突如フォンが右へと曲がった。

必死にバランスを取り見ると、つい今まで私とフォンがいた位置にテオドールがいる。

天馬を急加速させたせこちらへと突っ込んできたのを、フォンが察知し避けてくれたのだ。

「体当たりは禁止でしょう⁉」

叫ぶも、テオドールが振り返る様子は無い。

頭にきた。

だとしたらこちらも、本気でやらせてもらおう。

「フォン、行くよ!」

「きゅあっ!」

応えるよう鳴くフォン。

素早く体内の魔力を集め、指先から放ち魔術を行使する。

「なっ⁉」

急加速するフォン、狼狽するテオドールの声。

フォンはあっという間にテオドールに並ぶと、猛烈なスピードで追い抜いていった。

加速のからくりは魔術による風の後押し。

以前、フォンに乗り空を飛んだ時、試してみたら成功していたのだ。

フォンの体に負担を駆けないよう、風の強さは調整しているが、それでもかなりの加速性能のだった。

「勝負ありだ!」

勢いのまま、開始地点で叫ぶエルネスト殿下の頭上を通過する。

減速をかけつつUターンして見ると、ようやくテオドールが開始地点に到着したところだった。

「ふふ、私の完全勝利ね!」

勝利宣言をしVサイン。

テンション上がるね。

レースの興奮で脳内に、アドレナリンがどばどばと出ている気がした。

フォンを着陸させ地上へと降りたところで、

「おい、今のはいったいどういうことだ⁉」

エルネスト殿下が近づいてきた。

声に私を咎める色はなく、むしろ感嘆の気配がある。

「あれほどの速度で飛ぶ人間は初めて見た。魔術を使い加速したんだな?」

「はい。魔術で風を―――――」

「あんなのインチキだっ!」

テオドールが怒り叫び声をあげていた。

「魔術を使うなんて、一言も言っていなかったろうが卑怯だぞ‼」

「使わないとも言ってないわ。ルール違反をしたのは、体当たりをしかけてきたあなたの方でしょう?」

瞳を眇め睨みを利かせておく。

テオドールは一旦怯みつつも、こちらへ掴みかかってこようとした。

「ふざけるな! 今の勝負はむこ、うっ、なっ⁉」

テオドールの喉元に白刃が突き付けられている。

エルネスト殿下の握る長剣だ。

カッパーの瞳には、憤怒の影がちらついてる。

「テオドール、今日この時をもって、おまえを天馬騎士から解任する」

「なっ⁉ どうして俺がっ⁉」

愕然とするテオドール。

エルネスト殿下は動じることなく、静かに長剣を構え続けていた。

「これ以上、我が国の恥を晒してくれるな。おまえがレティーシアとグリフォンに体当たりを仕掛けた瞬間を、多くの人間が目撃している」

「あ、れは……。事故です! 事故なんです! たまたま運悪く、ぶつかりそうになってしまっただ――――ひいっ⁉」

たらり、と。一筋。

強く押し当てられた白刃から、テオドールの血が滴り落ちる。

「運が悪かった? 誉れ高き天馬騎士が、自らの天馬を満足に操ることすらできず天馬騎士相手以外に負けるなどと、恥以外の何物でもないだろうが!」

一喝すると、エルネスト殿下は長剣を鞘へと納めた。

「で、殿下、お待ちくださいお願いいします。謝ります。謝りますから! どうか俺の天馬騎士の解任は取り消して―――――」

「本気で叩き切られたいのか? 俺より先に、謝るべき相手がいるだろう」

エルネスト殿下が冷え切った声で突き放した。

「まだ気が付いていないのか? レティーシアへの体当たりの寸前の加速で、おまえはかなり天馬に無理をさせたはずだ。見ろ。おまえの天馬は、左の翼の付け根の様子がおかしいだろうが」

「あ……」

テオドールは気が付いていなかったようだ。

エルネスト殿下の瞳に一瞬、殺気にも似た光が浮かんだ。

「やはり、おまえは天馬騎士失格だ。天馬は国の宝にして騎士の相棒だ。無造作に扱い怪我をさせたおまえに、騎士と名乗る資格は欠片も存在していない」

どうやら、エルネスト殿下が一番怒っているのは天馬の怪我についてのようだ。

逆鱗に触れたことにようやく気が付いたテオドールが、顔を真っ青にして震えている。

「正式な処分と通達文章は追って出すことにする。それまで、テオドールは天馬騎士団駐屯地の一室に入れておけ」

「はっ!」

エルネスト殿下の指示に、天馬騎士達が速やかに従った。

誰一人、呆然とするテオドールを慰めようとはしていない。

天馬騎士達の間でも、密かに嫌われていたのかもしれなかった。

テオドールが離宮から去ると、エルネスト殿下がこちらを見つめた。

「決闘の勝者はおまえだ。そちらの望み通り、ニーディア伯爵夫人の愛犬については後日、テオドールに非を認めさせ謝罪に向かわせることにする。伯爵夫人もそれでいいな?」

「え、えぇ。わかったわ」

場の雰囲気にのまれ黙っていた、ニーディア伯爵夫人が頷いた。

そろそろ頭も冷えてきたようだ。

「でも、もしこのまま、ジョゼちゃんが見つからなかったら絶対に許さないわ。ジョゼちゃんの命に値段はつけられないけれど、それでも。テオドールには重い罰を――――」

「くあっ!」

一声鳴き、フォンが突然起き上がった。

離宮の入口の方角を見ている。

何ごとかと見ていると、やがて。

地を駆ける集団が、猛烈な勢いでこちらへと近づいてきた。

「あれは……猫か?」

エルネスト殿下が胡乱気にしている。

近づいてくるにつれ、集団の細部が見えてきた。

白、黒、茶、灰色、三毛猫。

様々な毛柄の猫、いや、庭師猫の集団だった。