軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103.魔力を測定してみましょう

幻獣であるくるみ鳥を引き取るには、いくつもの手続きが必要だ。

手続きに必要な書類を揃えてもらう間、ボドレー長官に魔術局を案内してもらうことになった。

魔術局にはおおよそ、二百名ほどの魔術師が勤めているらしい。

地方に赴いている魔術師も多いため、この建物に日勤しているのは、半分ほどのようだった。

「つづいてこちらは、魔石の加工作業を行う工房になります」

壁一面に棚が設けられた一室だ。

魔石や様々な魔術触媒、そして金属の板などが、分類して納められている。

魔石をエネルギー源にした道具、紋章具の制作も、魔術師の仕事の一つだ。

「綺麗に整頓されていて、作業が捗りそうですね」

「はは、ありがとうございます。リディウスが喜びますよ」

「リディウスさんは紋章師なのですか?」

紋章具の制作を専門とした魔術師は、紋章師とも呼ばれている。

元の世界で言う、理系の研究者に似たところのある職業だった。

「えぇ、そうです。あれでなかなか、リディウスは紋章師としては優秀な男でしてな。魔術触媒の扱いについても、人一倍きっちりしておりますよ。……できたらその細やかさを、他のことにも向けてもらいたいところですが……」

ボドレー長官が苦笑している。

研究一筋の人間にありがちなように、リディウスさんもまた、身の回りのことには無頓着な性格のようだった。

ボドレー長官と会話しつつ、魔石加工の工房を後にし歩いて行く。

「あ……」

ちょうど次の部屋に、話していたリディウスさんが立っていた。

魔石をいくつも机に並べ、実験の途中のようだ。

「噂をすれば影、というやつですね。レティーシア様、ここは計測器がおかれた一室でして、紋章師のリディウスも、よく利用しているんです」

紋章具は魔石さえあれば、魔術師でなくても魔術を扱うことができる道具だ。

便利だが貴重で、それにきちんと設計と組み立てを行わないと、魔術が発現しなかった。

紋章師であるリディウスはこちらを一瞥すると、計測器らしき立方体にじっと視線を注ぎ、中の紋章具を一心に観察している。

確か先ほど、新たな魔術式の構築に成功したと言っていた。

さっそくその魔術式を組み込んだ、紋章具を測定しているのかもしれない。

仕事を邪魔しては悪いし、早く計測室から出ようと思ったのだけど――――

「レティーシア様、せっかくいらっしゃったのですし、魔力量を測っていきませんか?」

ボドレー長官が部屋の奥、水晶のはまった金属板を指し示した。

水晶に血を垂らすと、魔力量がわかる仕組みだ。

紋章具の一種で、魔力量に応じて発光する魔術式が刻まれている。

それなりのお値段がするため、この国にきて目にしたのは初めてだった。

「使わせてもらって良いのですか?」

「魔力量の把握は、魔術師にとって重要ですからな。もちろん、表示された魔力量を覗いたりはしないとお約束しますよ」

魔術師の実力は、魔力量に大きく依存している。

魔力量は重要な個人情報の一つで、身内以外には正確な魔力量を教えないのが普通だ。

「ありがとうございます。お言葉に甘えますね」

魔力量は年齢によって、ある程度増減するものだ。

通常は肉体の成長と同じように、ニ十歳前後までは増加し、その後は加齢と共にゆっくりと目減りしていく。

今17歳の私は、魔力が増える時期だ。

前世の記憶を思い出した影響で、魔力効率がぐんと上昇したためわかりにくいが、魔力の絶対量自体も増えているはず。

ルシアンから護身用の短刀の1本を受け取ると、そっと鞘を滑らせた。

効き手と反対の、左手の小指へと刃を軽く押し付ける。

血が滲み軽い痛みが走るが、どれくらい魔力量が増えたのか、計測結果を見るのが楽しみだ。

数か月前、祖国エルトリア王国で計測した時は、一番上のお兄様より少し少ない7500ほどだった。

お兄様との差が縮まっているといいなぁ、と。

血を垂らした水晶を見ていると、

「きゃっ⁉」

「ななっ⁉」

突如、眩しい光があふれ出した。

思わず目をつぶってしまう程の光。初めて見る反応だった。

「レティーシア様⁉ これはいった、い……」

ボドレー長官の顔が固まった。

その視線の先。

光がおさまった金属板には、びしりとヒビが走っていた。

「………」

気まずい沈黙が落ちる。

さきほどの光と言い、経験のない現象ばかりだが、おそらく原因は私だ。

「レティーシア様、何かなさいましたか?」

「使い方通り、血を一滴垂らしただけのつもりなので――――」

「貸してくれ僕が見る」

いつの間にかやってきたリディウスさんが、じっと計測器を覗き込んだ。

手に取り持ち上げると、全方向から異常を精査している。

「派手に光ったのは水晶だがこちらは正常だよって術式基盤の問題か? 第二十三から第二十七までの回路に走ったヒビは過負荷による歪みによるものかこの壊れ方が示すのはつまり――――」

目を見開き、ぶつぶつと呟いていたリディウスさんが、計測器をそっと机に戻した。

原因が判明したのだろうかと見ていると、

「わかりました‼ レティーシア様は素晴らしいお方だ‼」

「っ⁉」

ぎゅうっと、肩にリディウスの両手が食い込んだ。

感極まったように、そして私を逃がすまいとするように。

リディウスさんが体を寄せてきた。

「見てくれこの魔術基盤の歪みをこれはレティーシア様の魔力によるもので計測限界を遥かに超えた結果だ!」

「……計測限界を超えた結果……」

迫ってくるリディウスさんの顔から視線を反らし、ヒビの走る計測器を見た。

色々と気になる発言だが、とりあえずリディウスさんが近すぎる。

「すみませんが、少し体を離してもらえませんか?」

「十年以上紋章具の研究に関わって来ましたが初めての経験ですおかげでこの計測器の持つ潜在的な欠陥に気づけ魔術基盤との接続端子についての改良案が思い浮かびそうで―――――」

滔々と語るリディウスさんに、私の声は届いていないようだ。

ボドレー長官の顔が引きつり、背後でルシアンの気配が剣呑になるのを感じた。

「リディウスさん、まずは落ち着いてください」

「……あ」

肩に置かれた手首を握ると、さすがにリディウスさんも気づいたようだ。

紋章師であり研究一筋に見えるリディウスだが、男性だけあり私より太い手首だった。

ごつごつとした骨があたる手首に指を添え、そのままゆっくりと肩から持ち上げる。

「そんなに近づかなくても、リディウスさんの声は届きますわ。私も先ほどの光について知りたいですから、お話を聞かせて――――えっ?」

言葉の途中で、リディウスの顔が近づいてくる。

避けようとして、瞳が閉じられているのに気づく。

意識を失い、倒れこんできたようだ。

「レティーシア様!」

咄嗟にリディウスを支えた私の体を、ルシアンが隣で支えた。

にこにこと笑顔を浮かべてはいるが、リディウスに向ける目が笑っていない。

「……眠っている……?」

ルシアンの視線もなんのその。

リディウスはすやすやと、健やかな寝息を立てているのだった。