軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

侯爵令嬢の休息

「シャルンテ様、お湯加減はいかがですか?」

「よろしくてよ」

わたくし、シャルンテは侯爵令嬢。

生まれも育ちも、平民とは大きくかけ離れてますの。

パパはわたくしが望めば何でも買ってくれますし、ママは絶世の美女。

小さい頃から様々な作法を学び、護身術なんかも心得ておりますのよ。

学ぶ環境、与えられる環境。そして美貌。

すべてを兼ね揃えたわたくしですがパパ曰く、スキルが心配だったとのこと。

ですがそんな心配はすぐに吹き飛びましたわ。なぜなら――

「あぁ、シャルンテ様……水も弾くお肌……何よりも目の保養になります……」

「フフフ……」

ここ、バスルームにいる女達はわたくしの虜ですわ。

わたくしのスキル、魅了は老若男女問わず従えさせられますの。

そしてここを出れば、素敵な男性達がわたくしを待ってます。

着替えを済ませてほら、わたくしの部屋に戻れば――

「シャルンテ様! ご入浴、お疲れ様です!」

「肩をお揉みしましょう!」

「ルワール産の四百年もののワインはいかがですか?」

この男性達もわたくしの虜、何でも言うことを聞きますのよ。

わたくしがソファーでくつろぐと、周囲には七名以上。

フフフ、こういうの。なんていうのでしたっけ?

そう、ハーレム? ウフフフフ。

「あの魔道士はうまくやりましたの?」

「テホダマーは魔道士協会エクセイシア王都支部きってのスピード魔道士。暗殺に適した人物です。ご期待通りの結果を見せてくれるでしょう」

「馬鹿となんとかは使いようですわね。魔道士協会、最初は非協力的でしたのに……」

「シャルンテ様のお供よりもたらされた情報、あれ一つで目の色を変えたのは実に滑稽です」

わたくしに暴行を加えたあのクソ平民女。

思い出しただけでもはらわたが煮えくり返りますわ。

目が覚めた時は怒りで頭がいっぱいでしたが、そこで冷静になるのがわたくし。

わたくしの下僕の一人が目にしたのは、あの平民女が持っていた杖ですわ。

あれは間違いなく焔宿りの杖。

誰でも中級魔法が放てるというとんでもない杖、あれを魔道士協会が欲しがらないわけがありませんの。

いえ。正確には許せない、でしたわ。

「なぜ平民女があんなものを持ってるのかしら?」

「薄汚い平民のことです。大方、どこかから盗んできたのでしょう」

「きっとそうですわ。あれは侯爵家が全資産を投資してようやく手に入れられるかというもの……。クソ平民女、本当に意地汚くて薄汚いですわ」

「シャルンテ様に暴行を加えたばかりか盗み……。しかし今頃、テホダマーの手で葬られてるでしょう」

なぜ貴族が貴族でいることができるか。

平民は今すぐ思い知るといいですわ。

地位があり、金があり、力がある。だから成せる。

クソ平民女の一人や二人、消すくらい訳がありませんの。

平民が現実を理解できないのは仕方ありませんが、それを教えてやるのもわたくし達の務め。

持っている人間はすべて持っているということを知らないのですわ。

スキル至上主義なんてものがありますけど、わたくしの魅了は条件さえ満たせばどんな人間でも手中に収められますわ。

それなのにあのクリード王子は――

「わたくしのほんの一部でも美しいと思えば、あなた達のように即魅了……」

「シャルンテ様。誤解でございます。私達はスキルなどであなたに見惚れたわけではありません」

「あら、言うじゃありませんの」

「あなたという高貴な人柄に、自ら確信をもって惚れたのです。失礼ながらクリード王子はそれを見定める域にいないのでしょう」

「ウフッ、ウフフフ……そう、そうですわね」

そう、わたくしの美貌をもってすればすべてが思い通り。

美もスキルも地位も資産もないクソ平民女が持たないものをわたくしは持っている。

多少、力が強いだけで何の教養もない野蛮な女がクリード王子に近づくなんて。

「思い出したら腹が立ってきましたわ。テホダマーとかいう魔道士、きちんと」

突然、轟音が鳴り響きました。

これは外から?

「な、何事ですの!」

「賊です! 賊が屋敷の正面から攻めてきました!」

「賊ですって! 警備は何をしてますの!」

「ただ今、対応に当たっております!」

この屋敷の警備はそこらへんのザコではありませんわ。

パパが厳選した精鋭の下僕達は騎士団にも負けないはずです。

これまで何度か賊が侵入してきたことがありますが全員、殺されるか無期限の鉱山労働で過労死ですの。

派手な侵入でご苦労なこと。

どうせすぐに――

「うあぁあぁーーーー!」

「ひぎぃ!」

「な、なんですの? なぜ悲鳴が聞こえますの!」

「シャ、シャルンテ様……お逃げください……。悪魔、悪魔が……」

警備の一人が青ざめて報告に来ましたわ。

悪魔ですって?

フン、悪魔どころか魔王だろうとこの侯爵令嬢シャルンテを脅かせるはずがありませんの。

権力に逆らえばどうなるか。すぐに身をもって思い知るはずですわ。

「下らない報告など必要ありませんわ。とっとと賊をどうにかしなさい」

「あ、あの強さは王国騎士団でも手に負えません! この国の存続の危機ですらあります!」

「馬鹿なことを言ってないでとっとと」

その時、部屋の扉が木っ端みじんになりました。

そこに立っていたのはあのクソ平民女。

たかが平民――

「あ、そ、それって……」

クソ平民女が片手に持っているのは紛れもないパパですの!

ボロ雑巾のようになって、ガウンごとぶら下がってますわ!

ということは。警備は。

「ごきげんよう、シャルンテお嬢様?」

「あ、あ、い、いや……」

体の芯が冷えて震えが止まりません。

わ、わたくしに、こんなことをして。

ど、ど、どどど、どう、なる、か。