軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

同時接続百万

配信開始から二十分で、同時接続が二十万を超えた。

「早い」

凛花のインカム越しの声が、心なしか緊張を帯びている。

「前回の動画が拡散した影響です。今日は古代遺構の再探索と告知していましたから」

「地上の状況は」

「ダンジョン入口前に人が集まり始めています。冒険者ではなく、一般人の野次馬です。管理組合に連絡が入っているようですが、今のところ問題はありません」

「了解」

俺はカメラを前方に向けながら、《構造透視》を起動した。

前回と同じ入口。前回と同じ石の扉。前回と同じ闇。

「行きます」

コメントが一斉に流れた。「きたああ」「心拍数上がってる」「古代遺跡二回目」「前回のラスト忘れられない」。

今回は中間層まで潜ることが目標だった。前回確認した中央の球体——あの脈動するものの正体に近づくためには、外壁から中核への中間に位置する第二層を通過する必要がある。

《構造透視》のマップを全体展開する。

直径五百メートル以上の円形構造は変わっていない。ただ、前回と一点だけ違う。

「マップが更新されています」

「……どういう意味ですか」

「前回潜ったことで、スキルのマップ精度が上がった。初回は大まかな輪郭だけだったが、今回は壁の内部構造まで細部が見える。第二層に続く通路が、前回は見えていなかった」

「それは——」

「三本あります」

コメントが「三択」「どれ行くの」「RPGすぎる」と流れた。

《構造透視》で三本の通路を解析する。幅、高さ、内部の素材密度、そして——生物反応。

「右通路、中間に反応あり」

「モンスターですか」

「おそらく。止まって詳細を見る」

俺は通路の入口から動かずに、スキルを右通路の奥に向けて絞り込んだ。マップに熱源に近い反応が三つ。配置と間隔を見ると、群れで動いているわけではない。三体が別々の位置で、しかしある規則性をもって配置されている。

「番人みたいな配置だ」

「構造を守るために配置された、ということですか」

「それか、自然発生したにしては綺麗すぎる間隔で並んでいる。どちらにしても、ここのモンスターは今まで見てきた管理型ダンジョンのものとは違う」

コメントに「管理されてる」「人工的な配置」「怖すぎて鳥肌」が流れた。

俺は右通路に踏み込んだ。

四十メートル進んだところで、最初の一体と正面から向き合った。

見たことのない形をしていた。

石の色に近い灰色の体。足はなく、床を這う形状。全体の輪郭は不定形だが、前端に何か硬質な器官が集中している。《構造透視》で内部を見る。

「外殻と内部で素材が違います。外殻は岩石に近い密度、内部に高密度の核がある。サイズは全長で約一・五メートル」

「弱点は」

「今見てる」

《構造透視》を内部構造に集中させた。核の位置、周囲との接続、外殻の厚みのムラ。

右前端から七センチ内側、外殻が薄くなっている点がある。核への経路が一番短い場所。

「右前端の七センチ内側が最薄部です。そこに当てれば核に届く」

「理解しました」

「俺がやる」

短剣を右手に持ち、距離を詰めた。モンスターが反応して前端の器官を広げた——攻撃動作だ。《構造透視》でその動きを先読みしながら、踏み込みを右にずらす。器官が空振りする。

右前端、七センチ内側。

刺す。

手応えがあった。核に当たった感触が、刃を通じてはっきり伝わってきた。

モンスターが一瞬硬直して、崩れた。

「倒した」

コメントが止まり、一拍おいて爆発した。「えっ」「一撃!?」「Cランクでこれは異常」「《構造透視》バグってる」「普通にBランク以上の立ち回りじゃないですか」。

「ありがとうございます」と俺は言った。「スキルが見せてくれた場所を突いただけです」

「それが誰でもできないから異常なんですよ」と凛花の声がした。

二体目、三体目も同じ手順で処理した。三体目は移動速度が上だったが、《構造透視》が動作予測を補助した。戦闘に使い始めて実感しているのだが、このスキルは戦闘予測にも使えるらしい。構造だけでなく、動体の動作パターンも「次の形状」として読み取れることがある。

第二層に入ったのは配信開始から一時間後だった。

第二層の天井は第一層より高く、幅も広い。壁を走るエネルギー回路の密度が上がっていて、《構造透視》で見ると発光の強度が違う。

「第二層に入りました」

コメントを見ると、同時接続が六十万を超えていた。

「凛花さん」

「見えています。SNSで拡散が加速しています」

「上が動きますよ」

「……わかっています」

第二層を百メートル進んだところで、《構造透視》のマップが更新された。中核の球体が、前回より二回りほど大きく見える。距離が縮まっただけではない。スキルの精度が上がって、より詳細な情報が入ってきている。

球体の内部に、輪郭がある。

前回は「形がある」としか言えなかった。今は——。

「凛花さん」

「はい」

「球体の内部に、人型の構造が見えます」

コメントが止まった。

「……人型、と言いましたか」

「人間と同じかどうかはわからない。でも、頭部に相当する球形構造と、胴体部分、それに四肢に近い伸長があります」

「それは——」

その時、《構造透視》のマップに変化が起きた。

球体が、鼓動するリズムを変えた。

一定だったはずのリズムが、急に速くなっている。それと同時に、施設全体のエネルギー回路の発光強度が上がった。壁が白く光り始めた。

「反応しています」

「何にですか」

「俺が近づいたことに、かもしれない」

施設全体が、俺を感知した。

その確信が来るのに時間はかからなかった。

球体の鼓動がさらに速くなる。脈動が増す。壁の文字が、一斉に光り始めた。

「榊さん」と凛花の声に、初めて緊張がにじんだ。

その声のわずかな変化を、俺は聞き逃さなかった。インカムを通しても分かる。初めて聞く緊張の色だった。

「わかってる」

撤退か、前進か。

コメントが「行け」「下がれ」「下がれ」「行け」と両方流れている。

《構造透視》のマップで球体を見た。

球体の内部の人型構造が——こちらに向いた。

「同時接続、百万超えました」

凛花の声が、静かに届いた。

百万人が息を呑んでいる。鷹峰のクランに「スキルエラー」と切り捨てられた探索者が、今、百万人に見られている。笑えない話だが——悪くない。

俺は《構造透視》を最大まで広げたまま、球体を正面に捉えた。

感知している。こちらを感知している。

そして——呼んでいる。