軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その6

薄暗い路地の壁に押し付けられ、頰を染める魔性の美貌のダークエルフ。服は乱れ、引き締まった腹筋が覗いている。控えめに言って、なんとも艶かしい。

うおっほん、ごほん

我ながらわざとらしい咳をすると、私はラグナルの服を手早く整えた。

「ごめんなさい」

一歩下がって距離をとると、深々と頭を下げる。

なんだったらイーの里に伝わる最上級の謝罪である土下座を披露してもいい。

ラグナルは片手で顔を覆って俯き、長い長い溜息を吐いた。

それから何かを振り切る様に頭を振ると、顔を上げる。

「力と記憶の封印は間違いなく解けている。体も記憶も印を刻まれる前の状態に戻った」

そう告げる声には疲労がにじんでいた。

すぐ右隣で、かつんとステッキが小石を弾く音がした。ノアが並んだのだ。

「ふーん、じゃあただ単に元々お子様ってだけか」

「俺は子供ではない! 成体だ!」

挑発にやすやすとのるダークエルフ。やっぱり何かひっかかる。

「ラグナルって何歳なの?」

「ダークエルフに歳を尋ねることほど人間にとって無意味なことなどないと思うが?」

ラグナルは質問に質問で返した。

「今日はまだ、六つ目なんだけど?」

質問は一日十個までのはずだ。そう言ってラグナルを見上げる。

「ノアと同じぐらいじゃねーのか?」

よほど答えたくないのか口を引き結ぶラグナルと睨み合いをしていると、左手からウォーレスの声が聞こえた。見れば自身の顎を撫でながら観察するように目を細めてラグナルを見つめている。

「ということは18か」

具体的な数字を口にするのは、ウォーレスと共にいつの間にか追いついていたキーラン。

「うへえ、同い年? でも、なんか納得かもー」

ノアが嫌そうに眉をひそめた。

ウォーレスの隣に立つルツはというと、心配げな顔でラグナルを眺めるばかり。

「こいつよりは歳上だ!」

……うん、今のセリフでなんとなく分かったよね。

「20歳に一杯」

「19だな」

「じゃあ僕は18歳5ヶ月にかける」

ウォーレスが酒を掛けると、キーランとノアが次々にのった。

「で、何歳なのさ?」

ノアの問いかけに、ラグナルはとうとう観念した。

「……19」

決まりが悪そうにぽつりとこぼす。

ダークエルフというだけで、なんとなくずっと歳上なのだろうと思い込んでいた。先入観って怖い。

でも、ノアの言うように納得だ。

顔つきからも声からも体からも、幼さはなくなっていたが、ふとした折に見せる表情がまだ彼が年若いことを物語っていたのだ。

「なんだ、何か文句があるのか」

緩く波打つ髪をかき上げながら睨みつける。その仕草も19と言われればしっくりくる。

「いや、文句なんてないよ」

そうかぁ、年下かあ。しみじみと反芻しているとチッと舌を打つ音が聞こえた。

「帰るぞ」

言うなり褐色の指が手首を掴む。

「おいおい、この流れで帰るか? 一杯付き合えよ」

ウォーレスが軽い調子でそんなラグナルを止める。

「生憎と明日は朝からコールの森に潜ることになっている」

それは、そうなんだけど。

「でもラグナル、どっちにしろ食事には寄って帰らなきゃ。家に戻っても何もないよ?」

すでに日はとっぷりと沈み、体は空腹を訴えている。

「せっかくの再会だ。奢ろう」

キーランのこの一言で、その日の夕食はご相伴に与ることになった。

短い道中に、ラグナルがロフォカレに所属すること、キーランのチームに入ることを告げる。ノアが不満げに鼻を鳴らしこそすれ、誰からも反対の声は上がらなかった。黒魔法に長けたダークエルフが加わるのだ。否やなどあろうはずもない。

酒と煙草の匂いと喧騒で満たされた酒場は、ラグナルが足を踏み入れた途端、時を止めた様に静けさに包まれた。

そこここでダークエルフの登場に驚く声があがる。

人々がダークエルフに対して抱くイメージは、人間嫌いの黒魔法ジャンキーである。警戒するなと言う方が無理だろう。

しかしそんな空気は長く続かなかった。

浮き足立つ皆の中央にキーランが進み出て、「ロフォカレに新しく加わることになったラグナルだ。よろしく頼む」と頭を下げたのだ。

ホルトンの街随一の討伐ギルド・ロフォカレ。そのロフォカレでも並ぶもののいない腕をもつキーラン。寡黙で実直な彼の信頼は絶大だ。

ロフォカレの預かりなら、と人々の動揺はあっという間に収まり、すぐに酒場の中は普段の様子に戻った。

明日にはここにいた人々から話が広まり、ラグナルの存在は周知のものとなるだろう。

ロフォカレ御用達の酒場は酒類も豊富だが、食事も美味しい。

ラグナルの大食いは大人になっても健在だった。

キーランと二人で黙々と皿を空けていく。

酒好きのウォーレスに勧められて軽く酒を飲み、明日のサオ茸採取のため、皆より少し早く店を出ることにした。ほろ酔い気分だった。店を出る間際ルツにそっと耳打ちされるまでは。

――イーリス。ラグナルから印術の気配を感じます。

そうルツは私に言ったのだ。