軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

予兆

「ま、大まかなところは毎週伝えてあるから知っているだろうが、表向きには特に何事も起きてない」

カミロは俺の目を見ながら言った。

納品に行かないときでも定期的に「新聞」として、カミロから都や世界の情報を手紙で送ってもらっている。

なので、おおよその情勢は〝黒の森〟に住んではいても知っているのだ。

「つまり、表向きにできない話がある?」

アンネがそう言った。カミロは彼女のほうを見て頷く。

「帝国皇女殿下の前でする話ではないかも知れませんがね」

「今更過ぎない?」

アンネが苦笑すると、カミロは敬語も捨てて再び頷いた。

「だな。まず、朗報が一つ。公爵派の勢いが減っている。男爵くらいの連中がそこそこ処罰されている。表向きには処罰されたとは分からないようになってるから、ほとんどの民には分からないはずだ」

「見せしめはなかったのか」

ヘレンが言うと、カミロは肩を竦めた。

「なかった。エイムール伯爵閣下の話だと、今はなるべく静かに、じわじわ浸食していきたいらしい」

「流石にすぐ気づくだろ」

俺は思わず口を挟んだ。メンツェル侯爵やエイムール伯爵……マリウスたちと丁々発止でやり合う連中である。子飼いの貴族が表向きには分からずとも処罰されていってるのをみすみす見逃すはずはなさそうだが。

「いや、そこはほら、共和国からの工作があるだろう? あれに目がいっている隙を突いているらしい」

「ルイ殿下か」

「ご名答」

現国王の末弟で、自身も公爵(あるいは大公爵)と呼ばれる身分であるルイ殿下。彼は表向きは閑職ということになっている地位に納まっているが、その実は情報機関の長だ。

その彼が夜闇に紛れて政治工作を仕掛けているなら、バレないのも納得はできるな。

「ここまで詳しいということは、随分噛んだんだな」

「儲け話は逃さないタチでね」

そう言って呵々大笑するカミロ。俺もつられて笑う。

「でだ、良くない話もある」

カミロの表情からスッと笑顔が消えた。切り替えが早いのは商人がなせる業か。

「共和国?」

「そうだな」

俺は言葉短に確認をした。思った通り、共和国がらみであるらしい。

王国と帝国に戦を仕掛けるつもりがあるとかなんとか。

俺の確認の言葉に頷いた後、カミロは少し口髭を弄っていたが、すぐに俺の目を見て言う。

「共和国がらみで、お前には帝国に行って欲しいんだ。これは王国としての依頼になる」

「俺? 俺たちではなく?」

カミロは「お前たち」ではなく、「お前」と言った。つまり、エイゾウ一家ではなく、俺だけということだ。

「内容が内容だけにな。一介の鍛冶師に単独で動いて貰ったほうがいい、と判断したようだ」

誰が、とはカミロは言わなかった。

「私が行かないのはなぜ?」

アンネが気色ばんで言った。俺も他の家族はともかく、彼女を連れて行かない理由はないように思う。

なんせ帝国皇女だ。お忍びで王国に来ていたが、帝国に戻るという名目なら、人が多くいても違和感はないだろう。

アンネには悪いが、これを活用しないほうが違和感がある。

「そっちは皇帝陛下からの言づてがあったそうだ。今回は王国に留めておけ、と。どうやら万が一のことも考えてるようだ、とマリウスは言ってたな」

カミロは口髭ではなく、顎をさすった。

皇帝陛下の言づてを考えると、目立つのもよろしくないっぽいな。

であれば、竜車に小竜、狼、あと普段は見えないが炎の精霊と一緒にぞろぞろと美女を引き連れて移動するのが言語道断、なのは理解できなくはない。

「引き受けるかは一旦置いておいて、俺は1人で行って何をするんだ?」

俺がそう尋ねると、カミロは一瞬キョトンとした顔になって、笑って言った。

「言っただろ、鍛冶師として、鍛冶の仕事をして貰うんだよ」