軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再びの〝いつも〟

陛下が帰ってから一晩。翌朝の我が家は、見慣れた日常を取り戻していた。

俺はまだ薄暗い内に起き出し、クルルとルーシー、ハヤテにマリベルを連れて湖へ水汲みに向かう。

気づけばルーシーの身体はかなり大きくなっている。もう少し大きくなると、大型犬と言って良いくらいじゃなかろうか。

なので、水瓶の大きさもそこそこである。さすがにクルルと比較すると力が強いわけではないので、以前と比べれば大きい、と言う程度だが。

「よしよし、えらいぞ」

湖について水を汲み終わり、頭を撫でると、ルーシーは鼻を鳴らして嬉しそうに尾を振る。クルルは相変わらず大きな水瓶を首から提げ、足取りも軽い。

ハヤテはクルルの背中で周囲に目を配り、マリベルは少し暗い道を仄かに照らしてくれている。

朝のひんやりとした空気の中で、湧き水の匂いと娘たちの息遣いが心地よかった。

「今日は狩りに出るのか?」

「そうだな」

「了解」

朝食をとりつつ、今日一日の予定を立てていく。サーミャたちは今日は狩りに出るらしい。

俺とリケは鍛冶場で作業なので、皆を見送ってから鍛冶場に移動する。

皇帝の剣を打っていた数日間は特注に専念していたので、いつもの作業の勘所を戻す意味でも、普段の作業をやっておこう。

リケが慣れた手つきで鉄を運ぶ。

鍛冶場で金属を打つ音が重なり合い、リズムを刻む。昨日までの特別な緊張はなく、ただ〝いつもの〟作業が流れていく。

昼前、普及品のナイフが数本仕上がったところで作業を区切り、鍛冶場の外に出て一旦涼む。やはり、鍛冶場の気温は相当なもので、夏でも外のほうがまだ涼しい。

リケも外に出てきて水を飲みつつ、一緒になって涼んでいる。

「もうだいぶ暑いなあ。中のほうが遙かに暑いけど」

「そうですね」

俺とリケはそう言って笑顔を交わす。

涼しい、とは言っても夏であることには変わりなく。外もそれなりの気温なので、涼むのもほどほどにして、昼食をとりに家に戻った。

昼食を終えてから作業を続け、日がかなり傾いてきたころ、家族が戻ってきたので作業を切り上げる。

鍛冶場を片付け、風呂に入り、皆で夕食を摂る。

皇帝の剣を打った日々は少し特別だった。だが、それが終わり、こうして家族が揃って笑い、食卓を囲む。これこそが守りたいものだ。

一足早く食事をやっつけた俺が宙を見上げると、星が瞬いていた。

庭を見てみると、これも先に食事を片付けた娘達がはしゃいでいた。

マリベルが小さな炎で蛍のように宙を舞い、ルーシーがそれを追いかけて庭を駆け回っている。クルルはその様子をのんびり眺め、ハヤテは羽を震わせて涼風を送る。

俺は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。

――皇帝の剣も、共和国のきな臭い話も、すぐに何かが起こるわけではない。

だからこそ今は、家族と過ごすこの〝いつも〟を噛みしめておこう。

星空の下、工房の灯りが穏やかに揺れていた。