軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皇帝の剣、火床にて

朝食を片付けると、鍛冶場の準備にとりかかる。

陛下がいるので(当然ながら見学を希望したし、断るのも気が引けたのだ)いつもとは準備を変えることも考えたが、それは止めにしておいた。

炉と火床には着火の魔法、鞴には送風の魔法を使う。

「ほほう、魔法が使えるのか」

「ええ、少しだけですけどね」

俺は心ここにあらずを装いつつ、火床の中で蠢き、立ち上る炎を見極める。

陛下はそれ以上何かを言ってくることはない。

見つめていると、火床の炎は色を変えていき、やがて準備が整ったことを教えてくれる。

「さて……」

皇帝の剣を打つにあたり、まずは素材を決める必要がある。

これまでの依頼品でもミスリルやオリハルコンなど、特殊な素材を使ったものはあった。

今現在、うちにはアダマンタイトとヒヒイロカネがあるので、それらを使うことは可能だ。

その分値が張ることになるが、うちは客が決めた額を払ってもらうことになっているので、赤字の可能性もある。

しかし、一国の主がそこをケチらないだろうという確信もある。こう言っては失礼だが、あの性格でもあるし。

それに、ミスリルやオリハルコンは持ち込みだった。うちから特殊な素材を持ち出したことは今のところない。

ヘレンの双剣にはアポイタカラを奢ったが、あれは家族に作ったものだしなあ。

よし、決まりだ。俺は火床から目を離し、陛下のほうを見て言った。

「陛下の剣は鋼で打ちます」

「鋼、か」

陛下が首を傾げる。

「ええ。陛下がお望みなのは『ご自身で使う剣』。ならば特別な鉱石ではなく、人が容易に扱えるものであるべきです。よほどのことがなければ、修理も研ぎもできますから」

俺の説明に、陛下はゆっくりと頷いた。

「なるほど……言われてみれば確かにそうだ。俺が度々佩くことになる剣だ。ならば、鋼が良い」

今度は俺が頷いた。陛下は「それで人を斬るかも」とは言わなかったが、それも全くありえない話じゃないんだろうな……。

火床のそばではリケがせっせと炭を寄せている。今回は久しぶりの〝特注品〟だ。彼女も陛下と同じく「見学」をすることになっている。

まあ、リケの場合は手伝いも兼ねているし、着眼点が陛下とは大きく違うわけだが。

「親方、準備できました!」

「おう、ありがとな」

他の家族はそれぞれ、〝普及品〟を作る為の準備に取りかかっている。

ふと、窓の外を見れば、そこでは娘たちが庭を走り回っているのが見えた。

「賑やかな工房だな」

陛下も俺と同じように外を見やり、その後鍛冶場の中を見回して、感心したように目を細める。

「ええ。これが俺たちの〝いつも〟です」

応えながら鋼の塊を火床にくべる。熱がじわじわと染み込み、赤々とした光が浮かび上がる。

俺は真っ赤に染まった鋼を取り出し、金床に置く。

ごつん、と重みが響く。

「では……始めます」

槌を振り下ろす。鋼が悲鳴を上げるように火花を散らし、光が舞う。

二度、三度と槌を振るうごとに、塊がわずかに伸びていく。

温度が下がれば、また火床に入れて熱を与え、鎚を振るっていく。

それを数度繰り返した後、俺は汗を拭いながら、リケに負けず劣らずの真剣な眼差しで作業を見つめる陛下に声をかけた。

「陛下、槌を持たれた経験は?」

「戦に使うものなら何度か。だが、鍛冶場の槌はまた違うだろうな」

「よろしければ、叩いてみますか」

「ほう?」

陛下は片眉を上げたが、その目は明らかに興味で輝いている。

俺は少し軽めの槌を差し出した。陛下は迷いなく受け取り、赤熱した鋼を見据える。

風切り音が聞こえるかと思う勢いで、陛下は鎚を振るった。

ガキン! と、鍛冶場に力強い音が響く。

流石に俺やリケ、そしてカレンさんほどではないが、勘所がいいのだろう、思いの外力加減や当てるところは悪くない。

「お見事です」

「鍛錬で培った勘だな。……だが難しいものだ。武器として振るうのとはまるで違う」

「それはまあ、確かに」

陛下は何度か槌を振り下ろし、やがて肩をすくめて槌を俺に差し出す。

「なるほど、これは奥深い。――鍛冶屋殿、任せたぞ」

「承りました」

俺はわざと仰々しく礼をして、それを受け取った。