軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

街の夏

日の光がジリジリと体を焼く。これは幌とまではいかずとも、屋根みたいなものは付けた方が良いかもしれないなぁ。

四隅に長い棒を立てて、布を張るみたいな方式なら森の中や荷物の積み下ろしの時なんかには畳んでしまえるからありかも知れない。

問題はいささか見た目がよろしくないということだが、利便性に優先するものはあるまい。別にこれで諸国漫遊したりするわけでもないし、うちは貴族でもない。いや、2人ほど貴族はいるのだが。

それでもまだ前の世界の夏ほどではないし、風が吹けば森の中ほどではないにしろ涼しさはあるので、更に暑くなるようなら考えよう。すぐ出来るし。

暑いと獲物を待つのも命がけになってくるからなのか、野盗のたぐいが出ることもなく、街の入り口に辿り着いた。

「どうもー、今日は暑いですねぇ」

いつも入り口で見かける衛兵さんに声をかける。彼は軽く手を上げて返事をしてくれた。

「おー、あんたらか。すっかり夏だなぁ」

彼はそう言って、腰に提げた水袋から一口飲む。さすがに金属鎧を着けて立ちっぱなしだからなぁ。水分補給の重要性を知っているのも、科学的なものというよりは経験則からくるものに違いない。

彼はふぅと一息ついたあと、一瞬だけ俺たちに視線を飛ばすと、すぐに視線を街道に戻す。

俺たちは通って良い、ということだ。顔なじみであっても最低限のチェック(本当に最低限ではあるが)だけは欠かさない。

そんな彼に何事もおこらないことを内心祈りつつ、通り過ぎるときに頭を下げた。

街の賑わいはそんなに変わらない。少しだけ人の出が少ないかな、というのと、街に住んでいるのであろう人々の服装がやや軽装ということくらいだ。

一方、他所から来たっぽい人達はすこし着込んでいる。防寒というよりは純粋に身体の保護だろうな。我慢できなくて脱ぐほどではないのだろう。つまり、多分この場でいちばん暑がっているのは俺なんだろうな。

いつもの強面で通りを睨むように座っている屋台のオッさんも、いつもより少し薄着で小さく荷台のルーシーに手を振っていた。クルルが見えたであろうくらいからちょっとソワソワしていたので、楽しみにしてくれているのだと思うとちょっと嬉しい親心である。

気がついたルーシーが「わんわん!」と声を上げ、尻尾をブンブンと振るとオッさんの相好が少し崩れた。あのオッさんが何者かは知らないが、そのうち撫でるくらいのことはさせてやろう……。

カミロの店の倉庫に荷車を入れ、荷車から外したクルルとルーシーも連れて裏手に行くと、いつもの丁稚さんが飛び出してきた。彼も半袖短パンになっている。少年という言葉そのままの風貌にはよく似合っていた。

「やあ、暑いねぇ」

「そうですねぇ。あ、クルルちゃん達はあっちへどうぞ」

丁稚さんが指した先には、壁に長い木の板が立て掛けてある。結構広い範囲で、クルルでも余裕で座ることができそうだ。

「あそこだと日陰になるので」

「おお、すまないな、ありがとう」

俺はそう言って、丁稚さんの頭をガシガシと撫でる。丁稚さんはちょっとくすぐったそうにした後、クルルとルーシーと一緒に移動していった。ルーシーが足元に体を擦り付けているが、あれは丁稚さんの脚をもつれさせようとしているんだろう。

「“おいた”したら、遠慮なく怒ってくれていいからな」

「いえ、大丈夫ですー!」

丁稚さんはつっかえつっかえ、日陰に入っていった。俺たちは微笑ましい気分でそれを見送りながら、中に入る。俺の肩のHPは順調に減っていた。

「暑くなってきたのにすまんなぁ」

カミロは商談室に入ってきて、開口一番そう言った。番頭さんはいない。先に品の確認をしに行ったんだろう。

「仕事だからな。ここからの収入がなかったらメシが食えないよ」

俺は苦笑してそう返す。……そう返しはしたが、嘘といえば嘘である。家族がクルルとルーシーも含めて9人いたとしても、しばらくは何とかできるだけの蓄えがある。

それに、食料も燃料もある程度は自前で調達できている。もし今この瞬間、契約打ち切りのようなことになっても、1~2年くらいはもたせられるだろうな。どうしようも無くなってきたら、皆にはそれぞれの場所へと移って貰うしかないが、それはだいぶ先の話のはずである。

「そうか。まぁ、雨季と違って雨が続いたりとかじゃないからな。来てくれるなら俺も助かる」

「売れてるのか」

「まぁね」

カミロはニヤリと笑う。これはなんかある時だな。俺の近くに座っているヘレンから僅かばかりの殺気が放たれた。これはイラッとしたんだな、きっと。

「お前から預かってた、というか教えてもらったやつがあっただろう?」

「教えた……? ああ、サスペンションか」

俺が言うと、カミロは「そうそう」と頷く。

「あれの量産を始めることができてな。手始めにうちの馬車につけていくことにしたんだよ。いやぁ、あれはいいな」

「おお、そうか!」

ちょっと前に「そろそろ量産が始められそうだ」とは言っていたが、とうとう始まったのか。これで物流が少しスムーズになっていくはずである。

そして、物を運ぶことがスムーズになるということは、すなわち軍隊なんかの輸送もスムーズになるということだ。それが何を引き起こすのかまでは、神――大地の竜でもいいが――ならぬ俺には分からない。

なるべく世界が平穏でいてくれると嬉しい、と願うより他ない。もしかするとリュイサさんが接触してきたのは、その辺もあるのかも知れないが。

「で、ちょっと遠くまで運べるようになったんで、その分、お前のものも遠くまで持っていってるんだよ。今のところは売れ行き好調ってところだな」

カミロの言葉に、小さく「おぉ」と言ったのはサーミャとリケだ。ここに卸す商品には彼女たちの手になるものも含まれている。それがよく売れていると聞くのは純粋に嬉しいだろう。俺だってそこは嬉しい。

「なるほど。数を増やしたりとかは……」

俺がそこまで言ったところで、カミロが首を横に振る。

「ま、ここに持ってくりゃいくらでも捌いてやるけどな。わざわざ増やしてもらう必要まではないよ」

ふーっとため息をついたのは、うちの家族の誰かだ。誰かまでは分からなかったが。ガチャリと扉を開けて、番頭さんが入ってきた。カミロは言葉を続ける。

「で、あのサスペンションと合わせて、今回はこれくらいだろうってことになった」

番頭さんは手にしていた革袋をテーブルに置いた。俺は中を確認する。

置いたときの音からまさかな、と思っていたが、そこにはたくさんの金貨が詰まっていた。