軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暑さ

それから数日間、納品するための品物を作っていた。その間、夏の暑さについては厳しくもあったが、倒れる者も出ずに過ごすことができた。元々暑い鍛冶場で働いている家族ではあるが、それでも事故なく過ごせたことはよかった。

今のところ井戸を掘っておいて良かったと思えたのは、 邪鬼(トロール) 退治のあとに体を冷やしつつ綺麗にできたあの1回くらいで、あとは汲んできた水で事足りていた。

しかし、足りなくなるかもと思った日もあったので、あれで本当に足りなくなっていたら井戸の出番であったわけだ。今後そうなる可能性は十分にあると考えれば、慌てて作った甲斐がある。

そうして、納品の日。いつもの通り荷物と俺達を積んで、クルルの荷車は森の中を進み出す。今日も太陽が照りつけていて、森の中であってもなかなかの暑さをもたらしていた。

「この木陰が多い森の中でもこの暑さかぁ」

「親方は北方出身だからか、暑さに弱いんですね」

「いや……うんまぁ、そうかもな」

正確には長年のエアコン生活(ほぼ家と職場を電車で往復するだけの生活で、その全てでエアコンが効いている)に慣れきってしまった面が大きいと思うのだが、それを話して理解できるのはリュイサさんくらいなものなので、そういうことにしておいた。

実際のところはと言うと、日本の夏のように蒸し暑いらしい。インストールされた知識にはそうある。ここらは湿度もそれなりにあるにはあるのだが、より日光が直接暑い感じで、暑さの質が違うから体が戸惑っているのもあるだろう。

「街道はもっと暑いのかしらね」

膝の上でぐでっとなっているルーシーを撫でながらディアナが言った。なお、ルーシーがぐでっとなっているのは暑さにバテているのではなく、単に力を抜ききっているだけである。

「草原の草は伸びてたけど、日の光は遮られそうにないから、暑いんじゃないか? ルーシーには布か何かで日陰を作ってやるといいかも」

俺がそう言うと、ヘレンが荷物を漁って布を取り出した。まだ森の中なのでかぶせたりはしない。尻尾をパタパタさせているルーシーを見て、ヘレンは相好を崩す。

荷車をさすりながら俺は言った。

「これも改良して幌でもつけたほうが良いかな。日差しを遮るし、雨の時にも荷物を大きく濡らさずに移動が可能だし」

「でも、森の中を進むからねぇ」

「枝にぶち当たるんじゃないかなぁ」

周りを見回しながらアンネが言って、サーミャが引き取った。鬱蒼とした森である。樹々は奔放にその枝を伸ばしている。幸い座っている間はその枝葉にぶち当たるということはないが、アンネなら今この状態で立てば頭をぶつけてしまうだろう枝がいくつか見える。

そして幌は中で立てるくらいの高さが欲しい。ということはつまり、その高さで幌を作るとあちこちに引っかかるだろうことが容易に想像できた。

「まぁ、何かしら考えておくか」

俺はそう言って視線を前に戻す。森の出口が見えていて、その向こうではより強く日が差しているのが分かる。

そよそよと揺らぐ緑の草原が広がっている。すっかり背を伸ばし、所々では日光を求めてだろうか、人の背丈ほどもある箇所が見える。

風がその表面を撫でていくのが、なびく草の動きでわかった。

「これはこれで綺麗ですね」

リディがその様を見て感心したように言った。暑さ、というファクターを除けば、美しい光景であることには違いない。

「日が直接差すとやっぱり違った暑さがあるな」

刺すような、といえば良いのだろうか。頭や背中を焦がすような鋭い暑さがやってくる。

ルーシーはさっきヘレンが取り出した布を屋根のように荷物にかけて作った日陰に潜り込んでいる。多少は風も通るらしく、快適そうに尻尾を振り回していた。

「クルルは平気そうか?」

「クルルルルルル」

俺はリケに聞いてみたのだが、「本人」から返事がきた。あの声の感じは機嫌がいい時のだから、きっと平気なのだろう。

「キツくなってきたら、ちゃんと止まるんだぞ」

「クルー」

分かった分かった、とでも言うように、クルルは軽く頭を振って一声鳴く。せっかく機嫌がいいのに余計なことを言ってしまったかな。

あるのかどうか分からないが、もしクルルに反抗期が来てしまったら、俺は相当なショックを受けるに違いない。見ればディアナも複雑そうな表情をしているから、同じことを思っているようだ……多分。

そんな未来の杞憂も載せて、クルルの牽く竜車は暑い夏の日差しの中、一路街へと街道を進んでいった。