軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

粘土のような、そうでないような

家に帰った俺たちがまず行うのはクルルと荷車を切り離すことだ。装具を外されたクルルは若干名残惜しそうに、体をぷるぷると振るわせる。

その足下にルーシーが近寄っていき、「わん!」と一声鳴くと、クルルは頭をそっとルーシーに擦り付け、ルーシーはパタパタと尻尾を振っていた。

それを見て、ほんわかした気分になりながら(同時にそろそろ肩アーマーを装備することも考えながら)、荷物を荷車から下ろしていく。

いつもの通り、ほとんど全ての品をひとまず倉庫に運び入れる。香辛料や調味料は家の方の物置に入れる。

こっちにあった方が、台所にあるのが無くなったときに補充するのも楽だしな。

そして、もう1つの品物。鎖でがんじがらめにしてある箱は鍛冶場に運び込んだ。

今日もクルルのおかげで、帰ってきて荷物を運び込んでからでも、まだ昼飯ごろの時間だった。

テラスに敷物を敷いてその上に座り、クルルやルーシーと一緒に昼飯を食べることにする。

ワイワイとみんなで食べる昼食は楽しいものだが、そこにヘレンがいないことに一抹の寂しさを覚えてしまうのは仕方のないことだろうか。

彼女の場合、今回はともかく、いずれは傭兵稼業に戻ることも十分にあり得るのだから、こういうことには今のうちに慣れておいたほうがいいのだろうな。

そんな俺を気遣ってくれたのか、今日は珍しくルーシーが俺の膝の上にちょこんと座り、肉を食わせろと催促してきた。

「よしよし、お前は優しいな」

俺が味付けも何もしてない肉をやって頭を撫でると、ルーシーはご機嫌に尻尾を振った。俺に子供ができたら、こんな感じなのかね。

……今のところ、その予定もつもりもないが。

それを見たのか、クルルも外から頭を突っ込んできたので、撫でてやる。

「クルルル」

喉を鳴らすように鳴いて、顔をペロリと舐められた。

「こら、くすぐったいぞ」

本当にうちの娘たちはいい子だな。気がつくと、みんなが俺の方を優しい目で見ていたので、俺は照れ隠しに自分のスープを口に運んだ。

「さて、それじゃあ見てみますかね」

昼食が終わり、俺たちは鍛冶場に集まっていた。いつもなら、この時間は各々好きなことをする時間だ。

しかし、今日はいつもと違うものがある。鎖でがんじがらめにされた箱だ。

俺はマリウスから預かった鍵を錠前に差し込むと、そのまま捻る。

ガチャリ、と音がして錠前が外れた。この錠前自体にも興味はあるが、それよりも今は箱の中身である。

そっと箱を開けると、中には綿のようなものに包まれた小さな革袋が入っている。

なんとなく恭しく手に取ると、なかなかにズッシリとした手応えを感じた。

そして、中をあらためる……前に一度、神棚に置いて柏手を打っておいた。祈るのはもちろん、今後の作業の成功と無事である。

みんなが見つめる中、革袋の物を取り出す。金色の塊が姿を現した。重さ的にも普通の金塊のように見える。

「どれ」

金床にそっと置いて指で押してみると、若干の抵抗はあるものの、指の形にぐにっと凹む。確か純金だと爪で傷がつくくらい、だったか。それと比べても相当に柔らかいようだ。

だとすると金以上の展延性があるんじゃなかろうか。金は1グラムで3キロメートル近くまで伸ばせるらしいし。

手に持ってギュッと握ってみると、手の内側の型が取れてしまった。使いみちはまったくないが。

こうやってみると完全に粘土なのだが、感触はひんやり滑らかな金属のそれである。違和感が半端ない。

今時点での硬さを把握したので、希望者に触らせる。まぁ、つまりは全員だ。

「こんな粘土みたいなのが、本当に硬くなんのか」

手でこねくり回して形を変えながら、サーミャが言った。その疑問は当然だろう。

「硬く出来たことはあるって言うからなぁ……」

普通の金でも加熱によって多少硬くすることは出来る……らしい。

が、これはそんなレベルでなく硬くできるらしいので、単に加熱するだけではないのだろうな。

そんな簡単なことなら、どこの鍛冶屋でもできる技術になっているはずだ。普通鍛冶屋が真っ先に試みるのは、加熱してみること、なのだから。

「魔力はこもってないんですね」

こちらはあまりこねくり回さず、色んな方向から観察しているリケが呟く。

その横からリディも眺めてフンフンと頷いているから、魔力がこもっていないのは確かなようだ。

「だとすると、硬くするための工程には魔力が関わってきそうだな」

「それが数少ない人?」

「かもな」

ディアナの疑問に俺は頷いた。加工に携わったのが魔力をこめることができる鍛冶屋だったとすると、何人かは成功していることともある程度は辻褄が合う。

この世界で俺だけが魔力をこめることが出来るわけではない。実際にリケもリディに手ほどきを受けて多少なら出来るようになってきているし、使用目的上、エルフの宝剣にはその技術が必須なのだ。

「もしそれなら楽なんだけどなぁ……」

魔力をこめれば硬くなってハイおしまい、なのであれば、俺なら楽勝である。ガンガンに魔力をこめてやるだけで終わりだ。

やったことはないが、チートを使えば魔力を抜くことも可能なのではなかろうか。それならば、まさに自由自在に扱えることになる。

「でも、それならもう少し成功例が多くても良さそうなものよね」

「そうなんだよなぁ……」

アンネの言葉に俺は首をひねった。魔力をこめることができる鍛冶屋の数は多くはなかろうが、それにしてはメギスチウムの加工に成功している数が少なすぎる。

それなら当然、魔力以外のなにかが関わっていると考えるのが普通だろう。それが何かはさっぱり分からんが。

「今日のところは置いといて、明日から色々試してみるか」

俺がそう言うと、リケからは期待の、他のみんなからは了解の声が上がって、俺はメギスチウムを神棚に安置し、みんなが出ていったことを確認すると、鍛冶場の扉を閉めた。

閉める寸前、俺の目にはメギスチウムがほんのり輝いているように見えたのだった。