軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

褒賞

謁見を終えて、俺は早速工房の後片付けをした。もしかするともう一作業くらいは必要かと思ったが、それもなかったし、工房の片付けは、思いのほか早く終わった。

持ち込んだ自前の工具を革袋に収め、火を落とした炉を最後に見上げる。

あの未知の鉱石と向き合った時間は、鍛冶屋としての確かな経験値となって俺の中に刻み込まれたように思う。

用事が済んだら帰る、というのは道理ではあるがやや失礼になるかもとアネットさんから進言があり、俺はそれに従って、翌日の帰還をすっかりお付きになってしまっていた文官さんに伝えると、

「承知しました。伝えておきますので、今日はゆっくりお過ごしください」

と丁寧に頭を下げて、伝えるためにかどこかへと向かった。

そして翌日。帰還の準備を済ませた俺たちが、文官さんに先導されて「金剛宮」を出る。待っていた馬車に乗り込もうとする俺たちに声がかかった。

「エイゾウ殿、出発の準備は整ったようですね」

振り返ると、ハリエットさんとヴィクトリアさんが立っていた。ハリエットさんの手には、ずっしりと重そうな革袋と、意匠が凝らされた小さな木箱が握られている。

「わざわざ見送りに来ていただいたんですか」

そう言うと、2人ともニッコリと微笑んだ。

「ハリエットはここまでですが、私はこの後、国境まで同乗いたします」

ヴィクトリアさんに言われて、ハリエットさんを見ると、彼女は頷いた。

「陛下からお預かりした褒賞をお渡しいたしますので」

すっかり忘れていたが、そう言えば褒賞があると言っていたような気もするな。

ハリエットさんから手渡された革袋には、帝都で普通に過ごした場合の滞在費を補って余りあるほどの金貨が詰まっていた。

そして、小さな木箱の中には、帝国の紋章が深く刻まれた銀のメダリオンが収められている。

「このメダリオンは?」

俺はそれをつまみ上げて言った。

ヴィクトリアさんが再び微笑む。

「帝国において、最上位の『国賓』であることを示す証です。それを見せれば、帝国内の関所はもちろん、軍の施設であっても通行できますし、要求すれば素材の融通も最優先で通るでしょう」

これまで国賓同然の扱いだったとはいえ、ここまでのものを公の場で一介の鍛冶師に渡す、というのは何らか問題があるのだろう。

でなければ、俺を呼び出して直々に渡した方が陛下としても箔がつくはずだし。

「随分と破格な待遇ですね。ただの鍛冶屋には少し荷が重いですが……」

俺が苦笑すると、ヴィクトリアさんは真剣な眼差しで真っ直ぐに俺を見た。

「陛下はこう仰っていました。『これほどの腕と知恵を持つ職人を、帝国に縛り付けては、かえってその才能を枯らしてしまうだろう。彼奴が最も心安らぐ場所で槌を振るわせ、帝国が真に必要とした時のみ、礼を尽くして頼るべきだ』と」

その言葉を聞いて、俺は肚の底に落ちるものを感じた。

なるほど、そういうことか。帝国は俺のことを「国家の力関係すら左右しかねない価値を持った存在」として評価しているらしい。

その上で、権力で無理に抱え込んだり首輪をつけようとしたりすれば、俺がへそを曲げて他国へ流れるか、最悪の場合反発を招くと冷静に計算したのだ。

だからこそ、あえて最大限の自由を保証し、こうして特権を与えることで「我々はあなたを特別視し、尊重している」と暗に示してきた。間接的に恩義を感じさせ、友好的な関係を維持しようとしている、ということだろう。

「帝国……いえ、陛下からの最大限の配慮、確かに受け取りました。陛下に深い感謝をお伝えください」

今度微笑んだのはハリエットさんだ。

「承知いたしました。道中、お気をつけて。そのうち〝黒の森〟の工房へ遊びに行かせてもらいますよ」

「ええ、いつでも歓迎いたしますよ」

俺はハリエットさんと握手を交わし、みんな揃って金剛宮を後にした。