軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝都へ1

「さて、今のところ順調に来ています。今後、多少何かが起きても3日もあれば帝都に到着できるかと思います」

ハリエットさんが冷静に――もしかしたら本人は愛想笑いくらいはしているつもりかも知れないが――そう言ってきた。

「何かって、皇帝陛下をよく思わない人がいるかもとか?」

つい今しがたまでヴィクトリアさんと和気藹々としていたはずの、カテリナさんが口調は何でもないようにそう言った。

だが、その目は笑っていない。リスクを見極めようとしてくれているのだろう。

危険なのに大した対策もなく突っ込むようであれば、引き返す判断をしてもいいくらいのことは言われているのかもしれない。

ヴィクトリアさんが微笑んで言う。

「それもなくはないですが。途中に山道がありまして。もし大雨でも降れば少々厳しいことになります。まあ、私の知る限りそうなることは数年に一度あるかないかですね」

「馬車は通れるのですか?」

アネットさんが割り込んで言ったが、ヴィクトリアさんは頷いた。

「もちろん。行き違いもできますよ」

となると、山道の割には結構幅が広い道だということになる。俺たちエイゾウ工房が街や都へ行くときの街道も馬車同士での行き違いはできるが、あれは森の脇の平原という場所柄、比較的道が作りやすかったことと、〝黒の森〟を突っ切ることが事実上不可能だったので、自然発生的にある程度道が出来ていたために整備できたらしいと、ディアナから聞いたことがある。

そのディアナはお父上から聞いたそうで、あの辺りを治める領主としての知識でもあったんだろうな。

さておき、山道となれば、そもそも通れる場所が限られていたりするわけで、そこに道を通すときには色々な苦労があったはずだ。

それこそ前の世界でも隧道なら崩落、そうでなくても崖崩れの危険があった。

もしかすると、とんでもなくデカい山で道を通すのに十分な谷なのかもしれないが、その場合は結構な高さまで上がることになるんじゃなかろうか。

皇女殿下は地元で慣れているだろうし、俺は前の世界で見てきた道もあるからまだいいとして、王国の2人が肝を冷やしたり、慣れない移動で体調を崩したりしないといいのだが。

「そんなわけで、明日も日がな一日移動します。馬の調子もありますし、休み休みにはなりますが」

「わかりました」

ハリエットさんが予定を伝え、俺は頷く。

この日はそれで食事を済ませ、皆早々に床についた。

翌朝。そろそろ日が昇るか昇らないかくらいのころに目が覚める。

いよいよ帝国に入ったという環境の変化で疲れが溜まり、寝過ごしたりしやしないかと若干の不安を胸に昨晩寝たのだが、1年とはいえ積み重ねてきた習慣というものは簡単には抜けないようだ。

手早く荷物をまとめ、部屋を出ると、4人とも階下で待ってくれていた。

「すみません、お待たせしましたか?」

「いえ。我々も先ほど目覚めたところです」

アネットさんがそう言った。ヴィクトリアさんが朗らかな顔で続ける。

「やはり鍛冶屋さんというのは、朝早いんですね」

「準備とかもあるんで、どうしてもそうなりますね」

俺は頷いてそう言った。「準備」には水や食事の準備も含まれていることと、ヴィクトリアさんたちの妹であるアンネが一番起きてくるのが遅いことは言わずにおく。

「さて、ここの主人に持って行ける朝食と昼食を作ってもらいましたから、早速出立しましょう」

「わかりました」

ヴィクトリアさんの言葉に頷いて顔を上げると、ハリエットさんと目が合った。

「食事も『ちゃんと』してますので、どうぞご安心を」

「はい。その辺りは心配してません」

精一杯ニッコリと笑って返すと、ハリエットさんの口角が僅かに上がる。

俺たちが宿を出ると、朝早いにも関わらず、周囲にいくらか人の気配があった。

多分夜通し警戒してくれていた帝国の人なんだろうなぁ。

俺は内心で感謝しつつ、宿の人が馬車を回してくれるのを待つのだった。