軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

代官

馬車はゆっくりと街道を進んで行く。途中、エイムール伯爵領の街、つまり、マリウスが治めている街の脇を通り過ぎる。

普段は目的地にしているところなので、少し不思議な感覚を覚えた。

「そう言えば、街の代官が代わるんでしたっけ」

俺は街を見やりながら2人のどちらにともなく言った。

魔物討伐隊ではマリウスの副官をしていたルロイが、次に街の代官になるのだという話を、マリウス自身から聞いた記憶がある。

本来はエイムール家長男が家督を継ぐにあたって、エイムール家当主と共に引退し、長男が当主として主に軍事などの荒事を、次男は事務的なところを担い、三男のマリウスは街で代官をするという話になっていた……はずだったのだが。

次男が起こした騒動――その一切は公になっていないが――のため、その話は流れ、代官の代替わりも棚上げになっている。

マリウスとジュリーさんの結婚式の時にチラッと見たが、いかにも仕事ができそうな面構えの人だった記憶がある。

しかし、あれからそこそこ時間も過ぎているし、マリウスの足場も固まってきているらしい今、代官の代替わりという話が本格化してきているのだと、それとなくカミロから聞いていた。

「そうですねぇ。本来であればとっくに交代されている方ですし、マクマホン男爵家としても、重要な街の代官を務めるとなれば中々の出世ということになりますから、押してはいるようです」

どこかのんびりした口調でカテリナさんが言った。マクマホンとはルロイの家名だ。

街はエイムール伯爵家にとってもかなり重要な収入源でもある。

そこを任せるのは、それだけマリウスがルロイを信用しているということを喧伝することにもなる。

男爵家にどれだけ息子がいるかは知らないが、ルロイ以外の兄弟を人材として売り込むチャンスでもあるので、親としてはなるべく早く実現して欲しいところだろう。

「しばらくは補佐官をつけて欲しい、とマリウス様は仰っているそうですが、それがなかなか通らないようでして」

「補佐官?」

「ええ。とても優秀な方だそうですよ」

カテリナさんは前を見たまま頷いた。

優秀な補佐官か。衛兵隊にいたルロイのことだから、治安なんかは大丈夫だろう。

となると、書類関連でルロイが自分でなんとかできるまで、優秀な補佐官をつけて欲しいと、マリウスが王国に要求しているんだろうな。

マリウスが実力を知っていて欲しがり、簡単に王国が首を縦に振らない人物、と言われると、俺には1人しか思い当たらない。

「マリウスが要求している補佐官はフレデリカさんですかね。ルイ殿下が良い返事をしないとか?」

俺は後半の言葉をアネットさんに向けて言った。アネットさんは困ったような顔をして頷く。

「そうですね。シュルター様にはここぞと言うときに働いて貰いたいから、あまり自由が利かないところにはやりたくないなぁ、と仰っておいででした」

「なるほど」

「とはいえ、シュルター様の実力に気がついている人間は今のところ少なく……これも殿下が情報を抑えて広がらないようにしているせいなのですが、表向きに断る方便も尽きようとしているようですので、いずれエイムール伯爵閣下の思うとおりになるかと」

アネットさんは大きくため息をつく。

「シュルター様の様子を窺ったことがあるのですが、どうも『誰かに守られている』ことには気づいておられるようで、それを都合が良いとばかりに利用してのびのびとお仕事をなさってました。一応、ある程度行動が縛られているはずなのですがね……」

「へえ、フレデリカさんが?」

「はい。目につくような仕事ではないのですが、辣腕なものですから、すっかり重宝されてしまって」

魔物討伐隊の時のフレデリカ嬢には、確かに優秀な事務方だなぁという印象がある。

それ以上に小動物的な可愛らしさがあると思ったのはさておき、仕事ができるなら他のことは瑣末なこととするほどの仕事人間だっただろうか。

ともかく、彼女がマリウスのところでその辣腕を振るうのであれば、領主の「友人」としても安心だ。

「彼女の実力は必要だと思うので、ちょっとの間、街で働いてもらうのがいいと私も思いますよ」

「そう殿下にお伝えしておきます」

アネットさんはそう言って微笑んだ。

この俺の一言が、フレデリカ嬢の才能を完全に開花させる切っ掛けになったと知るのは、これよりかなり後の話になるのだった。