作品タイトル不明
コミック最新6巻発売記念特別編「続いていく」
この世界には危険地帯と言われる地域がいくつかある。〝黒の森〟と呼ばれるこの森も、今では相当危険度を減じたとは言え、迷いやすく、危険な動物もいるので、危険地帯の1つとして数えられている。
そんなところにポツンと存在する空き家。かつて、ここに住み、鍛冶を営んでいた人物がいたという。
当時は今とは比べものにならないくらい危険であったはずだが、のんびりと過ごしていたらしいその人物は、今少女の前に座って微笑んでいる、リディと名乗ったエルフの女性――若く見えるが、少女にはいくつになるのか皆目見当もつかなかったし、あまり詮索しない方が良さそうだと少女は思った――とも一緒に暮らしていたらしく、少女はリディに話を聞こうとしているところだ。
リディは少女に微笑みながら言った。
「それで、アーネットさんはどこでここの話を?」
「あ、えと」
アーネットはモジモジとしながら答える。
「うちに本がありまして。物語風になってたんですけど、追いかけているうちに、これは本当の話じゃないかと思える箇所がいくつもあったんです」
「それを信じてここまで……?」
「はいっ」
目をキラキラさせるアーネットを見て、リディは頭を抱えたくなるのを必死に抑えた。共に暮らしていた虎の獣人の娘なら、きっと自分の感情が動いたことに気がついたことだろうと、彼女は思った。
「確か、エイゾウさんについては伝記を書いた方がおられたはずですが……」
リディがアーネットに尋ねる。まだ存命だった面々を訪ね歩いていた人がいたことを、リディは記憶していた。
彼はリディのところにもやってきて(その時はここにはいなかったが)色々と話を聞いていったのだが、その目的は「エイゾウの伝記を書くこと」だったはずだ。
それは後年にほんの僅かな部数だが出版され、実はそのうち一冊をリディも持っており、この家に保管してある。
部数がごく少数だったのは、二つ名は数あれども、その正体を知って凄いと思えるような功績が表向きには何一つ残していないからで、「実はこんな功績が」と主張しても、その証拠がなく、知ろうと思う人間が少ないだろう、ということからだ。
なお、それは後年それと判明しそうな証拠を全てアーネットの先祖にあたるフレデリカが、そもそも記録されないようにするか、記録されたあとでも、丹念に消したからだということをリディも知っているのだが、それを目の前のアーネットが知ったらどう思うだろうか、とふとリディは考える。
「言わぬが花」という言葉を、エイゾウが良く口にしていたなと、リディは懐かしく思い、アーネットにその事実を伝えることはしないでおいた。
「いえ、そういうものは残っていませんでした」
「なるほど……」
リディはおとがいに指をあてた。ここで全てを話しても良いものか。もうかなり昔の話でもあるし、あの「伝記」を渡してそれで終わり、ということにしても良いようには思う。
だが、とりあえずリディはまず自分の話をすることにした。
「それでは、私とエイゾウさんの出会いから話しましょうか」
「ぜひ!」
勢い込んで聞こうとするアーネットに、リディはまた微笑んで、その時の話を始めるのだった。