軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アフターエピソード5:オードル傭兵団 vs 戦鬼オードル(中編)タルカス回想

戦鬼オードルと、巨漢の大隊長タルカスの出会った時の話になる。

時は今から十数年前。

オードルがルーダの街で、身分を隠して剣闘士をしていた時だ。

『続いての試合は、本日のメーンイベントでございます!』

ルーダの街の闘技場に、司会である道化の声が鳴り響く。

『この闘技場に突如降臨した新進気鋭の剣士……“獅子剣王”の登場だぁあ!』

その言葉と共に、目の前に鉄の扉が開く。

闘技場の異様までの熱気が流れ込んでくる。

「さて、仕事の時間だな」

紹介された、獅子の仮面を被った剣士……オレは闘技場の中央へと向かっていく。

装備は上半身半裸で防具は無し。

ボロボロの両手剣を抱えている。

「「「獅子剣王! 獅子剣王! 獅子剣王!」」」

満員の観客席から、名前が連呼される。

手拍子と足踏みで、闘技場は大きく揺れていた。

「相変わらず元気な連中だな」

大興奮の観客席を見渡ながら感心する。

ルーダは学園都市と呼ばれながらも、この血なまぐさい闘技場は市民の人気を得ていた。

「まあ、日々のストレスの発散の場所は、必要だからな」

闘技場は大陸各地にあり、そのほとんどは市民の娯楽用。

酒を飲みながら賭けをして、野蛮な戦いを安全な席から眺めているのだ。

「さて、今日の相手はどんな奴だ?」

オレが訳あって剣闘士になってから、一ヶ月が経っていた。

今のところ数人の剣闘士を戦って全勝だ。

普通の剣闘士では、賭けが成立しなくなってきた状況。

興業主もそろそろ志向を凝らしてくるであろう。

『この獅子剣王に対戦するは……』

道化の声と共に、対角線上の鉄の扉が開く。

中から出てきたのは巨漢の男。異常なまでに巨大な身体の戦士だ。

このオレよりも更に二回りは大きい。

『こちらも新進気鋭の新人、危険な戦士“西方蛮族の巨人”だ!』

なるほど、西方の部族の戦士か。

あの地域の民は、かなりの巨躯だと聞いたことがある。

それに今日の対戦相手は、かなりの猛者なのであろう。

ただの筋肉馬鹿ではなく、全身から強烈な闘気を発していた。

「ほほう。あの闘気のレベルの戦士がいるとは、闘技場は意外と侮れないな」

対戦相手を観察しながら思わず感心する。

あれほどの猛者は戦場でも滅多にお目にかかれない。

剣闘士に挑戦してから、今日は初めての強者との戦いになるであろう。

傭兵としての血が湧きたる。

『ついに両者が向かい合いました。それでは……はじめぇ!』

道化の宣誓と共に、銅鑼が響き渡る。

戦いが幕を上げたのだ。

「さて、楽しませてもらうぞ、“西方蛮族の巨人”とやら!」

強者との戦いは最高の時間。

オレは歓喜の声を上げながら、巨大な戦士に突撃していくのであった。

その日の夜になる。

オレは所属する剣闘士団のテントで、酒を飲んでいた。

「さぁ、ルーオドに乾杯だ!」

「ルーオド万歳だな!」

剣闘士団の仲間が祝杯をあげてきた。

“ルーオド”は剣闘士団で名乗っている偽名。

剣闘士で本名を名乗る者は数少ないのだ。

「それにしても昼間は見事な戦いだったな!」

「ああ、さすがはルーオドだったな!」

もちろんオレは昼間の“西方蛮族の巨人”との戦いに勝利していた。

少しだけ手こずったが、結果的に圧勝したのだ。

「うぐっ……次やったら、オラ負けない」

酒宴の端で小さくなっている男がいた。

いや……小さくなっても巨大な身体の男だ。

「おい、“西方蛮族の巨人”……じゃなくて、名はタルカスだっけ? お前も、こっちで飲もうぜ!」

「そうだぜ、タルカス。せっかくルーオドの情けを受けて、買われてきたんだからよ!」

小さくなっている男は、昼間の対戦相手で名はタルカス。

本当なら試合後に殺されても、文句はない身。

だがオレが勝利した権利で、この戦士の身を買ってきたのだ。

「オラ、誰の言うことも聞かない。部族の誇りがある」

「タルカス、お前はかなりの猛者だった。オレが保証するから、酒を一緒に飲むぞ」

「うぐぐ……ルーオド。お前には助けてもらった恩、傷を治してもらった恩ある。わがった」

端にいたタルカスを、オレは酒の席に引っ張ってくる。

頑固な部分はあるが、人情に厚い一面もあるのであろう。

「じゃあ、改めて乾杯だぜ! この団の若きエースのルーオドの勝利と、新しい仲間のタルカスの加入を祝って!」

「「「乾杯!」」」

盛り上げ役の古株の音頭で、全員で杯をぶつけ合う。

加入してまだ一ヶ月ちょっとだが、ここは悪くない雰囲気の剣闘士団だ。

オレはタルカスの隣で酒を飲み直す。

「そういえばタルカス、酒は飲める歳か?」

「オラ十六の歳、酒は飲める。でも美味さ、よく分からない」

なるほど、まだ若い十六歳だったのか。

体格があまりにも立派なので、もう少し上に見えた。

大陸では十四歳から成人なので、酒も問題ないであろう。

二人で酒を飲みながら、昼間の戦いについて話していく。

「そういえば、ルーオド、なぜオラのこと助けた?」

闘技場の敗者の命の有無は、勝者が選択できる。

一般的には敗者は斬首した方が、観客は喜び、勝者は掛け金の配分を多く貰えるのだ。

「助けた理由は簡単だ。お前は未熟だったが、勇敢だった。だから助けた」

「オラが……?」

「ああ、そうだ。このオレ相手に最後まで決して諦めなかった男は、そうはいない。だから気に入った」

昼間の戦いは壮絶だった。

オレは何度もタルカスを吹き飛ばした。

だが、この男は何度も立ち上がってきた。

最終的に意識を失っても、タルカスは最後まで武器を手離さなかったのだ。

「オラが勇敢? ルーオドみたいな強い戦士に、認められた?」

タルカスは拳を握り、何やら呟いている。

もしかしたら強さに関して、何かコンプレックスがあるのであろうか。

「そういえばタルカスは、どうして剣闘士に? 奴隷剣闘士ではなさそうだが?」

剣闘士には大きく分けて二種類いる。

一つ目は戦争で負けて奴隷になり、無理やり剣闘士にされた者。

もう一つは自分の意思で、職業として剣闘士を選んだものだ。

タルカスは奴隷の入れ墨がなく、自分の意思で剣闘士になったのであろう。

「実はオラ、部族の中では臆病者だった、子どもの頃から身体は大きかった。でも臆病者、だから強くなりたくて、街に出てきた……」

なるほど、どういう理由か。

たしかにタルカスは気の弱いところがあった。

最初に武器をぶつけ合った瞬間に、オレは内面的な弱点を見抜いていたのだ。

「だが、今日のお前は最後まで勇敢だった……だろ?」

「そういえば……ルーオドと戦っている時、不思議な感じだった……まるで自分の弱さと戦っているような……」

「それがお前の弱さの根源であり、強さの根源だ」

タルカスと戦いながら、オレは対話をしていた。

言葉を交わす対話でなく、鋼と鉄を叩きつけ合い、肉体と拳をぶつけ合う戦士の対話を。

戦いながら、タルカスの戦士としての本当の力を引き出していたのだ。

「ルーオドのお蔭……ありがとう。オラ、もっと強くなる」

「お前は優れた素質があるが、未熟な部分がある。だから明日からオレが鍛えてやる」

「わがった!」

若い戦士との戦いは、時には素晴らしい収穫が多い。

タルカスとのこの出会いも、そんな素晴らしい得たものだった。

それから月日が流れていく。

オレは相変わらず剣闘士として、戦いに明け暮れていた。

戦績はもちろん全勝無敗。

自分自身への賭け金で、かなりの借金を返済していた。

「ルーオド、いくど!」

「ああ、こいタルカス!」

そんな中、新しい弟子タルカスへの稽古は続いていた。

試合のない日は常に剣を交え、タルカスを鍛えていたのだ。

「ルーオド、さっきの試合、見でだか? オラ、勝ったど!」

お蔭でタルカスは順調に成長。

闘技場でも勝ち星を重ねていった。

最初は力押ししか出来なかった若者が、戦士として大きく成長していたのだ。

そんな好調が続く、ある日の夜。

いつものように酒を飲んでいると、タルカスが神妙な顔で相談してきた。

「ルーオド、聞いでくれ。今度オラ、ビッグマッチに挑戦する!」

「ビッグマッチだと?」

ルーダの闘技場には、ビッグマッチというシステムがある。

自分よりも格上に挑むことによって、巨大な名声を得る可能性があるのだ。

「危険な戦いになるかもしれないぞ?」

たしかにタルカスは力をつけてきた。

普通の剣闘士が相手では負けることはない。

だが格上には危険な相手が多い。

力だけではどうにもならないのだ。

「わがってる。でも挑戦する、オラ!」

「だが、タルカス、危険な相手が出てくる可能性も……」

「ルーオドよりも危険な相手いない。オラ、ルーオドを鍛錬してきた。だからオラ大丈夫!」

なんと、そう反論してきたか。

「はっはっは……タルカスに一本とられたな、ルーオド!」

「だな! タルカスの言う通りだぜ! やらせてやろうぜ!」

剣闘士仲間が酒を飲みながら、茶化してくる。

まったく、こいつらときたら。

「とりあえず二対二の方式で申し込んでおけ」

だがタルカスの言い分も一理あった。

ビッグマッチを条件付きで許してやる。

仲間と戦う方式なら問題だろう。

「それって、つまり……」

「ああ、オレがついてやる」

「わがった! ありがと、ルーオド!」

嬉しさのあまり、興奮してタルカスが抱きついてくる。

巨木すら抱き潰す怪力なので、危険な抱擁だ。

だが、何とも言えない可愛さがある。

まるで身体の大きいな弟みたいな奴だ。

それから数日が経つ。

ビッグマッチの当日となった。

オレはタルカスと見慣れた鉄の扉の前に立つ。

「いよいよだ……」

「そう、緊張するな、タルカス。緊張は動きを鈍らせる。頭は常に冷静にだ」

「わがった、ルーオド!」

今日の対戦相手は、これから道化から発表される。

格上の相手だろうが、今のタルカスなら大丈夫であろう。

凄腕の剣闘士でも、一対一なら決して負けないはず。

オレは片方を受け持てば、負けることはないだろう。

『それでは今日のメーンイベントの時間でございます!』

闘技場にいつもの道化の声が鳴り響く。

目の前の扉がゆっくりと開く。

「さて、いくぞ」

「わがった!」

タルカスと前に進んでいき、闘技場の中央へと向かう。

「「「獅子剣王! 獅子剣王! 獅子剣王!」」」

「「「巨人王! 巨人王!」」」

今日はいつにもまして超満員。

興奮した観客から名前が連呼される。

手拍子と足踏みで、闘技場は地震のように揺れていた。

ちなみに連勝を重ねているうちに、タルカスは“巨人王”と名誉の名で呼ばれるようになっていたのだ。

『対戦するは……』

道化の声と共に、対角線上の扉がゆっくりと開いていく。

さて、今日の相手はどんな剣闘士であろうか。

「ん? これは……まさか?」

その時である。鉄格子の向こうに、嫌な気配を感じた。

「バカな……あれは?」

対戦相手が姿を現し、思わず声を上げる。

「魔獣だと」

中から出てきたのは巨大な獣。

禍々しい瘴気を発した魔獣だった。

『なんと対戦者は、南部地方からやってきた“死の魔獣使い”が操る“黒大熊”の魔獣だぁぁ!』

道化は大げさに驚きながら、対戦相手をアナウンスする。

なるほど、魔獣使いか。

普通の剣闘士では賭けが成立しないから、別の街から呼び寄せたのであろう。

(“黒大熊”か……)

強さ的には中位に属する魔獣だが、かなり厄介な相手だ。

鉄のように硬い体毛で、普通の武器は通じない。

攻撃力も高く、鉄の盾すら紙のように爪で切り裂くのだ。

(今のタルカスですら五分五分といったところか……)

蛮族スタイルのタルカスは防具がなく、武器は両手斧だけ。

魔獣である黒大熊が相手だと、相性が悪いのだ。

『そして、なんと! 今回は更にパワーアップ! 黒大熊があと二匹追加されますぅ!』

道化の紹介と共に、更に二匹の黒大熊が登場する。

合計で三匹の魔獣が、闘技場に現れたのだ。

「二対三だと? バカな⁉ くっ……ハメられたな、オレたち」

まさかの状況に思わず毒づく。

おそらく今回の試合は興業主に仕組まれたもの。

今までオレたちが勝ちすぎて、興業主の儲けが激減したのであろう。

「「「黒大熊! 黒大熊! 黒大熊!」」」

まさかの魔獣の大量出現に、観客席は興奮の坩堝と化す。

掛け金を更に追加して、オッズは大きく変化していく。

まさに興業主が予想した状況になったのだ。

「ル、ルーオド……どうしよう……」

まさかの対戦相手に、タルカスは足がすくんでいた。

「お前、黒大熊と……もしくは魔獣と戦ったことは?」

「オラない……それに部族の強い戦士も、黒大熊に何人も殺された……」

なるほど、足がすくんでいる理由はそれか。

故郷の顔見知りが殺されて、若干のトラウマになっているのであろう。

「自信をもて、タルカス! 強くなった今のお前なら、黒大熊の一匹なら必ず仕留められる! だからオレを信じて、そして戦士である自分に自信を持て!」

怖気づいていたタルカスの背中に叩き、激を注入する。

戦いに大事なのは、自分に自信を持つことなのだ。

「わ、わがった……オラ、自分を信じる!」

タルカスの顔に自信が戻ってきた。

こうなったら確率的には五分五分から、更に上昇するであろう。

必ずタルカスは勝利するはずだ。

このビッグマッチにオレたちは無事に勝利した。

その後、借金を返済したオレは、剣闘士を辞めて傭兵に戻る。

タルカスとはその後に再会。

オードル傭兵団の一員になり、数々の武功を上げていく。

最終的には三番隊の大隊長まで登りつめた、オードル傭兵団屈指のパワー戦士だ。

「ここから先、通さない」

そんな戦士が今、オレの前に立ちはだかる。

(タルカスか……久しぶりだな)

現役時代のオレと唯一、パワーで互角だった大隊長タルカスと、戦うことになった。