作品タイトル不明
アフターエピソード3:帝都編、開幕
フェンと黒魔狼族との戦いから、月日が流れる。
オレたちオードル一家は今、帝国の首都“帝都”に引っ越してきた
目的は、マリアが帝国大学に入学するためだ。
いつものように、まずは住まい探しから始める。
「久しいな、戦鬼よ。リッチモンドから話を聞いている。この屋敷を自由に使うが良い」
「皇帝ガル。塔の戦い以来だな」
だが引っ越してきた初日、いきなり住まいが決まった。
屋敷を提供してきたのは、皇帝ガル本人。
大国の君主とは思えない数少ない護衛だけ引き連れ、オレを出迎えにきたのだ。
広大な帝国領を総べる君主が直々に、帝都の上級街を案内してくる。
まさかの皇帝自らの出迎えに、オレ以外の家族は恐縮していた。
「だがオレたち一家は、帝都には一年だけの滞在の予定だぞ?」
「構わん。この屋敷は私の別宅の一つ。くれてやるから、好きに使うがよい」
「それなら有り難く借りておく」
皇帝自らの好意ならば、無下にも断ることもない。
帝都の上級街にある屋敷に、オードル一家は住むことになった。
住んでみて分かった。
この屋敷の場所は帝国大学からも近く、マリアの通学にも適している。
おそらくリッチモンドが皇帝に、進学のことを話していたのであろう。
「さて、戦鬼よ。リッチモンドの話によると、この後は職も探すのであろう? それなら帝国の重鎮の役職がちょうどあいておる? 一年間だけも、どうだ?」
「断る。今のオレは一般市民。普通の仕事を自分で探す」
皇帝ガルは悪い奴ではない。
だがマリアのために帝都でも、堅気の職に就く。
それに重役は一年間だけ、というのは怪しい。
一度就いたら、オレを逃がすつもりはないのであろう、この皇帝は。
ガルは武人肌に見えて、戦場でもなかなかの策士だったのだ。
「オヌシなら、そう答えると思っていたぞ。それなら私の方から、この屋敷に遊びに来るしかないな。美味い酒でも手土産にしながら?」
「勝手にしろ。だが帝都でも、オレは静かに暮らしていく」
「そうだな。肝に銘じておこう、戦鬼よ。いやこれからは“ルーオド”か」
戦鬼オードルが生き延びていることを、知っている者は数少ない。
帝都でも“ルーオド”という偽名で、静かに暮らしていくつもりだ。
この皇帝なら秘密も、ちゃんと守ってくれるであろう。
「あと何か困ったことがあれば、いつでも私に言ってこい。ではさらばだ」
そう言い残して皇帝ガルは、屋敷から去っていく。
帰りは地下通路から、城に戻っていった。
説明によると、この屋敷は有事の際の城から脱出経路。
そのため秘密の地下通路を使えば、帝城まで一直線に移動できるという。
だがそんな大事な屋敷を、部外者であるオレに与えていいのだろうか?
何故ならオレがその気になれば、地下通路を使い帝城に潜入。
一気に皇帝の私室まで、到達することが出来るのだ。
まぁ、あの皇帝は器が大きい。
オレのことを信用しているのであろう。
「さて、お前たち、荷物の搬入をするぞ」
帝都での住まいが決まった。
こうしてオードル一家の新しい暮らしがスタートするのであった。
◇
その後、帝都での暮らしは順調に進んでいく。
マリアは帝国大学に入学。
リッチモンドの紹介状のお蔭で、スムーズに進んだ。
八歳の入学試験の合格は、大学史上で最年少だった。
「パパ、大学は凄いんだよ! 色んな分野のことが細かく勉強できるの!」
大学の通うマリアは、毎日を楽しそうにしていた。
周りのクラスメイトや教授は、全て歳上の環境。
今までにない分野の知識に、マリアは果敢に挑戦していっていたのだ。
「オードル、ニースの話も聞いて」
四女のニースも、帝都の学園に通い始めた。
こちらは系列の上位学園。
大学と同じ敷地内にあるので、マリアと毎日一緒に通学している。
ニースはまだ幼い六歳。
感情を表に出すのは、あまり得意ではない。
だが勉強は他の誰よりも、一生懸命やっていた。
姉マリアに追いつこうと、毎日楽しそうに勉強している。
「マリアさん、おはようですわ!」
「あっ、クラウディアちゃん! おはよう!」
そういえば伯爵令嬢のクラウディアが偶然、同じ時期に帝都の上位学園に入学してきた。
何でも令嬢修行の一環として、一年間だけ帝国に留学してきたという。
マリアとは授業は別になってしまった。
だが同じ敷地内なので、登下校とランチはいつも一緒にいた。
「ニースさんには、今日はこのオカズを差し上げますわ!」
「クラウディア、いいやつ。ありがとう」
ちなみに上位学園で、ニースとクラウディアはクラスメイト。
新たなるコンビとして、けっこう仲良くしていた。
「オードル様、それでは仕事に行ってまいります」
リリィも元気にしていた。
帝都で人気のパン屋で働き始め、職人として修行をしている。
王国とは違う文化のパン作りに、リリィは充実した毎日を送っていた。
彼女が今まで修行してきたのは、ルーダの街と王都。
それにオレの故郷。この帝都で四ケ所目になる。
「む? この深い味は……」
「どうですか、オードル様?」
最近、リリィが焼き上げたパンの味が、格段に上がっていた。
今までの各地の修行の経験が、ついに花開いてきたのであろう。
リリィの新たなパンが帝都でも、食我が家の卓を賑やかに飾っていた。
「それじゃ、オードル。私も行ってくるわ!」
エリザベスも元気だった。
今朝も帝都での職場に、出発していく。
「ねぇ、オードル、聞いてよ! 帝国の騎士の連中も、なかなか骨があるヤツがいるのよ!」
彼女が毎日通っているのは帝城。
食客騎士として、一年間だけ就職したのだ。
帝国の騎士たちに混じって、剣の修行をしている日々。
「帝国軍は王国に比べて、武人が多い。学ぶことが多い」
「たしかに、そうよね。他の国の剣術は、けっこう勉強になるわ」
普通は他国の騎士は、帝国軍には入団できない。
それに加えてエリザベスは王国のお姫様。
だから今回の件は、皇帝ガルが認めた特例。
客としてエリザベスは帝国軍で修行していたのだ。
新たな刺激を受けてエリザベスは、ますます剣の腕を上げていくであろう。
『ワン!』
ああ、そうだったな。
フェンも元気にしている。
故郷の仇を討った後も、フェンは相変わらずの調子だった。
普段はマリアやニースの、登下校の護衛の仕事をこなす。
あとパン屋にいるリリィの警護も同時に。
『ワン! ワン!』
ああ、そうだったな。
オレとエリザベスと遺跡探索にも、フェンは同行。
遺跡に巣くう魔獣を対峙して、エリザベスとフェンは腕を鍛えていた。
対魔獣のエキスパートとしてもフェンは、以前より大きく成長していっていた。
『ワン!』
なんだと、違うだと?
帝都の美味しい食べ物を、もっと食べたいだと?
まったくお前という奴は……相変わらずの食い気が、全開だな。
まぁ、その方がフェンらしい元気だがな。
こんな感じで我が家の皆は帝都で、順調に暮らしている。
最後にオレも。
帝都では探偵”という仕事に就いている。
探偵は帝都にだけにある、特殊な仕事。
困った市民からの依頼に基づき、さまざまな調査や警戒業務を行う業務だ。
持ち込まれる依頼は、多岐に渡る。
身辺調査や揉め事の解決。
他人に迷惑をかけず、法に触れないことをメインに行っていた。
特に貴族からの依頼が多く、オレの得意技が生かされる職務だった。
ちなみにダジル商店の時を同じように、完全な歩合制の仕事で、仕事の時間も自由。
オレは1日で一週間分の仕事を終わらせて、あとの時間を有効に使っていた。
「やあ、オードル。みんな、順緒そうだね?」
そういえばリッチモンドも、たまに帝都の屋敷に遊びにくる。
この旧友は帝国大学の臨時教授の任にも、就いていた。
王国から帝都にきた時に、毎回オレの屋敷に遊びに来るようになっていたのだ。
「ふむ、久しいな、我が友リッチモンドよ」
「ガルも相変わらず元気そうだね。それじゃ、三人で乾杯しようよ、オードルも一緒にさ?」
「そうだな。頂戴するとするか」
リッチモンドがウチに遊びにきた時は、皇帝ガルも毎回やって来る。
秘密の地下通路を、私用に使ってお忍び来訪だ。
いつも屋敷のオレの部屋で、男三人で晩酌をする。
「ふむ、このツマミは美味いな」
「それはオレの娘、マリアが作った郷土料理だ」
「なるほど。実に美味いな」
「ガル、マリアちゃんは料理だけじゃなくて、勉強も凄いんだぞ。何しろ若干八歳にして、帝国大学のカリキュラムを、凄いスピードで履修しているからね!」
「ほほう。それはたいしたものだな。この戦鬼の娘子が賢人とは、不思議なこともあるものだな。さて戦鬼よ。余にも八歳の息子がいる。将来は嫁にどうじゃ?」
「断る。マリアの伴侶はマリアが自分で決める。それが我が家の家訓だ」
「でもガルの提案も、面白いかもよ? もしもマリアちゃんが次期皇帝のお嫁さんになったら、オードルは将来の帝国の国父の一人になるよね? それにエリザベスも王国の姫殿下だから……大陸有数の二大国家を、オードルが牛耳ることになるかもね⁉」
「ほほう? それは面白そうな話だな、我が友よ。そうなった私は、オードルの部下として大陸統一の手伝いでもするか」
「ガルとオードルの共闘か……それも面白いね! きっと大陸の歴史に、名を刻むことになりそうだね!」
こんな感じで、いつもオレの話で、二人は盛り上がっていた。
オレは苦笑いしながら、楽しく酒を飲んでいる。
帝都にいる間だけの、悪くない交流会だ。
こうして我が家の帝都での暮らしは、順調に進んでいく。
◇
「さて、そろそろ、アイツ等の顔でも見に行ってみるか」
そんなある日、オレはかつての部下たち……オードル傭兵団の前線基地を、訊ねることにした。