軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アフターエピソード1:白魔狼フェンの戦い(前半)

オードル一家が王都から、村に無事に帰還。

それから日が経つ。

一年ぶりの故郷での暮らしは、前と変わらず。

ゆったりとした時間が流れていた。

そんな中、オレたち一家の村での暮らしも、順調だった。

元聖女リリィは前と同じように、村のパン職人の下で修業を再開していた。

彼女は見習いを既に卒業していた。

最近では自分オリジナル新作パンを、よく作っていた。

リリィが目指しているのは、彼女の故郷のパンの味。

あの頑張りだと、完璧に再現する日も近いであろう。

女剣士エリザベスも元気にしていた。

前と同じように、村での重労働を手伝っている。

主に農作業や山林の開墾に精を出して、村の発展に寄与していた。

また自警団の青年たちを鍛えて、楽しそうに剣も振るっている。

王都から持ってきた可憐なドレスの出番は、当分の間は無さそうな様子だ。

娘マリアと妹ニースも元気にしていた。

村に戻ってきてからマリアは、村の学校の教壇に立つようになっていた。

そう……マリアは先生として、村の子どもたちに、勉強を教える側になったのだ。

リッチモンドの話によると、今のマリアの学力は王都の学者並らしい

教師マリアは楽しそうに、村の子どもたちに勉強を教え日々だ。

最後にオレの近況。

前と同じように、村の何でも屋として働いていた。

村長から依頼があれば、何でもやる。

農作業や山林開墾、害獣の駆除など多種多様だ。

歳を取ってきた村長の爺さんを、陰で助けていた。

そういえば女鍛冶師ヘパリスからプレゼントされた、あの古代の腕輪。

村でかなり役立っていた。

あの腕輪は頭の中でイメージするだけで、どんな形にも変形できる。

お蔭で農機具や大工道具として、オレは重宝して使っていた。

本来のヘパリスの意向とは違うが、いつか会った時に報告しておこう。

村にいる我が家の全員は、こんな感じで順調に今日も暮らしていた。

なに?

またフェンのことを忘れているだと?

実は今、フェンは村にいないのだ。

あいつは三日前、何も言わず村を出て行ってしまったのだ。

「ねぇ、オードル。やっぱりフェンのことが心配よ……後を追っていこうよ!」

「心配するな、エリザベス。あいつは自らの意思で“戦い”にいった。フェンの覚悟を尊重してやろう」

フェンは三日前に出陣していた。

「でも、相手は黒魔狼の群れなのよ……」

フェンが倒すべき相手は、因縁の黒魔狼族の群れ。

自分の生まれ故郷を滅ぼし、未だに故郷を占拠している魔獣の群れ。

フェンはたった一人で、戦いに向かったのだ。

「心配するな、エリザベス。今のフェンは強い。それはお前も知っているだろう?」

「知っているわよ! でも向こうは群れで、フェンがたった一人なのよ……」

黒魔狼族には一対一で戦う習慣など、もちろんない。

フェンはたった一人で、全ての相手を倒す必要があるのだ。

「たしかにフェンが勝てる可能性は、ギリギリだ。だがアイツは自分の意思で、一人で出発した。それはお前も分かっているだろう?」

三日前、フェンは急に、オレに相談してきた。

……『家族の仇を取るために、故郷を奪い返すため、ボクは一人で戦いに行きたい』と。

フェンはいつになく真剣だった。

アイツのあんな表情は初めて見た。

だからオレは承認したのだ。

「それは、そうだけど……でも、やっぱり心配すぎるわ!」

エリザベスがここまで心配するのも、無理はない。

フェンの故郷を襲った黒魔狼は、少なくても十数頭はいる。

上位魔獣である黒魔狼は、数頭だけでも国が亡ぼせる驚異度。

客観的に見ても、明らかに無謀な戦いなのだ。

「あっ、パパ! ここにいたんだ!」

そんな時、マリアがこちらに近づいてきた。

エリザベスとの重い話は、いったん中断する。

「ねぇ、パパ。これフェンのために作ったの! 村で伝わるお守りなんだって!」

手渡してきたのは、安全祈願のお守り。

マリアはフェンの事情を知らない。

だが何かを察していたのであろう。

だから丹精込めて、マリアは三日もかけて編んでくれたのだ。

「こんな難しいのを、たった一人で編んだのか、マリア?」

「うん。だってフェンは大事な家族だから。マリアの大好きな妹なんだよ!」

マリアは満面の笑みで答えてきた。

きっとフェンのことが、内心では心配なのであろう。

だが、それを見せないように頑張っていた。

姉として妹フェンを、心より応援しているのだ。

「でもマリア。お守りってね。その人が身に付けていないと、効果がないのよ……」

「あっ、そうか! そういえば、そうだね、エリザベスお姉ちゃん。どうしよう……」

エリザベスに指摘されて、マリアはハッとなる。

急にフェンのことが心配になったのであろう。

「大丈夫だ、マリア。このお守りはフェンに、オレが渡しておいてやる」

「えっ? でも、パパ、フェンは、もう遠くに行っちゃったんだよね……」

「急いでいけば、まだ間に合う。だから、安心して待っていろ」

「うん、パパ! ありがとう! マリア、良い子で留守番しているね!」

せっかくのマリアの編んでくれたお守りだ。

本人イン届けない訳にはいかない。

こうしてオレはフェンの後を追うことにした。

村を出発してから、一日が経つ。

「たしか、この先だったな」

オレは北の山岳地帯に到着した。

この先にフェンの故郷、今は黒魔狼族が占拠している場所があるはずだ。

「ちょっ……と、ま、待ってよ、オードル……これ以上は走れないわ……」

息を切らしたエリザベスが、後ろから追いついてきた。

どうしてもフェンのことが心配になって、こいつも一緒に駆けてきたのだ。

「ここから先は、慎重に歩いていく。それにしても駆けるのが、だいぶ速くなったな、エリザベス?」

村からここまで、オレはかなりの速度で駆けてきた。

森と山岳地帯の最短距離を、闘気術を解放して疾走。

前までのエリザベスなら、途中で挫折していたはず。

だが遅れてはいたが、ちゃんと付いてきたのだ。

「ふう……わ、私も魔女との戦いの後から、鍛錬を欠かしていなかったから。いつかオードルに勝つための鍛錬をね!」

息を整えながら、エリザベスは闘気を漲らせていく。

ほほう、たいしたものだな?

なるほど確かに剣技だけではなく、基礎体力もかなり上がっている。

おそらくオレが見ていないところで、厳しい鍛錬を積み重ねていたのであろう。

「そうか。それなら帰りは、更に速度を上げられそうだな」

「えー⁉ あれよりも速く駆けられるの⁉ まったくオードルは底が見えないわね……」

「お前の動きは、まだ無駄が多いからな。さて休憩も終わりだ。ここから先は気配を消していくぞ」

ここか先は黒魔狼族の危険なテリトリー。

警戒して進んでいく。

「でも、オードル。フェンがここに到着してから、日が経っているけど、本当にまだ戦いは続いているの?」

「そうだな。オレの予想では二日前にフェンは、ここに到着している。上位魔獣同士の戦いは、長期戦になりやすい。とにかくフェンの気配を追っていくぞ」

「そうね……フェン、お願いだから……生きていてちょうだい……」

エリザベスは神に祈っている。

何しろフェンの相手は、危険な上位魔獣。

しかも十倍近い戦力差があるのだ。

「エリザベス、フェンを信じてやれ。何しろアイツは白魔狼族の中でも、特別な存在だからな」

「えっ……特別な存在だったの、フェンって?」

「ああ、そうだ。オレが若い時に白魔狼族のボスと、一度だけ戦ったことがある。かなりの強敵だったが、今のフェンはそれよりも強い」

「そうなんだ……というかオードル、白魔狼族とも戦ったことがあったのね?」

「ああ、そうだ。戦いというよりは、決闘みたいものだったがな……」

当時を思い出す。

若かりしことのオレは、各地で武者修行にも励んでいた。

その中で、この近くの山岳地帯を通りかかった時に、白魔狼族の群れと遭遇。

その時のボスと戦ったのだ。

「ちなみに、その時の戦いの結果は?」

「オレが勝った。ボスの身体に一撃くらわせて、勝負がついた」

瀕死になったボスを、オレは治療してやった。

何故なら相手は正々堂々と、一対一の勝負を挑んできた高貴な戦士。

たとえ上位魔獣だったとしても、オレは無益な殺生はしないのだ。

「あの時のボスも、かなり強敵だった。だが、それに比べても、フェンの潜在的な戦闘力は、別格だ」

「つまりフェンは“白魔狼族の天才”ということ?」

「そうかもしれないな。まぁ、調子に乗るから、アイツには言ったことはないがな。それにアイツは優しすぎる性格だからな」

この三年間の中の、戦いを思い返す。

基本的にはフェンは、大きな戦いに参加はしていない。

戦いの時は、いつもマリアやリリィの警護を担当していた。

なぜならフェンは無益な殺生を好まない。

だからオレが意図的に、戦いから外していたのだ。

「だが今回は、あいつの意思で出陣した。フェンが本気を出したら、どうなるか……正直なところ、オレでも予想がつかない」

フェンは今回、自らの意思で戦いに赴いた。

初めて本当の自分の力、上位魔獣である“白魔狼族の天才”を出すつもりなのだ。

「そっか……それなら、少しだけ安心かも」

「ああ、そうだな。ん? これは……あの先に何かいるぞ。警戒しろ」

会話に気を取られ、気が付くのが遅くなってしまった

黒魔狼族の危険なテリトリーに、オレたち足を踏み入れていたのだ。