作品タイトル不明
第116話:最凶の魔女
マリアとニースを助け出すために、天空に浮かぶ遺跡に潜入。
いくつもの難関を突破して、古代の神殿のような空洞に到着。
そこで待ちかまえていたのは黒髪の魔女。
マリアとニースを助け出すため、魔女と戦う。
ついに黒髪の魔女を打ち倒すことに成功。
だが魔女によって、マリアの身体が乗っ取られてしまった。
『ひと足遅かったわね……戦鬼よ』
マリアが口を開く。
だが口調はいつもの明るい娘の声ではない。
無機質な魔女の口調だった。
『ふっふっふ……』
口元に浮かべるのも、天使のようなマリアの笑顔ではない。
悪魔のような表情だった。
「魔女め……キサマ……」
最悪のことが起きてしまった。
まさかのことに、オレは思わず言葉を失う。
先ほどの攻撃の時も、油断をしていた訳ではない。
魔女の反応速度を超える域で、全力で攻撃を放った。
だが魔女はオレを盗んで、ネックレスを移動させていたのだ。
一体いつの間に魔女は。
『言い忘れていたけど、戦鬼。さっきまでの“黒髪の女の肉体”……あの者は腕利きの盗賊だった者よ』
マリアが……いや、マリアの身体に宿ったモノ。
魔女は勝ち誇った笑みで語ってきた。
まるで種明かしするように誇らしげだ。
「腕利きの女盗賊……だと?」
なるほど、そういうことか。
先ほどの早業は肉体の方の技術。
だからオレも見逃してしまったのだ。
それにしても、あの状況でそこまで早業。
黒髪の女はもしかしたら大陸東部では、かなり名を上げた女盗賊なのかもしれない。
『これでお終いね、戦鬼? お前たちの負けだ』
「何を勝ち誇っている、魔女よ。忘れたのか? お前の術は、オレたちには通じないんだぞ!」
魔女に剣先を向け、気合の声で威嚇する。
正直なところ、マリアの身体を乗っ取られてしまったの、計算外。
オレ自身にも動揺はかなり大きい。
「降参しろ、魔女!」
だが戦場では“弱み”を見せた方が負け。
心を鬼にして、魔女に闘気をぶつける。
『降参しろ……ですって? 面白い冗談ね、戦鬼? お前の方こそ忘れていないのかしら? 大事なこの娘の身体の命は、この私が……』
まずい!
「ガラハッド、いくぞ!」
「承知です!」
魔女が動き出す前に、先制攻撃をしかける。
ガラハッドと連携して、一気に間合いを詰める。
「 斬(ざん) ぁああん!」
「 覇(は) ぁあああ!」
魔女が動き出す前に、斬撃を放つ。
先ほど同じようにガラハッドとの同時攻撃。
次元の壁の隙間を狙う必殺の一撃。
狙いはマリアの胸元のネックレス。
今度こそ魔女の本体を破壊してやる。
「くっ⁉」
だが思惑は外れた。
斬撃を放ったガラハッドが、声を漏らす。
神速の一撃が通らなかったのだ。
「ちっ⁉」
オレも同様だった。
必殺の一撃が、次元の壁に防がれてしまったのだ。
「オードルさん、これは……」
「ああ、二重の壁だ」
魔女を覆っていたのは強固な防御壁。
なんと“次元の壁”が二重に渡って展開。
オレたちの必殺の攻撃が完璧に防御されてしまったのだ。
くっ……これはマズイ。
オレたちは後方に退避。
魔女から距離をとって、剣を構え直す。
『あら、今のは何だったの? まさか攻撃のつもり?』
魔女は余裕の表情を浮べていた。
『くっくっく……これは凄いわ! 力がドンドン漲るわ! 先ほどのまでの肉体とは比べ物にならない、圧倒的な魔力があるわ!』
新たなる肉体……マリアの肉体の力に、魔女は酔いしれていた。
たしかに今の魔女から感じる圧力は、先ほどまでとケタが違う。
だが何が要因なのだ。
「まさかマリアの肉体の影響なのか?」
『ご名答よ、戦鬼! でも、この子の素質というよりは、アナタの血が要因かしら。稀代なる王であり、戦鬼であるアナタの血統のね!』
魔女は勝ち誇った顔で、歪んだ笑みを浮かべていた。
その顔はもはやマリアのものではない。
《……パパ……パパ……》
その時であった。
オレの頭の中に、誰かの声が聞こえてくる。
《パパ……痛いよ……パパ……》
聞こえてきたのは聞きなれたマリアの声。
だが今まで聞いたことがない悲痛な声だ。
《パパ……暗いよ……パパ……痛いよ……パパ……》
マリアの悲痛な声が頭の中に響き渡る。
オレ以外には聞こえていないようだ。
これはマリアの魂の声。
身体と精神を乗っ取られているマリアが、必死で助けを求めているのだ。
「マリア! 今助けるぞ!」
思わずオレは、魔女に斬りかかる。
大事な娘の叫びを聞いて、思わず感情的になってしまったのだ。
最大限の闘気を込めて、魔女の防御壁の隙間を突き刺す。
『無駄な足掻きを!』
「くっ⁉」
だが無駄だった。
渾身の一撃は、またも空中で停止。
二重の防御壁を突破できなかったのだ。
『次はこっちから行こうかしら、戦鬼?』
魔女は漆黒の炎を出現させる。
明らかに危険な炎だ。
『高まったのは防御力だけじゃないわ! 皆殺しよ!』
魔女は漆黒の炎を放つ。
先ほどの漆黒の槍とは比べ物にならない圧。
広範囲の攻撃術だ。
「エリザベス、フェン! リリィたちを頼む!」
後方の二人に指示を出す。
同時に愛剣で衝撃に備える。
少しでも後方に庇うように構える。
「ぐっ⁉」
直後、漆黒の爆炎が爆ぜる。
凄まじい威力であった。
全身が吹き飛ぶかと錯覚する爆炎。
「キャァア!」
『キャン!』
後方から、エリザベスたちの悲鳴が上がる。
安全なはずの後方まで、衝撃波が届いていたのだ。
恐ろしいほどの広範囲の威力。
周囲は粉塵で、視界が遮られてしまう。
しばらくして粉塵も落ち着き、視界が戻る。
「お前たち、大丈夫か?」
前方の魔女を警戒しがら、後方の仲間の安否を確認する。
「オードル、こっちは大丈夫……と言いたいけど、しばらくは動けないわ……」
『ワン……』
エリザベスとフェンはかなりのダメージを負っていた。
非戦闘員のリリィとリッチモンドを必死で守って、代わりに負傷してしまったのだ。
「オードル様、こちらか構わず、マリア様をお願いします!」
「ああ、そうだ。こっちは何とか避難するから!」
リリィとリッチモンドはダメージを受けていた。
エリザベスとフェンのお蔭で、何とか無事だ。
これで後方の四人の安否は確認できた。
あと一人……ガラハッドを確認する。
「申し訳ありません、オードルさん。まともに食らってしまいました……」
まさかの事態だった。
今まで無傷であったガラハッドが、致命傷を負っている。
左腕が変な方向に曲がっていた。
おそらく漆黒の爆炎の爆心地に、オレよりも近い場所にいたのであろう。
だが命の火はまだ消えていない。
剣聖は片膝をつきながら、必死に立ち上がろうとしていた。
「無理はするな、ガラハッド」
予想上の被害。
たった一撃で、仲間たちが行動不能に陥ってしまったのだ。
あと一撃でも追撃を受けたら、間違いなく全滅。
つまりオレの戦い方は一つしかない。
「ここから先はオレ一人でやる。お前たちは下がっていろ」
「ですが、オードルさん。その身体では……」
先ほどの漆黒の爆炎を受けて、オレも全身にダメージを負っていた。
後方のエリザベスたちを守るために、オレ自身が盾となったのだ。
大剣を盾代わりにしていたとはいえ、かなりの重傷を負ってしまった。
「オレの怪我か? こんなモノは問題ない!」
今のオレは激痛を無視していた。
何故ならマリアに比べたら……自由を奪われた娘の苦しみに比べた、全身の傷など皆無ふさわしいのだ。
『ほほう? 今ので死なないとは、さすがは戦鬼の肉体ね?』
「余興は今の終わりか、魔女? 寒かったから、ちょうど 暖(だん) が欲しかったところだ」
『くっくっく……その余裕も、いつまで持つのかしら』
オレの強がりに対して、魔女は余裕だった。
今の攻防で確信したのであろう。
自分はもはや無敵の存在なったと。
《……パパ……痛いよ……頭が割れるように、痛いよ……パパ……パパ……》
またマリアの悲痛な叫びが聞こえてきた。
おそらく魔女が力を行使するたびに、小さなマリアに多大な負担がかかっているのであろう。
「マリア、待っていろ。オレが……パパが今すぐ助けてやる!」
オレは魔女に向かって歩き出す。
大事な娘にこれ以上苦しめたくない。
一魔女のネックレスを、今度こそ破壊してやる。
「お待ち下さい、オードルさん! あの二重の次元の壁を、どうやって攻略するつもりを? 先ほどまでの策は、もはや通じませんよ!」
制止してくるガラハッドの言葉は一理ある。
何しろ今の魔女の無敵状態。
二重の次元の壁によって、防御力は完璧。
更に攻撃力に至っては、前の数倍上なのだ。
「策か……策ならある。少々強引だが、あの次元の壁なら、オレの【本気の斬撃】で貫通は可能だ」
「【本気の斬撃】? まさか……オードルさん、今までは本気の一撃ではなかったのですか?」
ガラハッドは目を見開く。
オレの言葉の真意に、剣聖は直感的に気が付いたのだ。
「そうだな。オレの【本気の斬撃】なら、おそらく破れる」
オレには今まで繰り出さずにいた必殺の一撃があった。
“傭兵時代に習得した全ての技と力”
“今まで練り込んできた闘気術の全て”
“巨大な塔すらも両断する愛剣の破壊力”
その全ての全てを組み合わせて、戦鬼と呼ばれたオレの最大級の一撃。
傭兵時代に一度だけ、試しに放ったことがある。
あの時は空気を……いや、今思うと“次元”を切り裂けてた。
あの必殺の一撃なら、魔女の二重の次元の壁を貫通できるであろう。
「なんと……まさか、そんな奥の手を隠していたとは……オードルさん、あなたには完敗ですね」
「だが、この奥の手は大きな問題がある。“手加減”ができないのさ」
【本気の斬撃】なら二重の次元の壁を貫通可能。
だが最悪の場合、マリアの身体まで傷つけてしまう危険性もある。
魔女を倒すことは可能でも、大事な娘を傷つけてしまうのだ。
「だから、その技は使わない」
「ですがオードルさん! 恐れて普通の攻撃では、あの魔女には届きすらしませんよ⁉」
ガラハッドは珍しく声を荒げる。この男はひたすら強さのみ探求する剣聖。
奥の手を出し惜しみするオレに反対なのだ。
「心配するな、ガラハッド。あの二重の次元の壁を破る策は、もう一つある」
「もう一つですと?」
「ああ、簡単なことだ」
オレは愛剣を地面に突き刺す。
他にも全身に装備していた武装を全て解除。
上半身も裸になった半裸状態になる。
「まさかオードルさん……」
「ああ、そうだ。戦う意志がなければ次元の壁は通れる」
先ほど戦いながら魔女は言っていた。『次元の壁は害意ある全てのものを自動防御で断絶』すると。
つまり“魔女に危害を与えないモノ”は、次元の壁は防御できないのだ。
「さぁ、マリア、待っていろ。今から助けにいくぞ」
こうしてオレは全ての武装を解呪して、娘の元へと進んでいくのであった。