軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

くまのぬいぐるみ

王都の郊外にある闘技場は、馬車で一時間半の距離であるにも関わらず、大勢の人達で溢れていた。

闘技場をぐるりと囲むように露店が並んでいて、ディルクにとってはそちらのほうにきになって仕方がないらしい。

「見て! くま、くま!」

ディルクは射的店のくまのぬいぐるみを指さし、欲しいと訴える。

乳母車から乗り出して危ないので、体を支えつつ言葉をかけた。

「ディルク、もうすぐ父上の出番なんだ。かっこいい魔法を見たいだろう?」

「いやーーーーー、いいの、いらない!!」

父が聞いたら泣いてしまうかもしれない発言を繰り出す。

こういう状態になったら、聞く耳なんて持たないだろう。

甘やかすのはよくないが、今日は特別な日でもあり、長い一日でもある。

ぬいぐるみ一つでディルクがご機嫌でいるのならば、安いものだろう。

「母上、ディルクがあのぬいぐるみを欲しがっているようで、手に入れたほうがいいと思っているのですが」

「そうですね」

母は従僕にくまのぬいぐるみを取ってくるよう命令する。

その姿を、ディルクは父が付与魔法を使うときよりもキラキラな眼差しで見つめていた。

「きゃっ、きゃっ!」

「ご機嫌ねえ」

エルマがディルクに微笑みかけ、頬をつんつん突いている。

母は呆れた様子で「普段からこうだったらいいのですが」と呟いていた。

従僕はくまのぬいぐるみを狙うも、なかなか仕留められないでいた。

エルマも挑戦するも、結果は同じ。

「くっ、あと一回!」

「エルマ、それくらいにしないと」

彼女の賭博好きな部分に火がつく前に止めておく。

母が店主に金貨一枚で買わせてくれないか、と交渉するも、断られてしまった。

「うちは射的店としての誇りがあってねえ! 金で景品を売ることはできないんだ!」

そうとわかれば、狙い撃つしないあのだろう。

「店主、私にも弾と踏み台を用意してくれ」

「おや、お嬢ちゃんがやるのかい?」

「ああ」

何か言いたそうな顔をしたものの、代金を払うと踏み台と弾を持ってきてくれた。

使う銃は短銃で、威力はそこまで強いようには思えない。

「どれ、弾を入れてやろうか?」

「いいや、大丈夫」

先端にコルク弾を詰めるだけの簡単な銃である。やってもらうほどの複雑な手順はない。 一回につき弾は三つ。

すでに従僕とエルマで二十発は打ち込んでいるだろう。そのうちくまのぬいぐるみに命中したのは五発くらいだったか。そこそこ大きなぬいぐるみなので、一回当てただけではびくともしなかったのである。

踏み台の上って銃を構えた。すると、その様子を見ていた店主が話しかけてくる。

「お嬢ちゃん、構え姿がさまになっているねえ。誰かに習ったのかい?」

「……父に」

一度目の人生のときに、「男は狩猟もできなければ!」などと言って、禁猟期以外で暇さえあれば王都の郊外にある森に連れ出されていたのだ。

そんなわけで嫌というほど、銃は握ってきたのである。

狙いを定め、 引き金(トリガー) を絞る。

するとまっすぐ飛んで行ったコルク弾はくまのぬいぐるみに命中した。

しかしながらわずかに揺れるばかりで、落ちる様子はない。

「惜しい!!」

店主はそんなことを言ったものの、くまのぬいぐるみには重石が付けられているのだろう。軽いコルク弾が当たった程度で落ちるわけがなかった。

こうなったら、とある作戦に出た。

「おじさん、もう一つ、銃を借りてもいい? 一気に弾を詰めてから撃ってみたいんだ」

「ああ、いいよ」

もう一丁、短銃を借りてコルク弾をぎゅっと詰め込む。

両方の銃を左右の手に構え、同時に撃った。

コルク弾は額とお腹に命中し、そのまま倒れ込む。

ごと!! とぬいぐるみらしからぬ音を立てながら落ちていった。

店主はぽかんとしていたものの、命中を知らせる鐘を鳴らしながら「三等命中!」と叫んでいた。

ディルクだけでなく、母やエルマも喜び、ぎゅっと抱きしめられる。

私がもみくちゃになっている隙に、店主はぬいぐるみに仕込んでいた重石を外していた。

あんなものが取り付けられていたら、当たっても落ちないはずである。

「お嬢ちゃん、おめでとう」

「ありがとう」

二発同時に撃つのはルール違反だと言われるかもしれないと思ったが、素直に景品を渡してくれた。

そこそこギャラリーもいたので、言えなかったのかもしれないが。

いつの間にか人を集めていたようだ。

六歳児がくまのぬいぐるみを仕留めたので、我も我もと客が殺到している。

目立ってしまって恥ずかしい気持ちになったものの、ディルクのためだ。

くまのぬいぐるみをあげると、ディルクは大喜びしてくれた。

「ねーね! ありあと!」

「いえいえ」

嬉しそうにくまのぬいぐるみを抱きしめる様子を見ていたら、恥ずかしさなんてどうでもよくなった。

そんな中で、背後より突然声がかけられる。

「おい、お前!!」

「ん?」

振り返った先にいたのは、さらさらとした銀の髪に、スミレみたいな紫色の瞳を持つ少年。

「君は――」

「お前、どこの誰だ? 二丁の銃を巧みに操り、ぬいぐるみに命中させるなど、ただ者ではない」

「!?」

聞き覚えのある尊大な物言いに、無駄に整った顔立ち、それから胸に竜の家紋が縫われたサーコートに身を包んだ姿。

間違うわけがない。

彼はヴィルオル・フォン・バーベンベルク。

私のライバルであり、尊敬すべき 男性(ひと) であり、一度目の人生さいに仲よくなりたかった張本人だった。