軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

337 話は良く聞きましょう

――莉奈は。

その後の事は良く覚えていないが、気付いたら白竜宮のとある部屋のソファで寝ていた。

多分、いや絶対、フェリクス王に抱えられて来たに違いない。

お姫様抱っこ……な訳がないから、肩に抱えてか脇に抱えてだろう。荷物か私は。

――ボボッ。

「あ〜あ〜あぁ」

顔があんなに近くにあったし!!

なんなら吐息がかかってたし!!

「あ〜!!」

莉奈は再び思い出し、ソファの上で悶絶するのであった。

◇◇◇

「リナ、なんか大変な事になってたね」

「見てて面白かった」

いつまでも、ソファの上で悶えている暇などなく、莉奈は真珠姫の宿舎にいた。

空気を読んで手伝いに来てくれた近衛師団のアメリアと、たまたま居合わせた警備兵のアンナがいる。

面白かったと他人事なのがアンナである。

「しっかし、スゴイよね。この部屋。コンセプトは何なんだろう」

アメリアが真珠姫の部屋を見渡し、口をポカンと開けていた。

自分も趣味が良いとは思わないが、これよりはマシだと思う。

いや、逆に何か極みを感じると感嘆する。

「なんか知らないけど『おめでとう』って言いたくなる部屋だよねぇ」

「それ分かる!!」

アメリアとアンナが楽しそうに笑っていた。

「シュゼル殿下にそう伝えとく」

「「うわぁ!! 嘘うそ。ステキナ部屋デスヨ!!」」

莉奈に棒読みで言われ、誰が改装したのか思い出した2人は、慌てて否定していた。

ーー2時間後。

真珠姫の部屋は入り口のレースはそのままだが、ほぼ跡形もなくなった。

あの紅白ピンクの垂れ幕は、残念ながら撤去させてもらった。

シュゼル皇子には悪いけれど、あんな垂れ幕の掛かっている部屋で寝たくはない。落ち着かないし。

しかし、こんな改装をしたシュゼル皇子の自室って、どんな感じなんだろう?

エギエディルス皇子に訊いてみようかな。

「変われば変わるモノだな」

「「っ!?」」

その突然の声と姿に。近衛師団兵のアメリアと警備兵のアンナは、飛び跳ねるようにして距離を取った。

それもそうだ。ヒョイと現れたのは王竜だった。

「王も真珠姫の部屋を見たのですか?」

この口振りから、改装前の部屋も覗いた感じがする。

2人は怯えているけれど、莉奈は怖くないので飄々としていた。

「あやつが、この世の終わりみたいな 表情(かお) をして部屋から出て来た時に少し」

「あぁ〜」

この世の終わりって、真珠姫は余程ショックだったに違いない。

「人の趣味をとやかく言うつもりはないが、アレはないと我でも思う」

「アハハ」

莉奈はもう笑うしかない。

「リナ」

「はい?」

「コレをやるから、我の部屋も改装してくれ」

そう言って王竜は、右手でカリカリッと自身の首を掻き毟り、ポロポロと5枚程、鱗を床に落とした。

とうとう、王竜も改装を求めますか。

苦笑いしながら、莉奈は王竜が無造作に掻き毟って落ちた鱗を拾った。

学校で使うノートより少しだけ大きいその黒い鱗は、宝石のオニキスか 黒曜石(オブシディアン) みたいでもの凄く綺麗だ。

表面はツルッとしているし、想像以上に軽い。土や埃を洗い流して乾いた布で磨き上げれば、自分の顔が映るに違いない。

「5枚もイイのですか?」

破格も良い所である。

口とは裏腹に、莉奈の瞳は爛々としていた。

「皆で分けるとイイ。その娘も、金食い虫を番に持ったからな」

王竜はチラッとアメリアを見た。

金食い虫……そう言えば、アメリアの黄色の竜【 琥珀(こはく) の月】も女の子だ。確かに改装にはお金が掛かったし、すぐに破壊されたりもするし、これからもお金は掛かるだろう。

アメリアとアンナに1枚ずつ渡し、後は手伝ってくれる誰かにあげよう。勿論、1枚は莉奈の懐にも入れた。

「あ、あ、あ、ありがとうございます!!」

ビクビクしながらも、アメリアは頭を何度も何度も下げていた。

怖いけれど嬉しいみたいだ。

「あたしもいいんですか?」

アンナがササッと莉奈の背後に隠れながら、王竜に近付いて訊いた。

関係のない自分にまで、こんな貴重なモノを良いのかと。

「直に必要になる」

王竜は思わせ振りに笑った。

その口振りに、莉奈はまさか? と思った。

この話の流れからして、竜がアンナを? そう感じ取ったーー。

ーーのだが、勘の悪過ぎるアンナの言動に愕然とする。

「んじゃ、早速鱗売って砂糖をいっぱい買って来るね!! だから、アイスクリーム、ケーキ、お菓子を作ってよ、リナ!!」

「イヤいや、アンナ聞いてた? 直にーー」

「そうだ! この間、部屋のソファを燃やしちゃったから、ソファも新しいのを買おう!! ベッドも脚が折れて傾いてるし、カーテンビリビリだし、王竜様ありがとうございました〜!!」

「ちょっと、アンナ!?」

「アハハハハ〜ッ、ソファにベッドにアイスクリーム!!」

王竜の話どころか、莉奈の話にも一切耳を傾けなかったアンナは、一方的に喋りまくるとケラケラ笑いながら走り去ってしまった。

あの子、本当に人の話を聞かないよね。

鱗の対価が王竜の部屋の改装なんだって事、全然聞いてもいないし。

「何をしたら部屋のソファが燃えるんだ?」

アメリアは色んな意味で唖然としていた。

暴れているんじゃない? アンナだし。

「王はどんな部屋がいいですか?」

すっ飛んで行ったアンナは放っておくとして、真珠姫みたいに忘れたら大変だと、王竜に訊いた。

レースやリボンなんか好みではないだろうし。

「簡単に、黒い布を部屋全体に掛けてくれれば良い。こんな飾りなどいらん」

王竜は、真珠姫のレースやリボンをウンザリした目で見ていた。

ただ、ログハウスか馬の宿舎みたいに、木が剥き出しの壁がつまらないと言う。それを隠す程度で良いらしい。

「食事用の台と、天窓はいかが致します?」

「飯用の台はどうでもいいが、星は見えた方がいい。とにかく、ゴテゴテさせんでくれ」

「色は黒一色ですか?」

「一色。あぁ、そうそう、部屋の端にこのくらいの頑丈な台を」

ついでに作ってくれ、と王竜は手を使って高さを指定した。

高さ的に1mくらいだろうか。食事用の台ではなさそうだ。

「何に使うか訊いても?」

「枕にする」

――ま・く・ら!!

アメリアは目を丸くしていたけれど、莉奈は苦笑いしていた。

そういえば、以前祖母が飼っていた犬は、ソファの縁やぬいぐるみを枕代わりにしていた。

人間と同じで頭が楽なのだろう。

「なら、台の上に藁を詰めた硬めのクッションを、付けておきます」

「任せる」

莉奈と交渉し満足した王竜は、去り際にチラッと真珠姫の部屋を見て鼻で笑うと、ノシノシとどこかへ歩いて行くのであった。