作品タイトル不明
338 あぁァァーっ!!!!
王竜が強請るリノベーションは、他の竜より簡単で小1時間程で出来た。
漆黒の布を壁紙みたいにピシッと皺なく貼ると、堅苦しい気がするので、あくまでも皺が適度に残るように貼った。
星空を眺めたいと言っていたので、天窓は他の竜よりも大きめに、入り口にはカーテンを備え付けた。
意外と器用だから、必要なら自由に開け閉めするだろう。
もちろん、枕代わりの台とクッションも用意したよ。
全部真っ黒ではと思ったので、黒に近いグレーの布を使用してみた。
藁入りのクッションは侍女達に手伝って貰い、天窓は近衛師団兵にお願いした。
お礼だと、それぞれに王竜の鱗を手渡したところ、侍女達はいらないと近衛師団に譲っていた。その代わりに何かお菓子を作って欲しいと、莉奈に頼んできた。
近衛師団兵は、それを兵の財源として倉庫に保管しておくらしい。
莉奈は万が一の備えとして、アメリアは記念に部屋に飾ると、ものスゴく嬉しそうに笑っていた。
アンナは……鱗を1枚あげたら、ケラケラ笑いながら街に出て行ったままだけど。
ーーそんな、すったもんだがあった翌朝。
「リナーーっ!!」
またしても、ラナ女官長に呼ばれた莉奈は、引き摺られて銀海宮の食堂に来た。
まだ日も昇っておらず、起きているのは侍女数名、料理人、夜勤の警備兵くらいなものだ。
とうとう、安眠にも支障が出るとは。莉奈は眠い頭と格闘していた。
そして、連れて来られた先には、超が付く程ご機嫌の真珠姫の姿があった。
真珠姫の周りには、なんだか花がたくさん咲いている様に見える。
その内に、莉奈の住む 碧月宮(へきげつきゅう) に直接顔を出すに違いない。
「遅い目覚めですね。リナ」
「すみません?」
と謝罪したものの、日が昇っていませんけど? と莉奈は思う。
「部屋を見ました」
「はい」
「天井から掛かるレースと言うモノが、私のように繊細で綺麗です。花を模したリボンなるモノも可愛い。良くやりました」
自分で繊細とか言っちゃうんだ。
真珠姫はウットリと満足そうに言うと、ピュルル〜とご機嫌な声を出した。
人間で言うところの鼻歌に近いのか、ものスゴくご機嫌な時でないとしない行動らしい。
「手伝ってくれた2人にも、伝えておきますね」
真珠姫から直接の方がと言ったんだけど、名前を聞いても顔が分からないと言うので、莉奈は自分から伝えておくと言った。
特にアメリアなんて、嬉しくて泣いちゃうだろう。
まぁ、アンナには何一つ響かないと思う。
「コレは私からの気持ちです」
そう言って窓から顔を出した真珠姫は、手を差し出し莉奈に何かを手渡した。
「ん? ありがとうございます?」
貰ったモノはズシリと重かった。
ーーなんだコレ?
色は赤っぽくて、大きさ的にも形的にもラグビーボールのよう。外見はアーモンドみたいなシワがある。
軽く叩いてみると、表皮はコンコンとものスゴく硬く、何かの種か実の様な感じがした。
「あの?」
真珠姫、コレは何ですか? と訊こうとしたのだが、すでに空に溶けて行った後だった。
「……」
説明して〜真珠姫。本っ当に自由だよね、竜ってば。
莉奈は空笑いが漏れていた。
「何を貰ったの?」
真珠姫が去り、落ち着いたラナ女官長が歩み寄って来た。
その種か実はなんなのだと。莉奈の持つモノを不思議そうに見ていた。
「知らない。何コレ?」
「「さぁ?」」
皆に見せて訊いてみたところ、誰も見た事がない様子だった。
ならばと、莉奈は【鑑定】をかけて視た。
【テオブロマ・カカ王】
神の食べ物とも呼ばれ、主に熱帯地域の森にひっそり生息する、アオギリギリ科の常緑樹の種子。
ーーは? 神の食べ物!?
なんだソレはと、莉奈はさらに詳しく鑑定を掛けて視た。
【テオブロマ・カカ王】
神の食べ物とも呼ばれ、主に熱帯地域の森に生息する、アオギリギリ科の常緑樹の種子。
〈用途〉
種子をそのまま粉砕し服用すれば、胃腸薬。
マナの葉と混ぜ精製するか、ポーションと混ぜると疲労回復剤。
種子を発酵、焙煎した後、精製し砂糖を加えると甘いお菓子になる。
〈その他〉
食用である。
クリオロ、フォラステロ、トリニタニオ等、色々な種があるが、秘境に生るフロバニー種が特に美味。
うっわぁ〜 "甘いお菓子"。
んん? 甘いお菓子でカカ王?
カカオウ。
カカオ……ウ。
「……」
莉奈は鑑定した途端にゴトンと、その種子を床に落とした。
カカ王なんてものスゴく偉そうな名称だけど、発酵や焙煎して精製なんて書いてあるし、絶対カカオじゃんコレ。
なんてモノをくれるんだよ真珠姫。
恩を仇で返すなんてヒドイよ。
「「リナ?」」
皆が心配しながらも、眉を寄せていた。
莉奈が種子らしきモノをガン見した後、硬直して動かなくなったと思えば、今度は半泣きである。
鑑定したに違いないとは思うが、ソレがなんだったのか。
莉奈が衝撃を受けるくらいのモノだった、という事しか分からない。
「皆サン、コレハ見ナカッタ事ニ」
首をギギと動かして、皆に仄暗い笑みを浮かべた。
こんなモノ、シュゼル皇子に見せる……いや、バレた日には、地獄しかない。皆のためでもあるのだ。
莉奈はその【テオブロマ・カカ王】をそっと 魔法鞄(マジックバッグ) にしまった。
「「ひぃっ!!」」
ラナ女官長と侍女モニカの、引き攣った声が聞こえた。
莉奈の表情が、異様に怖かったのだ。
「な、なんなのよ。ソレ」
ラナ女官長が、怖さより好奇心が勝り、つい訊いてしまった。
「ラナもモニカも皆、地獄を見たくなかったら……ね?」
「な、な、なんだか分からないけど、分かったわ!!」
「「よ、良く分からないけど、分かった!!」」
莉奈のタダならぬ雰囲気に、皆は圧倒されーー。
口を噤むと約束したのであった。