軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

規格外馬車での旅は快適でした。

館馬車という名の 人工遺物(アーティファクト) に揺られて移動すること、数時間。午前中に王都ドラヘルンを出発したので、そろそろお昼ご飯が近づいてきている時間だった。

館馬車内の探索をしたり、与えられた個室でくつろいだり、応接間で雑談を楽しんだりしていた 悠利(ゆうり) 達は、従者に案内されて食堂へと足を運んだ。そこは、お屋敷の食堂という感じの豪華なお部屋だった。間違っても馬車の中ではない。

一人ずつ席に案内され、かつ、座るときに従者の皆さんが椅子を引いてくれるという至れり尽くせり感。大半が庶民である一同は困惑しつつも、大人しく席に着いた。

なお、特に動揺もせずに従者の動きを受け入れていたのは、従者一同から見てお嬢様に当たるマリア以外では、アリーとティファーナの二人だけだった。多分、偉い人と接することもある二人は、こういう対応にも慣れているのだろう。

ちなみにジェイク先生は、従者の皆さんの行動などよりも、室内の調度品や装飾に興味があったらしく、何も気にしていません。安定です。

「苦手なものなどありましたら、お気軽にお申し付けください」

そう恭しく一礼した従者の言葉を合図に、料理が運ばれてくる。そう、順番に。

一つ一つ丁寧に料理が運ばれてきて、説明がされて、実食という流れだ。何も考えずにいただきますと食べている仲間達を見つつ、悠利は思った。これはコース料理的なアレだ、と。

流石は領主夫妻に仕える方々によるおもてなしというところだろうか。馬車の中なのにコース料理が提供されるのだから、常識がどこかに吹っ飛んでいる。

とはいえ、もてなされる側が庶民であることを考慮してくれているのか、そこまで難しいテーブルマナーを要求される料理は出てこなかった。端的に言えば、ナイフとフォークとスプーンが簡単に使えれば食べられるような料理ばかりである。

……悠利はお箸文化で育った民なので、テクニックを要求されるような洋食には苦戦するのだ。ナイフとフォークで魚の骨を取るとか、バナナの皮を剥がすとか、そういうのは悠利には高難易度ミッションなのである。そういうのがなくて助かった、ということだ。

「最初に出てきた料理、美味しかったねぇ。アレもっといっぱい食べたい」

「お代わりできるか聞いてみたらどうだ?」

「出来るかな?」

「知らん。マリアさんに聞いてくれ」

「解った」

いわゆる前菜に当たる皿をペロリと食べたレレイが、手元のパスタをもりもり食べながらそんなことを言っている。隣の席で食事中のクーレッシュはそれをいつものようにあしらっていた。

レレイがとても気に入った前菜は、生ハムの載ったグリーンサラダだった。レタスやキュウリだけでなく、いわゆるスプラウトと呼ばれる色々な野菜の新芽や、ハーブなども入ったサラダだ。ドレッシングはオリーブオイルに柑橘系で酸味をつけたさっぱりとしたもので、そこに生ハムの塩気が加わることで良いバランスに仕上がっている。

単純に生野菜を食べるだけでは物足りないところを、食べ応え抜群の弾力のある生ハムがパンチを加えてくれていた。肉食組には生ハムでパンチが加わっているのがボリュームを感じさせ、小食組には柑橘系の酸味とハーブの効果で食べやすく仕上がっている。

ただ、たくさん食べたい民のレレイには量が足りなかったらしい。普段はレレイの言動をたしなめる側のラジも、似たような顔をしているので大食い組は前菜もたっぷり食べたいらしい。

「マリアさーん、さっきの料理ってお代わり出来るー?」

「あら、気に入ったの? 言えば持ってきてくれると思うわよぉ」

「やったー。すいませーん! さっきの生ハムのサラダ、お代わりくださーい!」

マリアの言葉を聞いたレレイは意気揚々と壁際に控えている従者に声をかける。元気はつらつとしたその呼びかけに気分を害した風もなく、従者は承知しましたと一礼して去っていく。少しして、レレイの前に彼女が希望した生ハムサラダが置かれていた。

そのレレイの行動でお代わりを頼んでも良いらしいと理解した皆は、この後出てくる料理を食べながら気に入ったものがあったらお代わりを希望しようと思うのだった。

「このパスタ、味付けとかよりも麺が美味い……」

「解るー。いつも食べてるのよりもちもちしてる」

「だよな?」

「うん」

パスタを食べながらカミールが呟けば、ヤックも同意する。味付けはシンプルなカルボナーラなのだが、何よりパスタそのものが美味しいのだ。普段食べているパスタよりも少し太めの麺に感じるが、それを差し引いてもこのもちもちとした食感がどこから来ているのかが解らない。

噛めば噛むほどに仄かな甘みを感じるのも不思議だった。普段彼らが使っているパスタは乾麺なのだが、それとはひと味違う気がしてならないのだ。

そして、そのもちもちとしたパスタの食感が、カルボナーラのクリーミーで濃厚な味わいにとても合っている。ベーコンではなく塩漬け肉が使われているのもポイントなのかもしれない。肉の旨みがソースに溶け出して何とも言えない風味だ。

「乾麺じゃなくて生麺なのかもしれないよー」

「それでそんなに食感変わるっけ?」

「変わると思うよ。後は、粉の配合とかが違うかもしれないけど」

フォークで巻いたパスタを口に運びながら悠利が答えると、カミールとヤックはなるほどなぁと言いたげにパスタの皿を見ていた。食べ慣れた乾麺とは違うもちもち食感のパスタに興味津々という感じだった。

まぁ、すぐに美味しいから良いやという感じで、考えるのは止めてしまったが。美味しい料理を味わうのは大切なので。

皆がパスタを平らげると次に出てきたのは白身魚のムニエルだった。丁寧に下処理されて臭みがない白身魚は、火の入れ方も抜群に美味いことが解るとおり、ふわりとした食感を残していた。これ以上火を入れたら固くなるギリギリという見極めがされているように思える。

塩胡椒とハーブで下味を付けられたシンプルなムニエルは、濃厚なバターの旨みで食べ応え抜群に仕上がっていた。ナイフで切ると簡単にほぐれ、フォークで口に運ぶときに壊れないように注意しなければいけないほどだ。

「この魚、物凄く柔らかいなぁ」

「柔らかいのにちゃんと弾力があるのも不思議ですよね」

「口の中でこう、じゅわっと味が広がるのが美味い」

「解ります」

にかっと笑うミルレインに、ロイリスも同意するように微笑んだ。普段アジトでもムニエルを食べることはあるが、素材が違うのか、道具が違うのか、ワンランク上と感じてしまう味わいだった。勿論、普段の料理だってとても美味しいと思っている彼らだが。

調味料の味もバターの味もあるのだが、何より味に深みをもたらしているのは魚の持つ旨みだった。柔らかく優しい味わいが口の中に広がって、何とも幸せな気持ちにさせてくれる。

それはイレイシアも同じだったのか、実に幸せそうな表情でムニエルを食べている。人魚である彼女は魚介類が好物なのもあって、肉よりも魚料理に喜ぶのだ。一番好きなのは生の魚、つまりはお刺身状態のものなのだが、火を入れて調理をした魚も彼女は大好きなのである。

食べやすいように一口サイズに切ってからムニエルを口に運ぶイレイシア。上品に口を開け、口元が汚れないように注意しながら咀嚼する。ゆっくりと味わうように食べているその表情は、見ているこちらが笑顔になるほどに嬉しそうだった。

続いて登場したのは焼き野菜とキノコのソテーの盛り合わせだった。美味しそうに焦げ目の付いた人参、ジャガイモ、パプリカ、ナスが彩りを添え、全体をきゅっと締めるように複数のキノコのソテーが盛り付けられている。焼き野菜の上にはバジルソースがかけられており、それもまた目に楽しい。

「魚も良いですけど、こういう野菜の料理が出てくるとホッとしますねぇ」

そんなことを言いながら、ジェイクは焼き野菜をフォークで突き刺して口へと運んでいる。小食組に分類される学者先生としては、がっつりお肉やバターたっぷりの魚料理よりも、野菜やキノコの方が落ち着くらしい。まぁ確かに、たくさん食べても胃もたれはしなさそうな感じである。

軽く塩胡椒をして焼いてある焼き野菜は、野菜の旨みそのものを楽しめる。バジルソースも丁寧に作られているのか奥深い味わいで、口の中を落ち着かせてくれる。人参には甘みがあり、ジャガイモはまろやかな味わいだ。パプリカは甘みと仄かな苦みを持ち、ナスはジューシーさが実に魅力的だった。

キノコのソテーはバターがキノコの風味を引き立てている。少々胡椒が強めに使われているが、それがアクセントとして良い仕事をしていた。焼き野菜の方があっさりしているので、キノコのパンチの効いた味わいが対照的で実に良い。

続いて出てきたのはチーズの盛り合わせだった。色々な種類のチーズがカットされ、口直しのように皆はそれをつまむ。詳しい種類は解らないまでも、色も形も食感も違う複数のチーズはどれも美味しくて、皆は満足そうな顔をしている。

チーズは製法や材料によって味が異なるもので、一皿にこうやって色々と盛り付けてあると何とも豪華な料理に見えてしまう。食べやすい一口サイズにされているので、ひょいひょいとつまめるのが実に良い。

「チーズ、美味しいですねー」

「フラウやアロールがいたら喜んだでしょうね」

「そうですね」

ティファーナの意見に、悠利は同意した。今回お留守番であるフラウとアロールの二人はチーズが大好きなのだ。アロールは好物を知られるのが恥ずかしいのか隠そうとしているが、皆にはバレバレである。その二人なら、このチーズ盛り合わせをさぞかし喜んで食べただろうなぁと思うのだ。

何せ、マリアの実家で使われている食材である。チーズのグレードも高いのだ。食べ慣れた種類のチーズに見えて、味の奥深さが全然違う。これは間違いなく高級品だと悠利は思うのだ。

「キュー?」

「あ、ルーちゃんはご飯終わったの? 美味しかった?」

「キュピ!」

どうしたのー? と言いたげに声をかけてきたルークスに、悠利は笑顔で問いかける。ルークスはその問いかけに満足そうにぽよんと跳ねた。その前には、中身が綺麗に食べ終わった器が置いてあった。

ルークスは野菜炒めが好物だとマリアが話をしておいてくれたので、上品に作られた野菜炒めが用意されたのである。明らかに従魔のスライムに食べさせるのは勿体なく感じるような美味しそうな野菜炒めであったが、それもおもてなしなのだと皆は理解した。ルークスも含めて歓迎されているのは嬉しいものである。

チーズを食べ終わると残っているのはデザートと紅茶だと説明された一同は、お腹に余裕のある面々は美味しかった料理のお代わりを頼んでいた。悠利を含む小食組は、チーズを食べ終わったらデザートと紅茶でいいやという感じであった。

お代わりを楽しんでいる面々の傍らで、悠利はデザートを味わっていた。デザートとして提供されたのは、各種果物の盛り合わせとベリーソースのかかったバニラアイスだった。果物の爽やかな甘みを堪能し、ベリーの酸味とバニラアイスの濃厚な旨みを味わうという実に素晴らしいデザートだった。

そんなことを思っていると、何やら嬉しそうな声が聞こえた。

「え? 本当にこれ食べて良いの? 良いの?」

「良いよ。アイスはあんまり得意じゃないんだ」

「美味しいのに……」

残念だね、みたいな反応をするレレイと、その彼女にアイスの入った器を差し出しているラジの姿があった。甘味が苦手なラジは、アイスも苦手だったらしい。なお、果物の甘みは平気なので、果物盛り合わせの方は美味しく食べている。

そのやりとりを聞いた悠利は、チラリと傍らのアリーに視線を向けた。こちらは気にせず黙々と果物の盛り合わせもベリーソースのかかったアイスを食べている。

「アリーさんは出された甘味は割と普通に食べますよね」

「自分から望んで食べたりしないだけで、出されたもんは食うぞ」

「そういう人の方が強いですよね」

「強いって何だ……」

相変わらず意味の解らんことを、みたいな反応をするアリーに、悠利はあははと笑った。強いという表現は少し違うかもしれないが、出されたものを何でも食べられるというのは強みだと思っている悠利である。人付き合いにおいてかなり大きなポイントだと思っている。

なお、紅茶好きのアリーなので、出された紅茶は満足そうな表情で飲んでいる。良い茶葉が使われているだけでなく、淹れ方も実に見事なのである。また、好みで使うようにと用意されているミルクや砂糖、レモンなどに関しても一級品だ。その紅茶が美味しくないわけがない。

悠利も砂糖とレモンを入れたレモンティーにして美味しく飲ませていただいている。温かい紅茶を飲むと、ホッと人心地ついた感じだ。コース料理のように順番に出される料理に、もしかしたら少し緊張していたのかもしれない。

そこでふと、悠利は思った。この料理の出し方は、イタリアンのコース料理っぽいなぁ、と。以前少しだけ調べたことがあるのだが、フランス料理のコース料理と、イタリア料理のコース料理では料理の種類や出す順番が違っていたのだ。チーズが入っていたこともあって、悠利の中ではイタリアンっぽいなぁという感じになったのである。

とはいえ、ここは異世界だ。イタリアンだのフレンチだのと言っても通じないだろうし、余計なことを口にして面倒くさいことになるのもごめんだ。あくまでも心の中でとどめておくだけである。

特筆すべきは、こうやって一品一品順番に提供される料理に皆は慣れていないが、マリアは慣れ親しんだ食事という感じで食べていたことだろうか。普段はそういうのを見せないが、やはり彼女は領主夫妻の元で育ったお嬢様だということである。

「マリアさん」

「何かしらぁ?」

「邪魔にならない時間で良いので、厨房を見せて貰えたりしますか?」

「……貴方、興味を持つ場所が本当にそこばっかりなのねぇ」

「はえ?」

館馬車の従者達に何かを頼むなら、彼らの主筋であろうマリアに頼むのが早いと思った悠利なのだが、呆れた顔でため息をつかれてしまった。悠利としては、こんなに美味しい料理を作れるような厨房がどうなっているのか気になっただけなのだが……。

ちなみに、風呂やトイレといった設備に関しては既に確認済みである。厨房だけは既に準備に取りかかっているということで、お邪魔になるだろうと遠慮したのだ。この後は片付けがあるだろうが、夕飯までの時間になら見せてもらうことが出来るんじゃないかと思ったのである。

そんな安定の悠利に、マリアも、アリーも、ティファーナも、困ったように笑うのだった。相変わらずだなぁと言いたげな皆の視線を受けて、何でと言いたげに首を傾げる悠利と、そんな皆を見て同じように身体を傾けて首を傾げるようなジェスチャーをするルークスがいた。

その後、厨房の見学をさせてもらってご満悦の悠利と、一宿一飯の恩義と言わんばかりに掃除を手伝って感謝されるルークスの姿があるのでした。場所が変わっても相変わらずの主従なのでありました。