軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴァンパイアの都市に到着です。

のんびりと 人工遺物(アーティファクト) である館馬車の旅を楽しんでいた 悠利(ゆうり) 達。振動すら感じないという快適な状況で、なおかつ個室があって、風呂もあるという至れり尽くせりな状態。数日に及ぶ馬車の旅のはずが、ちっとも疲れていない一同だった。

そんな中、不意に従者がマリアを呼びに来た。

「マリアお嬢様、もうすぐ転移門だそうですので、一度御者の元へお願いできますでしょうか?」

「えぇ、解ったわ。それじゃあ皆、少し行ってくるわねぇ」

「「いってらっしゃーい」」

従者の言葉を聞いたマリアはウインクを一つ残してそのまま去っていった。元気にお見送りした悠利達であるが、何でマリアが御者のところへ行くのかはさっぱり解っていなかった。答えを知っているだろうかと大人組に視線を向けるも、彼らも知らないらしく首を横に振るだけだった。

しばらくして、役目を終えたのかマリアが戻ってきた。何があったのか興味津々で声をかける子供達……、と言いたいところだが、一番食いついたのはジェイクであった。

「マリア、何故貴方が呼ばれたのでしょうか? 転移門と何か関係が?」

「……ぐいぐい来るわねえ」

「そもそも、転移門を通るならば我々は馬車を降りることになると思っていましたが、違うのですか?」

「説明するからとりあえずちょっと離れてちょうだいねぇ。うっとうしいから」

「……はい」

思いっきり顔が近かったジェイクは、マリアにやんわりと押しのけられて素直に引き下がった。それはもう思いっきり距離が近かったのだが、その辺りも安定のポンコツジェイク先生というところだろうか。

ジェイクが引き下がったところで、マリアは口を開く。悠利を含めて他の面々も興味津々なので、ちょっとした講演会みたいな雰囲気になっていた。

「私が呼ばれたのは、転移門を起動させるためよ。起動させるには領主夫妻かその子供がいることが条件なの。でも、 人工遺物(アーティファクト) である館馬車の中にいると認識されないから、御者のところに行ってきたのよ」

「つまり、その転移門は血縁を認識して起動することが出来ると? そんな設定が出来る転移門が……?」

「……一応仮にも領主の所有物なので、話を聞く程度は許されても調べるためにいじくり回すのは無理よぉ?」

知的好奇心スイッチが入ったっぽいジェイクに、マリアは静かな口調で釘を刺した。普段のマリアならジェイクの行動をある程度スルーしているが、流石に実家が絡んでくると多少はブレーキを踏むらしいと思った一同だった。

そんなマリアの言葉に、ジェイクはぱちくりと瞬きを繰り返した。ついで、心外ですねぇと言いたげな空気を醸しながら口を開いた。

「嫌ですよ、マリア。流石に僕だって、それぐらいの常識は弁えています」

「……そう?」

「そうですよ。ね、アリー」

「…………あー、まぁ、本人がそう言ってるならそうなんじゃねぇか?」

「アリー!?」

何でそこで同意してくれないんですか、と驚愕の表情を浮かべるジェイク。しかし、聞いていた一同はだってなぁと言いたげな反応だった。知的好奇心スイッチが入ってしまうと、相手の都合も情緒も考えずにぐいぐい行っちゃうジェイクしか彼らは知らないのだ。空気を読むとか、相手の立場を考えて自重するとか、そんな器用な芸当が出来るとは思わなかったのである。

何せ、先日デュークが《 真紅の山猫(スカーレット・リンクス) 》のアジトを訪ねてきたときなど、出立の時間が迫っている相手に時間が許す限りの質問攻めをしていたのだ。割と際どい部分にまで踏み込んでいたように思える。そんな人が何を言うんだと皆が考えても仕方あるまい。

しかし、ジェイクにはジェイクなりの言い分があったらしい。不服そうにしながらも口を開いた。

「僕だって、相手を見極めてちゃんと退くことぐらいします」

「ジェイクさん」

「何ですか、ユーリくん」

「普段のジェイクさん見てると、それが出来るようには思わないです」

「ぐは……ッ」

きっぱりはっきり言い切られて、ジェイクは胸を押さえてその場に崩れ落ちた。そんな、ひどい……みたいなことを言っているが、誰一人としてフォローはしなかった。いついかなるときも怒ることなく、誰に対しても優しく思いやりに満ちたイレイシアですらフォローしていないという現実を、ジェイクは理解した方が良いと思う。彼に対する客観的な評価はそういう感じなので。

うじうじと拗ねるジェイクと、仕方ないじゃーんと言いたげにそんなジェイクを慰めているレレイやカミール、ヤックという微笑ましい光景をよそに、悠利はふと気になったことをマリアに告げた。

「それでマリアさん、転移門を通るために馬車から降りなきゃダメなんですか?」

「いいえ。必要ないわぁ。というかもう、転移門はくぐった後よ」

「へ?」

いつの間に!? みたいな驚きを隠しきれない悠利と、二人の会話を聞いてそうなの!? みたいになっている一同。そんな中、アリーとティファーナの二人だけはそういうタイプの転移門か、みたいな反応をしていた。流石、大人組は落ち着きが違う。

ジェイクがマリアに食いついていたところを考えても、馬車が通れるような転移門は滅多に存在しないはずである。あの学者先生の知識はかなり豊富で、書物で得た知識だけならば《 真紅の山猫(スカーレット・リンクス) 》で一番と言っても過言ではないのだ。

対してアリーとティファーナが落ち着いているのは、冒険者として様々な状況に触れてきた経験に基づいている。自分達の常識だけが常識ではないこと、この世には自分達が知らない規格外の 魔法道具(マジックアイテム) や 人工遺物(アーティファクト) が無数に存在していることを、彼らは体感として知っている。なので、そういう転移門もあるのか、ぐらいで終わっているのだ。

終わらなかったのはやはり、若手組である。特に凄い勢いで食いついたのはカミールだった。

「マリアさん、それってつまり、馬車ごと転移門が使えるってことで、荷物運ぶのめっちゃ楽ってことですか!?」

「確かに荷物を運ぶのは楽だけど、基本的に領主一族しか使ってないわよ。魔石の消費量もかなりのものだから」

「くっ……! それが使えたら行商がめっちゃ楽なのに……!」

「「カミール……」」

マリアに詳細を説明されたカミールは、物凄く悔しそうだった。そういうところが商人なんだよなぁ、と皆は思う。当人は自分をトレジャーハンターを目指す冒険者の見習いだと言っているが、言動も思考もどう考えてもカミールは商人の見習いである。三つ子の魂百までという感じで染みついている。

そんなわちゃわちゃとしたやりとりをしていると、従者が声をかけてくる。

「皆様、無事に領主館に到着しましたので、ご準備をお願いいたします」

「だ、そうよ。荷物を持って玄関ホールに集合してちょうだい」

「「はーい」」

元気よく返事をした一同は、与えられた個室へ自分の荷物を取りに走っていった。既にいつでも出立できるように荷造りは終えてあるので、それぞれ鞄を手にするだけという身軽さだ。

玄関ホールに集合した一同はマリアに誘導されて館馬車の外へと出る。そして、目の前にある大きなお屋敷、もはやお城と呼んでも良さそうな建物を見て目をまん丸にした。

「ここが私の故郷よ。ようこそ」

そう言ってお茶目に微笑むマリアの背後に、でーんと構える大きな建物。年季の入った石造りの立派なお屋敷は、やっぱりどう見てもお城だった。その向こう側に、建物とその周辺を包み込むような緑の広がりが見える。馬車の外に出て気づいたことは、この都市はぐるりと四方を山に囲まれているということだった。

お屋敷と反対側を見ると、眼下に広がるのは城下町のような風景だった。街全体をぐるりと城壁が取り囲み、その外側に緑が広がっている。山と山の間、まるで谷間に出来た平原のような場所にこの都市はあるらしいということが解った。

今いる場所から真っ直ぐ城壁の入り口であろう大きな門までをぶちぬくメインストリートらしき場所は、とても広い。悠利達が乗ってきた館馬車が悠々と走れる広さだ。中央には噴水のようなものをたたえた広場も見えて、全体的な建築様式などは普段見ているものよりも年季が入っているように感じる。

全体的に煉瓦や石造りの家が多く、その屋根は柔らかなオレンジ色をしていた。まるでそれが決まりだというように全ての屋根がオレンジ色で、木々の緑とのコントラストで何とも言えず美しい。ここがヴァンパイアの都市か、と何となく感傷に浸る一同。

そんな彼らの物思いを、一瞬でぶち壊す声が突然響いた。

「あぁ、マリア。愛しい妹。お帰り。待っていたよ!」

その声だけで多くの者を魅了するだろうと思える男性の声が、あらん限りの愛情を注ぎ込んだ甘ったるさでマリアを呼んだ。そのまま、お屋敷の方から駆けてきた勢いを殺すことなく、マリアに抱きついている。ぎゅうぎゅうと力一杯マリアを抱きしめるこの人物は、マリアの異母兄であるデュークであった。

なお、抱きしめられているマリアはといえば、顔全体に面倒くさいと書かれた表情をしていた。デュークを嫌っているわけではないのだが、彼の愛をちょっと面倒くさいとかうっとうしいとか思ってしまうのだろう。何せデュークの愛は重いので。

しばらく兄の好きにさせていたマリアは、もう満足しただろうとべりっとデュークを引っぺがした。ダンピールの怪力で引っぺがしているので下手をしたら痛みがあるのだろうが、相手はヴァンパイアのデュークである。特に問題もない感じであった。

「お兄様、いつまで皆をこんな場所に立ちっぱなしにさせるつもりなんです?」

「あ、それもそうだね。申し訳ない。皆さん、どうぞ中へ」

マリアの指摘にデュークはハッとしたように我に返り、放置状態だった一同を出迎えるホストとしての役割を思い出したようだった。そのままデュークに先導されて、一同はお城にしか見えない領主館へと足を踏み入れる。

入った瞬間一同を出迎えてくれたのは、両脇にずらりと並ぶ使用人という光景だった。赤い絨毯が目にまぶしい玄関ホールと、全員同じ角度でお辞儀をして「いらっしゃいませ」という声かけでのお出迎えだ。庶民一同、思わずビビってしまう。

平然としているのはデュークとマリア、それにアリーとティファーナだろうか。意外なことにジェイクも特に驚いた様子もなかった。穏やかにお辞儀をしている。

「ひとまず荷物を置く必要もあるでしょうから、それぞれの部屋に案内させましょう」

「お兄様、お父様達は?」

「あぁ、いらっしゃるよ。ただ、今回のホストは私だからね。父上達が出てくると話が大きくなりすぎるというか、気を遣わせるだろうからと引っ込んでおられるよ」

あっけらかんと答えるデューク。その言葉を聞いて、何人かがホッとしたように胸をなで下ろした。目の前にいるのは次期領主様ではあるが、以前交流したことで気さくな人物だと解っている。だからまだ耐えられるのだが、初対面の領主夫妻とのエンカウントは若手組には色々と厳しいものがある。

「ここには父上母上にその恋人達、そして私の愛しい弟妹達が暮らしているけれど、何か用事がない限りは関わってこないので、安心してほしい」

「全員と挨拶をしていたら日が暮れてしまいますわぁ」

「そうだねぇ。かなりの人数だからね」

「私が家を出てから増えてますの?」

「増えてるよ」

そんな暢気な会話をしている兄妹を、皆はどういう顔で見れば良いのか解らなかった。解らなかったので、案内役のメイドさん達に連れられてその場を後にするのだった。とりあえず荷物を置きに行きたかったので。

マリアだけは自室が残っているらしく、ひらひらと手を振って別方向へと歩いていった。この豪華なお城を、勝手知ったる我が家状態で歩いていくマリアの姿を、悠利達は尊敬の眼差しで見るのであった。

メイドさんに案内された部屋は、一人一部屋な上にかなり豪華なお部屋であった。まず、広い。ベッドとクローゼットと、書き物をする感じのデスクタイプの机と、ソファとセットになってる丸テーブルとが置いてある。家具がそれだけ置いてあるのに、全体の印象はゆったりしているのだから、かなりの広さなのが伝わるだろうか。

「とっても広いお部屋だねぇ、ルーちゃん」

「キュピー」

道中の館馬車でも一人一部屋だったので快適だったのは間違いないのだが、やはり領主館の方がグレードは明らかに上だった。ベッドもサイズ的にダブルぐらいはありそうだった。ルークスと二人で寝てもゆったり寝られそうだ。

個室で他の人がいない状態なので、ルークスもうきうきで室内を見て回っている。流石は領主様のお屋敷ということか、塵一つ見つからないらしい。お掃除がアイデンティティになりつつあるスライムは、ちょっぴり残念そうにしょんぼりしていた。そんなルークスの可愛らしい姿に、悠利は思わずほっこりする。

荷物は 魔法鞄(マジックバッグ) と化している学生鞄に詰め込んでいるので着替えがくしゃくしゃになることなどはないのだが、せっかくクローゼットがあるのだからとそこに移していく。それなりに年代物のようなクローゼットだが、手入れが行き届いているのか扉が軋むこともなかった。

全体的に木目を生かしたような家具が多い。この辺りの材木の特徴なのか、それともそういう色を塗っているのかは解らないが、淡いアイボリーみたいな色調の家具が多い。目に優しいというべきだろうか。

対して、カーテンは目に鮮やかな深紅である。悠利のイメージではお高い劇場とかの緞帳とかに使われているような色味だった。赤ではあるが落ち着きがあり、派手な色のはずなのに華美に感じさせないという不思議なものである。

そんなことを考えつつも荷物の整理を終えて、皆と合流しようと廊下へ出る悠利。室内も廊下もふかふかの絨毯が敷いてあり、靴の上からでも柔らかな感触が伝わる。……日本人としては、上等な絨毯の上を靴で歩くのはちょっと、いや、かなり違和感があるのだが、郷に入っては郷に従えである。土足文化の場所なので。

「おっ、ユーリも出てきたか」

「クーレにラジ。そっちも終わった?」

「おう」

ひらひらと手を振って声をかけてくれるクーレッシュに、悠利は小走りで歩み寄った。クーレッシュとラジの二人は、悠利の両隣の部屋である。客室はたくさんあるらしいのだが、色々と配慮されているのか悠利達男性陣は二階で、女性陣は三階の部屋へと案内されていた。

後で、内装が違うかどうかを見せてもらおうと思っている悠利である。レレイなら何も気にせずウェルカム状態で中を見せてくれるだろうし。お返しとして、彼女に自分にあてがわれた部屋を見せてあげれば良いだろうという考えだった。多分それで丸く収まる。

「この後ってどうする感じ?」

「マリアさんが主要な施設の案内してくれるって」

「そうなんだ」

「ちなみにリーダーはデュークさんに連れられて領主夫妻に挨拶に行ってる」

「わぁ……」

そのイベントは存在したんだなぁ、と悠利は思った。まぁ、アリーはマリアの身柄を預かっているクランリーダーでもあるので、領主夫妻としても挨拶をと言われても仕方ないのかもしれない。むしろ、彼が代表者として挨拶をしてくれることで、悠利達のようなお子様組は煩わしいイベントから解放されるのだ。ありがたいことである。

保護者面談に挑むアリーに心の中で感謝しつつ、悠利はクーレッシュ達と連れだって玄関ホールの方へと向かうのだった。マリアがどんな風にお屋敷を案内してくれるのか、ちょっぴりわくわくしながら。

その後、主要施設を案内してもらうだけでも結構歩き回ることになり、お城サイズのお家って大変だなぁと思う悠利なのでした。日常生活だけでウォーキングが出来そうだなと思ったのは内緒である。